LATEST NEWS 2016年1月18日

世界銀行で働くために必要なこと、働き続けるうえで大切なこと

2015年12 月21日、世界銀行キャリアセミナーが都内で開催された。いつか世界銀行で働きたいと話す社会人や漠然とした関心をもつという学生らが来場するなか、世界銀行上級社会開発専門官の石原聡氏が「Social Development in the World Bank」をテーマに現職の業務やそれに必要な心構え、今後の世銀のあり方について語った。以下、講演と質疑応答をレポートする。

 

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きっかけは、ケニア農村プロジェクト報告書

 

 石原氏ははじめに、自身が世界銀行(以下、世銀)へ入行するまでの経緯を述べた。

「ロンドン大学SOAS社会人類学の博士課程が終わる少し前のこと。ケニア農村の”道路”プロジェクトについて執筆した私のレポートが、ある人の目に留まったんです。たまたまその方が世銀のOBで、タイでの道路案件に誘っていただき、さらに世銀のプログラムへの出願を勧められたんです。それまでは世銀で働くことを考えたこともありませんでした。」

 続いて現在の役職名にもある“Social Development(以下、社会開発)”について。「社会保険や社会保障、最低賃金を取り決める“ Social Protection(社会的保護)”に対して、社会開発は道路やダムなどのインフラを整備する際の土地収用、少数民族や『障害』者などを取り込みながらコミュニティで意思決定をしていくことを指し、おもに三つの言葉で説明される」と述べる。

 

社会開発の3つの軸

 

“Social Sustainability and Safeguards”

“Community Driven Development”

“Social Inclusion”

 

 石原氏はスライドに上の三つを写す。これらが社会開発を説明する三つの言葉という。一つ目の“Social Sustainability and Safeguards”は、インフラ整備に伴う土地収用問題をマネージしようとすること。

「日本でいえば成田空港がつくられた時のような土地収用をめぐる問題を指します。インフラ整備を進める側と(立ち退き等に)反対する住民側との折衝を通じて多くの先進国では法制度が発展してきましたが、同様の問題がまた、アジアの経済発展に伴って起きているところです。」

 二つ目に“Community Driven Development”。

「具体的な課題を指すのではなく、課題へのアプローチを意味します。住民に経済発展のプロセスへ参加してもらうことで、より効率的でより広範囲な人にベネフィットがいきわたるという考え方を指します。」

 最後に“Social Inclusion”は「少数民族や『障害』者をはじめとする弱者を取り込むというもの」という。

 

自分たちの書いたドラフトが国のルールになる瞬間

 

 さらに実際に携わった社会開発のプロジェクトを、石原氏は以下のように振り返った。

「ジョージアで道路を建設した際、かなり多くの人が移転しなければならないことにつき苦情も多く、NGOとの折衝、話合いを重ねることが必要だった。その時、我々がつくった土地収用に関する手続きを、ジョージア政府が取り入れて、首相の政令(decree)として採用されたことが印象的でした。それは今でも使われるルールとなりました。自分たちの仕事は単発のプロジェクトとしてのみならず、ゆくゆくはその国の法律、制度となっていくケースもあり、そういった所に仕事の面白さを感じています。」

 プロジェクトを進行するにあたっては、インフラをつくることのみならず、それに伴う人の暮らしにも目を向けると話す。「例えばダムの建設一つをとっても、私が携わっているプロジェクトでは450平方キロの広さ、6300世帯220程の村が影響を受けます。インフラ建設により人が住処を移すのみならず、山の方で昔ながらの生活をしていたような人々が、下流の都心部に移る事で全く近代的な経済に順応せざるを得なくなってしまう。そういった生活の変化にすぐに人々が順応できるわけではないため、土地収用に伴う人の暮らしをケアすることも視野に入れながらプロジェクトを進める必要があります。」

 なお、石原氏はここまで説明してきた道路やダムのインフラ関連プロジェクトのみならず現在では栄養改善プロジェクト等にも携わっている。現在着任しているラオスでは子供の栄養状況が非常に悪く、状況改善へ向け取り組んでいるという。人々の健康に関わるような問題では「特に人々の行動様式も変えなければならないとなると、単にメッセージだけを流しても意味がなく、現地の保健従事者らを含むあらゆるステークホルダーと密接に携わりながらプロジェクトを進めていきます。」と述べた。

 

イシューに始まり、イシューに終わるべく

細分化したセクターを繋ぐのが“ソーシャル”の役目

 

 石原氏はスピーチの最後に、自身の世銀における仕事について“仕事は尽きず、面白い。”と繰り返し述べながら、自身がキャリアを歩むなかで大切にしてきたことに触れた。

「世銀で働くということが、キャリア的にいいのかどうかはわからない。けれど、世銀の仕事は面白い。また、私はこれまでスラムのなかで仕事をしたり、アフリカを巡るバックパッカーをしたりしたけれど、基本的に私の頭に最初に湧き上がってくるのは“イシュー”なのです。そこに専門領域や部門はなく本来は“セクター”とかいう線引きは消えている。この“イシュー”自体が様々な領域の様々な部門にまたがっているから、それに対するアプローチが様々にあるという話だと思います。具体的なソリューションは非常に専門的なため、世銀における“ソーシャル”という言葉が意味するのはそれらの非常に専門的な方策同士をくっつける役割を指します。それが私の仕事であり、私の今までのキャリアはそういう軸に沿ってきたと感じています。」

 

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 続いて来場者から質問が寄せられた。

 

―――世銀に入るためにするべきことは何でしょうか。

 

 まずPhDは必要です。また、現場でのプロジェクト経験のある人をクライアントは信用すると思います。ワシントンにいるだけではわからないことだらけなので。

 クライアントからよく聞く世銀のスタッフに対する苦情に「彼らは仕事がわからない」ということがあります。「金貸し」という業務とその貸与により実行される「プロジェクトを回す」というのは大違い。プロジェクトがどういうものかを知らないとクライアントはすぐに察知します。

 だからフィールドを経験して、その経験を良い意味で一般化することが大切だと思います。もちろん自分が初めに行ったコーカサスと今居るラオスだけを見ても国のおかれた状況は全然違うので、同じことが通用するわけでは無いです。しかし、“コモンセンス”といいましょうか、共通する部分は必ずあります。人間というのはどこにいってもそんなに変わらないから、見るポイントというのがわかってきます。ただそれは、現場に行けばわかるのではなく、いい意味で一般化できるからできることだと思います。大学や研究機関で勉強することが大切な理由のひとつにはそういった個々の事象の一般化をできることがあると思います。

 

―――プロジェクトをマネジメントするにあたり、様々なステークホルダーの皆を満足させるのは難しいと思いますが、異なる立場のニーズをどのように捉えていますか。

 

 大前提として皆が共感してくれる“グローバルな概念”は存在します。ただそれを具体的な問題として話す時に、トレードオフの問題が出てくるという話なのだと思います。ニーズが異なるとは思っていません。その国、そのコミュニティにとって大切なことを挙げた上で、優先順位をどうしてもつけなければならなくなるということ。「あなたのしていることは重要ではない」なんて言う人はいません。こういう時はリソースマップを作って、どちらも大切だけれど、同じコストでどれだけの効用をもたらすことができるかを可視化して示すことで説得をしようとしたりします。社会開発という領域で言えば、解決しなければならない“問題”それ自体よりも問題を解決する“ソリューション”に落とし込んで、様々なステークホルダーからそのソリューションが重要だと言ってもらう努力をします。

 

―――世銀で10年も勤め続けられたのはなぜでしょうか。

 

 世銀に限らず、どこの業界でも流行り廃りというのはありますが、自分の専門分野にこだわらないこと、トレンドが過ぎたらおしまい、というような状態にしないことでしょうか。

 社会開発の三つの軸を先に話しましたが、これらの三つの軸だけをみても、あまり一つの軸に特化し過ぎずに網羅的に分散した方が(仕事を失う)リスクは減ります。しかしながら分散しすぎると今度は何も極められなくなります。このように、自身の持ち場を失うリスクを回避するために持ち場を分散することは、どこの業界でも同じだと思いますが、このバランスをとることが、難しいけれど重要なことだと思います。

 

―――10年後の世界、未来に描いている夢を教えてください。

 

 わからないことが多いです。ただ少なくとも世銀での仕事は、いままでのやり方は通用しないし今後10年間でどう変えていくのかが重要だと思います。そのビジョンを持った人が必要とされています。世銀の業界の話で一つ言えるのは、国による開発援助よりも民間からの途上国に対して流れるお金の方が圧倒的に多いということです。この構図は今後も変わらないでしょう。

 そのような中で「政府」だからできる援助を見極め、もっと効率性をあげ、イシューにフォーカスしなければなりません。私がいる間だけで世銀の仕事が5割も増えたわけではないはずなのに5割も人が増えているというのは問題で、効率化のためにスリムダウンする必要があると思います。

 

安い「金貸し」ではなく ソリューションという付加価値を提供していく

 

「また、民間との差別化という意味では、2000年代に携わったプロジェクトでのアゼルバイジャン財務長官の言葉がヒントをくれたと思っています。その長官が『他の民間の金融機関の方が安く借りられることもあるものの、世銀はパッケージで包括的なソリューションを提供してくれるから今後も一緒に仕事したい』と言ってくれたことが今でも私の中で印象に残っています。だから今後も世銀は単にお金ではなくて包括的なソリューションを提供していかなければならないと考えています。ここで私が言っているソリューションというのは知識や知恵、調査とも異なるものなのです。

 自身の仕事の文脈でいえば、自分も世銀の業務の中で感じた疑問を共有したり状況をメンバーに共有するためのアクションをとったりするなど、世銀という組織に対するアクションを起こしてはいるところです。ただ、個々のメンバーがとにかく目の前の仕事で非常に忙しすぎることなど、現実的な難しい問題も感じています。」

 

 最後に、石原氏は自身の学生生活と当時描いていたキャリアにつき回顧し、セミナーを終えた。

 

「私はあまり学校に行かない人間でした。大学の学部時代は1年休学し、本をたくさん読みました。学部を終わった時にそのまま就職せずお金を貯めて、奨学金ももらってロンドンへ。当時は30歳までに独立して仕事ができるようになって、35歳までに大きな仕事をしたいとぼんやり考えていました。今考えるとそれはよかったと思っています。学部から上がって、いわばまだ何者でもない状態で自分の進路を決めてしまうのではなく、30を目途に考えたことで地道に力をつけられたと思います。」

 

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 今回のセミナーに参加した学生の一人(東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修士課程2年)は「将来、国際機関に身を置き、開発援助に携わることを目指している。複数の開発セクターにまたがる分野横断的な視点や援助現場におけるプロジェクト・マネジメントの重要性など、今後のキャリア形成を考える上で必要なスキルを理解する、大変有意義なセミナーだった。」と感想を述べ、今後は博士号の取得を通じ専門性を高めた上で、国際機関の仕事に挑戦していきたい、と抱負を語った。

 なお、世銀グループは現在日本人採用を強化しており、2016年3月に世銀の採用ミッションが来日する。このほか日本政府が支援する日本人採用プログラムも1月末に開始されることが予定されているという。

 

石原聡 世界銀行上級社会開発専門官

略歴

ケニアの農村道路やタイの道路案件を担当後、2002年にヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)で世界銀行入行。主に中央アジア・ヨーロッパ地域(アルメニア、ジョージア、アゼルバイジャン)で道路・農村インフラ整備を担当。2010年より東アジア局に異動し、2011年1月より現職(在ラオス)。

 

(取材・文 北原梨津子)

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