学術ニュース

2019年11月5日

スピン流を高効率で運ぶ材料発見 スピントロニクス材料の開発の加速へ

 大柳洸一さん(東北大学大学院博士課程)、齊藤栄治教授(工学系研究科)らはスピントロニクス材料としての利用が困難だと考えられていた常磁性絶縁体ガドリニウムガリウムガーネット(GGG)がスピン流を伝播する材料になり得ることを示した。成果は18日付の英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』(電子版)に掲載された。スピントロニクス材料の選択肢が増え、新たな材料の開発が加速することが期待される。

 

 電子の自転に由来する磁気の流れであるスピン流は次世代のエレクトロニクス素子への利用が期待されており、金属や磁石を使用した材料において活発な研究がされてきた。磁石の中でスピン流を伝播するにはスピンの向きが一方向にそろう、磁気秩序が生じる必要がある。スピンの向きがバラバラな状態を常磁性と呼び、特に電気を通さない常磁性絶縁体はスピン流の輸送は不可能とされていた。

 

 大柳さんらは常磁性絶縁体内の微弱な原子磁石間の相互作用を利用することでスピン流を長距離に、同じ温度の磁石を用いた場合の8倍の効率で流せることを発見した。実験では物質内のスピンの力が大きいことで知られるGGGを使用。外部磁場によってGGGのスピンの方向を一部そろえることによって、原子磁石間に相互作用を発生させた。5K(零下268度)の低温で磁場をかけたところ、明瞭な起電力信号が確認され、100K(零下173度)という比較的高温でも長距離にわたるスピン流の伝播を確認することができた。


この記事は2019年10月29日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

ニュース:変わる高校入試 高校受験生の選択肢減少 東大合格者層への影響は?
ニュース:アメフト立大戦 好機逸し逆転負け 「勝利意識し消極的に」
ニュース:スピン流を高効率で運ぶ材料発見
ニュース:稷門賞 飛騨市長と日本財団に
ニュース:細胞の老化・がん化解明へ mLOYの分子機構明らかに
ニュース:色字共感覚 文字の知識で想起する色変化
ニュース:アイスランド大統領 小さな国の大きな力 東大で講演
ニュース:ホームカミングデイ開催 養老孟司名誉教授ら講演
企画:個人、企業、社会全体が取り組みを 女性の健康問題への向き合い方
企画:国際化に合わせた言語教育 インタークラスの実態に迫る
世界というキャンパスで:分部麻里(文・4年)⑤
研究室散歩:@赤ちゃん学 開一夫教授(総合文化研究科)
100行で名著:『第一阿房列車』内田百閒
キャンパスガイ:板垣大稀さん(工・3年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

koushi-thumb-300xauto-242

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit

   
           
                             
TOPに戻る