EVENT 2016年8月22日

お金で買えないご飯 カルマキッチンのからくりは恩送りにあった

 「ギフト経済」という言葉をご存知だろうか?

 

 私たちが慣れ親しんでいる貨幣経済において、労働によって創りだされるものはお金を媒介して交換が行われる。また、貨幣が存在する以前の時代は農作物と服など物品と物品を直接交換していた。

 

 しかし、ギフト経済には交換という取引がない。ギフト経済は持てるものが自分の持つ資産や労働資本を持たざる誰かに送り、受けたものは同様に別の持たざる誰かに送ることでサイクルを回していく経済システムのことだという。つまり、誰かに何かを送ったところで即座に見返りを受けられる保証はない。机上の空論とも思えそうなこの概念に則って食事を提供するイベントがある。カルマキッチンだ。

 

第14回カルマキッチンのスタッフのみなさん
第14回カルマキッチンのスタッフのみなさん

 

「今日のお食事は以前カルマキッチンに来た方からのギフトです」

 

 7月の日曜日のお昼、都営三田線春日駅から徒歩3分ほどのところにあるカフェSign with meにて、14回目となるカルマキッチンのイベントがおこなわれた。

 

 席につくと、卓上には「今日のお食事は以前カルマキッチンに来た方からのギフトです」と書いた小さなメッセージボードが載っていた。

 

2

 

 カルマキッチンの仕組みはいたってシンプル。ここで出される食事は自分よりも前にお店に訪れた人によって支払われている。

 

 そして自分の分を支払う代わりに次に来る誰かのためにお金を出す、お手伝いをするなど、前の人から受けとったギフトを自分の好きな形で誰かに渡す。これは恩送り(pay it forward)とよばれるそうだ。

 

 出された料理にはもちろん値段がついていないため、多めに出すことも出来ればただで食べることもできる。しかし、ただで食べる人が多いと赤字が出てカルマキッチンが成り立たなくなるのではないか―、そうした疑問に答えてくれたのは、イベントを主催するギフト経済ラボの竹田真弓さんとFelix Sayakaさんだ。

 

竹田さん(左)とFelixさん
竹田さん(左)とFelixさん

 

ろうそくの灯を分かち合うように恩送りを広げたい

 

――ギフト経済ラボとはどういった団体なのでしょうか?

 ラボ(laboratory)の名の通り、ギフト経済ラボはギフト経済の考え方を実験的に実践しています。あくまで実験なので、利潤を上げる必要もなければ、絶対続けないといけないものでもありません。赤字になれば次回開催しなければいいだけの話です。ただ今のところ次回に繋げられるだけのお金は毎回集まっています。

 

――いわゆる非営利団体なのですか?

 いいえ、そうした形はとっておらず共感できる人がゆるりと集まった任意団体です。参加義務とか、スケールしなければという強迫観念にとらわれず共感できる人が集まる場であればいいと思います。無理をしないことが大切です。

 

――カルマキッチンはいつから始まったのですか?

 もともとカルマキッチンは、2007年アメリカのバークレーでNipun Mehta(以下ニップンさん)という方がギフト経済の種を撒きたいとの思いから始めたものです。ギフト経済ラボのメンバーの1人がニップンさんと出会い、日本でも出来ないかとアイディアをあたためていたところ東日本大震災がおきました。

 

 震災前より人と人とのつながりや優しさを求める人が増えたこともあり、2012年に第1回カルマキッチンを開催しました。14回目となる今回まで、たくさんの恩送りや人の繋がりが出来ました。

 

――偶然居合わせた初対面の人同士で繋がりをつくるのは難しそうですが

 皆さん初対面とはいえ、恩送りの活動に意欲的である、興味があるという点で根っこが同じなんです。また、カルマキッチンでは基本的に相席をお願いしています。年もバックグラウンドも違うとはいえ、どこか似ている人達が同じテーブルにつくと自然と会話も生まれます。

 

――これまでどういった繋がりがうまれたのでしょうか?

 宮城県の山元町の支援をしている人と写真家の人が、同じテーブルで意気投合して山元町の写真集を出すことが出来ました。お客さん同士がつながって何かが起こることはとても嬉しいです。また、これまでお客さんとして来てくれていた人が、次はスタッフとして参加してくれることもよくありますよ。

 

――根っこが似ている人が集まるとのことですが、Facebookや口コミでの告知だとリーチできる範囲に限界があると感じます。別のコミュニティの人にアプローチする工夫などは何かされているのですか?

 悩ましいところですね。雑誌やwebマガジンに載せてもらったり、ラジオに出させてもらうこともあります。ただ、伝わりやすい人と伝わりにくい人がいて、記事をのせる媒体によっては単なるタダ飯と誤解されてしまうこともあります。のべつ幕なしに宣伝するより、響く人に来てもらえればいいと思います。

 

――カルマキッチンの活動を通じて、どんな社会や世界になればいいと思いますか?

 社会全体をガラッと変えるのではなく、資本主義の社会の中のローカルなところ、顔が見える範囲でギフト経済の考え方が広まってくれればと思います。身近なコミュニティでろうそくの灯をつけていくキャンドルサービスのような感覚で、恩送りのアクションが取りやすい世界になればいいと思います。

 

次の人に向けて、メッセージを書く参加者
次の人に向けて、メッセージを書く参加者

 

***

 “ギフト”という言葉を聞いて、みなさんは何を連想するだろう? わたしが思い出すのは、もらって嬉しかったプレゼントや思い出の詰まった品々だ。サンタさんから初めてもらったクマのぬいぐるみ、小学校に上る前に買ってもらったピカピカのランドセル、恋人にもらった小さな指輪。しかし記憶に残っているものは、おそらくほんの数%であろう。

 

 ギフト経済のサイクルが上手く回るコミュニティにおいては、誰がギフトの送り手で誰にギフトが渡るのかということはあまり重要ではない。

 

 「自分で自分の分の食事代を払うのも、次の人の食事代を払うのも結局同程度の額を支払うという点では普段の食事と何も変わらないと言う人もいます。しかし人は与えることに喜びを見出せる生きものなのではないでしょうか」と竹田さんは言う。これまで行われた14回のカルマキッチンを通じて、次の開催にかかる以上の費用が集まり、赤字どころかギフトがあふれている状態だという。あふれたギフトを使って別の地域でのカルマキッチンも構想中だ。近い将来、日本中で恩送りのアクションが見られるようになるかもしれない。

 

(取材・文 久野美菜子 写真 井手佑翼)

 

2016年8月24日 21:00 【記事修正】 竹田さんの名前を「竹田真弓」に修正しました。

同じ記者の記事

関連記事

合わせて読みたい

TOPに戻る