INTERVIEW / PROFESSOR 2019年6月11日

西成活裕教授インタビュー 渋滞学・無駄学の第一人者に聞く 流れを見渡す重要性

 去りゆく「平成」と新たな「令和」が交わる今年の五月祭は「〈おもしろい〉が、交差する。」がメインテーマ。そこで今回は「渋滞学」や「無駄学」の生みの親である西成活裕教授(先端科学技術研究センター)に、学生時代の思い出や研究についてお話を聞き、西成教授が出会った〈おもしろい〉を探る。

取材・杉田英輝 撮影・山口岳大)

 

西成 活裕(にしなり かつひろ)教授(先端科学技術研究センター)
95年工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。ドイツのケルン大学客員教授などを経て、09年から現職。日本国際ムダどり学会会長も務める。

 

学生時代 多忙の中人脈築く

 

──東大の授業で印象に残っていることは何ですか

 まだ学者だった舛添要一さんや、シェイクスピアの翻訳で有名な小田島雄志さんといった名物講師の授業を受けるのが面白かったです。数学の授業で予習せずに難問を黒板にすらすら解くような天才的な友人たちとの日々も刺激的でした。好奇心の塊で、全学部の授業を受けていました。

 

──五月祭での思い出は何ですか

 所属していたラグビーサークル・Arms ParkとE.S.S.で出した模擬店です。五月祭は女子の少ない東大で彼女を作れるチャンスだったので、張り切って売りました(笑)。 学園祭後に開いた合コンも盛り上がり楽しかったです。

 

──勉強以外に打ち込んだことはありますか

 サークル活動はもちろん、歌が趣味だったので地域の合唱団で活動していました。家庭教師や塾講師のアルバイトもこなし、塾では講師の中で一番人気にもなりました。午前中は授業をたくさん取り、午後はサークルかアルバイトという感じで忙しく、充実した大学生活を送っていました。

 

──在学中に影響を受けたものは何ですか

 『三国志』を読んで人生観が変わりました。スケールの大きさに感動し、大きな目標を掲げ、それを見失わぬよう先を見据えて行動する大切さを学びました。他にも、専門のみを探究する科学者を批判した『科学者とは何か』に感化され、専門外でも興味のある授業に片っ端から出ました。人間関係では、サークルなどで築いた人脈がその後に生き、今は「東大でよかった」と思っています。人脈は東大で得た財産です。

 

──学部学生時代はどんな進路を描いていましたか

 入学時は宇宙に興味があり、漠然と天文学の研究を目指していました。しかし勉強するにつれ、天文学には物理が必要で、物理の土台は数学であると分かり、基礎の探求を志しました。一方「そんなに勉強して何の役に立つの」という母の問いにはっとさせられ、実用的な学びもしたいとも思っていました。基礎と応用の両方を学べる分野を考えた時に思い至ったのが、航空宇宙工学だったのです。

 

──後期課程や大学院での学びでその後に生きたと思うことは何ですか

 実際に航空宇宙工学を学ぶと、実践的な内容が多く驚きました。その反面、飛行機が機能するには個々の部品を最適化するだけでなく、全体が調和しているかどうかにも留意することが大事だと気付きました。この「物を総合的に見る力」はその後に大いに役立っています。4年生の五月祭ではクラスで飛行機の模型を使い空気の流れを可視化する風洞実験を実演し、一般の人と交流できたのもいい経験でした。

 

研究生活「詰まり」解消へ

 

──渋滞のメカニズムに興味を抱いた経緯は何ですか

 修士課程2年の夏、広田良吾教授の研究者の本音を語る講義がきっかけで、応用数学の中でも物質の流れを数学的に解く「ソリトン」に目覚めました。しかし物質の流れは既に長い間研究されていたので、自分のふに落ちる方向性が定まらずひどく悩んでいました。そんな折、ふと物の運搬や人の移動も「流れ」であるとひらめき、渋滞を研究しようと決心しました。もがいていたからこそ偶然が訪れたのだと思います。

 

──渋滞の研究でどんな知見が得られましたか

 一言で言うと「急がば回れ」です。人は渋滞にはまると早く前に行きたがりますが、自分だけの利益を優先すると全員が損をします。興味深いことに、あえて車間距離を空けるという逆の行動を取ることで、実は渋滞は緩和されます。目先の利益にとらわれず、時には先に損をすることで、結果的に得をすることができるのです。

 

──「無駄学」提唱のきっかけは何ですか

 元々は工場の物流を向上させる研究から始まりました。在庫の余剰を減らすためにある工程を部分的に改善しても、他の工程が生産性の向上に追いつかず、新たな無駄が発生します。工場全体の生産の効率化には全工程を見ることが不可欠ですが、効率的な工程の実現はそれまでベテランの経験に頼っていました。そのノウハウを数値化して吸収したのが、無駄学です。一歩引き、トータルで流れを見渡す力の重要性は、渋滞学と通底しています。

 

──現在はどんな研究や仕事に携わっていますか

 現在は物流の研究をしています。人手不足などで危機的状況にある日本の物流を何とかしたいと思い、企業や国と連携して具体的な対策を練っています。東京オリンピック・パラリンピックの委員会にも所属し、これまで積み重ねた知見を生かして渋滞の予防策を立案しています。世の中の「詰まり」を解消し、人や物の流れをスムーズにすることがモットーです。

 

──最後に、東大生にメッセージをお願いします

 今の学生の皆さんはいい意味で真面目だと思います。私の学生時代は皆もっと自由で、好きなことをやっていました。同じクラスには突然シルクロードに旅に出掛け、そのまま帰らなかった人がいます()。皆さんももっと自分のやりたいことを自由にやっていいのではないでしょうか。Educationの原義は「外に引き出す」こと。私は皆さんの興味を引っ張り出し、応援しています。


この記事は5月14日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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