COLUMN 2018年10月10日

19歳が見た中国① フェリーに乗って、ぶっつけ本番中国語

▲中国の朝は早い。6時には街角の店々から湯気が漂い出す。蒸したての饅頭(マントウ)を手に入れた(写真は深圳にて)

 

「中国にどんな印象がある?」「え……あんま印象ない」

 パンダ、麻婆豆腐、PM2.5、コピー商品、領海侵入、高速鉄道(高鉄)の脱線事故……。私が中学生の頃に抱いていた中国のイメージは、こんな感じだ。パンダと麻婆豆腐を除けばマイナスイメージが並んでいるが、これはテレビや新聞の影響が大きい。黄色く淀んだ空気の中を黒マスクの人々が行き交う写真や、毎日のように流れる「中国船が一時領海侵入」のニュース、高鉄の事故車両が何事もなかったかのように埋められる映像を見て、中国は息をするのも大変な無法地帯であり、そこに住む人たちとは信じ合えない、と思い込んでいた。

 

 もちろん今は違う。中国語を勉強し、中国からの多様な情報に触れたことで、私はもっと多角的に中国を捉えられるようになった。中学生の私に「将来は中国に友達が沢山できて、大学2年生の夏には中国を3週間も旅行するんだよ」と話しても、信じてもらえるとは思えない。ところがどっこい、現実にはそうなったのである。今年の夏休み、私はフェリーに乗って中国に渡り、バックパックを背負って上海や深圳など7都市を歩き回った。東大で知り合った中国人学生を訪ね、一緒にご飯を食べながらワイワイ語りあった。この連載は、19歳の若者が、頭と口と耳と足をパワフルに駆動させて中国の人々や社会を観察した、そのエッセンスを書き綴ったものだ。思考や経験が不足している部分もあるだろうが、読者の皆様には寛容な心でおつきあい願いたい。

 

▲私たちの中国観は、「コピー商品の氾濫」というような、メディアの提供する一面的なイメージに塗り固められていないだろうか?(写真は広州の文房具店にて)

 

 中国語選択ではない東大の友人に「中国にどんな印象がある?」と聞くと、「怖い」「危ない」「空気が汚い」と、かつての私のように一面的に考えている場合がある。「え……正直あんま印象ない」と言われることもあり、さらに不安になる。日本の各界のリーダーになりゆく東大生が、中国を多面的に理解していなければ、ますます密接になる日中の関わりのなかで、チャンスを遠ざけリスクを近づけることになりかねない。だから、この連載を通して、一人でも多くの東大生に「中国ってそんな一面もあるんだ」と驚いてもらい、興味をもってもらいたい。

 

フェリーに乗って、ぶっつけ本番中国語

▲長江デルタ、珠江デルタ、内陸部を通り、中国の多様性とダイナミックな発展を感じられるルートを組み立てた。

 

 3時間で東京から上海までひとっ飛びできる時代に、48時間かかるフェリー「蘇州号」(大阪⇔上海)を敢えて選んだ。運賃が格安航空券と同じくらい安かったからでもあるが、一番の理由は、船の上での会話と交流を楽しみたかったから。船の上で2日も過ごすうちに、手持ち無沙汰な乗客どうし、たくさん喋るだろう。私の旅の目的は中国語の力を鍛えること、つまりたくさん喋ることだから、ほとんどの乗客が中国人という「蘇州号」に乗るのはまさにうってつけの練習方法だったわけだ。

 

 「蘇州号」に乗り込むと、すぐに甲板に駆け上がった。船旅の醍醐味は何といっても、甲板で海風に吹かれながら大海原を見渡す、あの開放感だ。大阪の街がどんどん小さくなるのを眺めているうちに、甲板の別のところから、中国語の元気な喋り声が聞こえてきた。よく日に焼けた50代くらいのおばさんと、色白の30代くらいのお兄さん。喋っている様子を見ると、親戚だろうか、とにかく長い付き合いに見える。私は気軽に中国語で話しかけてみた。

 

 「你们好(ニーメンハオ;こんにちは)、お二人は親戚ですか?」

 「いやいや、違うよ、この兄ちゃんとは、さっき船の上で知り合ったばっかりさ」とおばさんが笑った。「中国では見知らぬ人どうしでもすぐに喋るようになるからね。数年来の仲良しに見える人たちでも、たった今知り合ったなんてことがよくあるよ。きみは大学生かな。日本に留学に来てるんでしょう?」

 「いえ、東京の大学生ですよ。これから中国に旅行に行くんです」

 「日本人かい?」お兄さんが驚いた顔をした。「全然分からなかったよ!中国語はどうやって勉強したの?」

 「中学生のときに、独学で始めたんです。NHKラジオとか聞いて。でも集中的に勉強したのは、大学に入ってからですね」

 「すごいな!きみの中国語のレベルなら、中国を一人で旅行しても困らないよ」とお兄さんは太鼓判を押してくれた。

 

▲「蘇州号」では夜更けまでお喋りが絶えない。ギターの音色をきっかけに交流が始まることも……

 

 「お兄さんは何の仕事をなさってるんですか?」

 「日本の会社でマーケティング部門の仕事をやってる。でも中国と違って年功序列が厳しくて、ちょっと疲れるね。それよりも、この方に話を聞きなよ」お兄さんはおばさんを指差した。「貿易会社の老板(ラオバン;社長)だよ!」言われてみれば確かに、おばさんには老板の風格がある。

 「小さい会社だけどね。中国から海事用品を輸入して日本で売るのさ。最近なら、船で使うシェンズとか、ブーユーワンとか、結構売れるねえ」

 ちょっと語彙が難しくなってきた。「え?何が売れるんですか?」と聞き返す。

 「绳子(シェンズ;縄)、捕鱼网(ブーユーワン;漁業用の網)だよ。商売ではね、お客さんは品質と価格を求めるのね。日本の縄や網は品質は飛び上がるほど素晴らしいが価格は高い。中国のものは品質はそこそこだが価格は驚くほど安い。だから人気が絶えない。おかげで我々の商売が長く続くってわけさ」おばさんは分かりやすく解説してくれた。

 

 3週間の中国の旅では、この貿易会社の老板をはじめ、中国全土を放浪する種子売り、伝統楽器の演奏者、長江の中洲の住人、小学校の教師、元警察官のおじさん、中国で一旗上げるためにやってきたアメリカ人、ロシア人、セルビア人、アルゼンチン人など、団体ツアーや研修プログラムでは出会わないような人たちと出会った。教科書にはおよそ載っていないような言い回しを、その場で聞き覚えて喋ることもしばしば。結果として、中国語によるコミュニケーションの力は格段に上がった。さらに、一人ひとりと話したことの奥にある、中国流の発想、中国社会のダイナミックな動きも感じることになる。

 

▲乗務員の安全デモを真剣な眼差しで聞く乗客たち。自分の命は自分で守るという「中国流の発想」を実感した(写真はフェリー「蘇州号」にて)

 

なぜ東大が用意している海外プログラムを使わなかったのか

 東大生は夏休みと春休みには全員日本にいないのではないかと錯覚するくらい、大学のプログラムに参加して海外に行く同級生は多い。特に中国関連のプログラムは、東大ではいわば「飽和状態」である。例えば中国語TLPの学生には、渡航費・授業料負担の一切ない、夏休み3週間の「南京語学研修」をはじめ、数えきれないほどのプログラムが用意され、選び放題だ。でも、こうしたプログラムには、授業の出席や集団行動など、制約が多いのも事実である。同じ3週間を使うなら、話す相手も行く場所も、100%自分の創意工夫で組み立てた、自分のための「研修」に使ったほうが、よっぽど成長できるだろう、と考えた。

 

▲3週間の旅行にかかった費用の内訳。船も鉄道も宿も、自分で予約する。

 

 さて、「研修」には先生が必要だが、どう確保すればよいか?私はある方法を思いついた。実は、7月から8月にかけて、東大には中国各地の大学から見学団が訪れる。彼らと仲良くなって、駒場キャンパスや東京の街を渾身の中国語で案内してあげる。別れ際に「この夏は中国を旅行するんだ」と言うと、彼らは必ずこう言ってくれる。「ぜひ私たちの街においでよ!今度は私たちが案内してあげるし、美味しいお店も教えてあげるから!」

 

 こうして、私が「蘇州号」で上海に着くと、頼りになる「先生」たちが行く先々で待ってくれているという、最高の状態ができあがっていたのである。

 

▲「蘇州号」は上海のど真ん中に到着した。果たして中国でどんな体験が待っているだろうか?

 

文・写真 松藤圭亮 (理Ⅰ・2年)

 

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