上田泰己教授、金谷啓之さん(博士課程)、大出晃士講師(いずれも東大大学院医学系研究科)、桑島謙助教(東大医学部附属病院)らによる研究グループは、カルシウム放出チャネルである1型リアノジン受容体が全身麻酔の作用に関与していることを発見した。成果は6月3日付で米国科学雑誌『PLOS Biology』に掲載された。
吸入麻酔薬は全身麻酔において極めて重要な役割を持ち、その麻酔作用が1840年代に発見されてから現在に至るまで世界中で使用されている。しかし、吸入麻酔薬がどのように人体に麻酔作用を発揮しているのか未だ完全には解明されていない。これまでの研究においてイソフルランをはじめとする吸入麻酔薬がGABAA受容体(GABAと結合して応答するたんぱく質)やK2Pチャネル(カリウムイオンの細胞内外の移動を制御するたんぱく質)などに作用することは知られていたが、これらのたんぱく質を欠失したり阻害したりしても吸入麻酔薬の感受性は完全に消失することはないため他の標的分子の存在も考えられてきた。
今回の研究では、まずイソフルランなどの吸入麻酔薬が1型リアノジン受容体(RyR1)を活性化することを確認し、その受容体とイソフルランの結合部位を推定した。また、RyR1を変異させたマウスに対してイソフルランを投与した場合は吸入麻酔への感受性が低下することも確認した。さらに、イソフルランの推定結合部位に作用する新しい化合物を多数の化合物の中から特定し、その化合物がマウス個体で実際に鎮静作用を発揮することを発見。これらの結果はRyR1がイソフルランの標的分子の一つとして麻酔作用に関与していることを示唆している。
今回の研究は吸入麻酔薬が人体に作用するメカニズムの一端を明らかにするものである。これまでの研究では哺乳類においてRyR1と吸入麻酔との関係は示されておらず、本研究によって新しい知見がもたらされた。今後は麻酔薬の生体内での作用への理解がさらに進むことで、より優れた麻酔薬や投与方法の開発につながる可能性が期待される。
論文情報
Hiroyuki K, Ken K, Yuko I, et al. Isoflurane activates the type 1 ryanodine receptor to induce anesthesia in mice. PLoS Biol.2025;23(6): e3003172.
DOI:10.1371/journal.pbio.3003172