キャンパスライフ

2021年4月6日

提言が区の予算に? 駒場名物ゼミで実現する社会変革

 入学・新学期を迎えた学生にとって最大の関心事の一つが所属するサークル・団体選びでしょう。スポーツや音楽、学術、娯楽など多様な活動を行うサークル・団体が存在する中、ゼミに所属するという選択肢を考えてみてはいかがでしょうか? 本企画は東大の名物ゼミ「瀧本ゼミ」政策分析パートゼミ生の対談企画です。

(寄稿=瀧本ゼミ企業分析パート)

 

 社会問題をリサーチし、地方自治体を中心にエビデンス(科学的根拠)に基づいた政策提言を行う瀧本ゼミでは昨年9月、中央区議に対して、ベビーシッターの利用を促進する政策を提言。実際にそれが令和3年度中央区一般会計において予算化された。

 

 中央区では、当該政策に予算を支出する。ベビーシッター利用者に補助金を出すことによって、1時間あたり2000円程度が相場とされて価格面で利用をためらうことが多いベビーシッターの活用を促進していく構えである。

 

 今回は、政策立案や提言の経緯について実際に政策を提言したゼミ生とゼミ現代表の対談をまとめた。

(提言者:佐藤花菜 ゼミ8.5期 中央大学法学部新3年)

(代表:堀江健太郎 ゼミ8.0期 東京大学法学部新3年)

 

上から佐藤、堀江

 

(堀江) 今日はよろしくお願いします。早速ですが、今回予算化されたイシュー(社会問題)の概要、特にどこがNew(行政にとって新規性がある)かについて教えてください。

 

(佐藤) 短時間のベビーシッター利用に行政から補助を出す施策です。現在の行政の施策では、シッターに関する施策はあるものの、保育園の代替としての長時間利用を促進するものでしかなく、共働きか否かに関わらず需要があり、かつ産後うつなどメンタルヘルスの改善にも必要な短時間でのシッター利用に対する施策が十分ではないことを発見しました。

 

(堀江) ベビーシッターの利用支援は、保育園のような長時間の支援だけではなく短時間・スポット的な支援も重要だという新しい軸を打ち出した、ということですね。

 

政策を実現させるネットワーク

 

(堀江) 今回の政策は、実現まで持っていったというところに価値があると思うのですが、実現までに至った理由はどこにあるとお考えですか。

 

(佐藤) 主に3点あります。1点目は、区の方に響くようにストーリーを修正したことです。発表時には、あくまで国としてシッターの短時間利用に対する補助を税額控除により行うべきだ、という大きな枠組みを考えた政策だったのですが、区に通すうえで重要なのはシステム変革の話ではなく、産後うつや実際に子育てをしている人の声である、ということで、そちらをメインとしたプレゼンテーションに切り替えました。それが良かったと思っています。

 

(堀江) 瀧本ゼミでは政策の実現に重きを置いて、いかに自分たちの政策が導入できるかについて戦略的に提言を行うところが特徴だなと思っています。そもそも政策の提言先を考える段階で、ホームページやFacebookなどの公開情報を基にしたリサーチを行いますよね。我々は当該分野に興味関心がおありで、かつ学生の意見であっても耳を傾けてくださりそうな方にご提案していますし、提案先の方が政策を受け入れるという意思決定を行うポイントとなるのは提言政策の中のどこにあるのかについても徹底的に調査した上で提言に向かいます。リサーチ能力は社会問題の発見の段階でももちろん重要になるのですが、提言の段階でも必要とされる、かつゼミに入ると鍛え上げられるスキルですね。

 

 プレゼンテーションの場面では自分の思い入れの深いところを重点的に語りたいところですが、佐藤さんのように、提言先の特性を踏まえて提言のストーリー(構成)を修正することもよくあります。これはひとえに、瀧本ゼミが政策提言に行くこと自体を目的としているのではなく、政策提言が受け入れられたという結果にとにかくこだわっている団体だからではないかなと思っています。

 

(佐藤) 2点目は、アラムナイ(卒業生)の協力です。実際に子育てをしており、かつ区への提言に精通しているOBの方が協力してくれたことが、成功の大きな要因であったと感じます。例えば、資料のフィードバックをはじめとするサポートをして頂きましたし、提案の場で当事者として同席していただきました。

 

(堀江) そうですよね、実際別のプロジェクトでも、アラムナイの協力が非常に有難いです。別のプロジェクトでは戦略コンサルティングファームに勤務されているOBの方にメンターについていただいています。毎週のミーティングで仮説構築や検証の仕方をアドバイスいただいて、漠然とした問題意識が徐々に精緻化されていきました。このように問題の解決策の中身についてご協力いただくこともありますし、政策の実現に向けたところでは、その政策分野に関心のある報道機関の方を紹介いただけます。報道を通して社会問題の存在が明らかになることで、その問題の解決策となる政策が実際に通りやすくなる印象です。

 

(佐藤) 瀧本ゼミの強みとしてネットワークの強固さ、というものがあると思います。起業して最近資金調達を達成したり、法学部から経済学修士に首席で合格されたりしているなど、アラムナイは各界で業績を出されている方がたくさんいらっしゃるのですが、そのアラムナイにお願いすると徹底的なフィードバックが受けられます。アラムナイ以外にも、現顧問の内田貴先生(東大名誉教授)と労働法制について長時間議論したこともありました。また政策を提言するときも、これまでの政策提言でお世話になった国会議員・地方議員の先生方は話を聞いていただきやすいですし、提言した政策分野に関心をお持ちの先生を紹介していただけます。もし自分で1から政策提言するとなると、まず自分の話を聞いてもらうために動く必要がありますが、瀧本ゼミで政策提言をするのであればネットワークを使うことができ、社会問題を実際に解決できる可能性はより高まると思います。

 

 なお最後に3点目として、ちょうどコロナ禍で産後うつの注目度合いが高まった時期に政策提言に行けたというタイミングの問題もありました。社会問題の発見自体は政策提言から遡ること3ヶ月前の時期だったのですが、政策提言のタイミングで他にもロビイング(政策提言)で動かれていた団体のかたもいらっしゃったようです。日本でも、政策提言で行政を動かすやり方がメジャーになりつつあるのだなと実感しました。

 

瀧本ゼミから、社会を変える提言を

 

(佐藤) 今回は中央区でしたが、これは大きな社会変革の導火線にすぎないと感じています。保育の問題に関して、今後も色々な地区で提言しつつ、最終的には大規模にシステムを変えるロビイング活動を今後も目指しています。

 

(堀江) 瀧本ゼミでは、政策自体は現実的だが、実はこれが全国で実現されて関連政策を打ち出していくと社会の大きな枠組みが変わっていくイシューが多いですね。とあるゼミ生が発表した災害保険の全世帯義務化政策は、これまでの防災政策に加えて、今後の居住選択において災害リスクの低い地域に新規住民を誘導するという新たな枠組みを進める第一歩ですし。最後に佐藤さんから、今後の意気込みと読者、特に新入生にむけたメッセージあればお願いします。

 

(佐藤) 瀧本ゼミの目標は実際に政策提言を成功させ社会を変えるところまでなので、国内にまだ隠れている問題を今後も解決していければと思います。

 

 新入生の皆さんにお伝えすることとしては、学生であっても机上の空論ではない、ただの議論で終わらせないことは十分に可能だということです。熱意を持って、ファクトをもとにした立案ができれば社会問題を解決することができます。そして、実際に社会問題を解決するにあたって最高の環境が瀧本ゼミにあると思います。


 瀧本ゼミ政策分析パートでは、2021年春、10期生として活動する仲間を募集しています。学生の間に自分の力で社会貢献を成し遂げたい方・自分の目に見える形で結果を出したい方・仮説構築力やリサーチ能力など自身の能力を成長させたい方の熱意ある挑戦をお待ちしております。

瀧本ゼミ政策分析パートホームページ https://t-semi.jp/

説明会日程

4月6日(火)19時~ 第一回説明会(仮)「2020年度の進捗大発表」

4月12日(月)19時~ 第二回説明会(仮)「実際に自治体を動かした政策とは?」

4月16日(金)19時~ 第三回説明会(仮)「新ゼミ生による政策立案ワークショップ」

説明会申し込みフォーム

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdVYo46BXDzACcp2f-ROiC_SiKzyefTFG_xFJF_2r_w59QQAA/viewform

瀧本ゼミ政策分析パートについて

 京都大学の客員准教授である瀧本哲史氏が2012年設立。徹底的な論文調査と専門家へのヒアリングなどを行うことで、「世の中で知られていないが、実は重要である問題」を分析し、有効な解決策を、立案・実行に移すインカレの自主ゼミナール過去、千葉県でAED利用を促進する条例やつくば市での新生児へのスキンケアへの介入を提言した。毎週月曜日19時から、四谷三丁目のゼミハウスにて活動。(オンラインとのハイブリッド開催)

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