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2025年6月13日

学術会議は何をしている組織か・論点はどこに

 「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」(日本学術会議法前文)に 1949年に発足した日本学術会議。学術会議を法人化する法案は、6月11日に成立に至った。政府は法人化により独立性が高まるとする。一方学術会議は、アカデミーには①学術的に国を代表する地位、②国を代表する公的資格、③国庫支出による安定した財政基盤、④活動面での政府からの独立、⑤会員選考における自主・独立性──が必要とする。法案には首相任命監事の監査や、評価委員会の設置、活動報告の提出が明記され、会議の自主独立が脅かされかねないとする声も存在する。前文の内容も削除された。今回何が問題となっているのか考える。(構成・溝口慶、撮影・溝口慶、平井蒼冴

 

 ※学術会議の法人化に関しては、6月10日付で発行の『東京大学新聞』6月号に特集記事を掲載しています。そちらも併せてご覧ください。(お買い求めはこちらから)

 

学術会議の主な活動

 

学術会議は、科学に関する重要事項を審議し、その実現のために政府や社会へ八つの形で意見表出している。

政府の諮問への「答申」

関係機関の審議依頼への「回答」

政府への「勧告」

政府や関係機関等への「要望」

政府や社会へ広く意見を示す「声明」

政府や社会へ総合的・俯瞰ふかん的な「提言」

政府や社会へ専門的見地からの「見解」

審議の結果を発表する「報告」

 

八つの意見表出 第25期(20.10-23.9)の件数 具体例
答申 0件  過去には地球規模の自然災害の変化に関する答申など
回答 3件 「研究力強化に関する審議について」
勧告 1件 「日本学術会議のあり方の見直しについて」
要望 0件  過去には「宇宙科学推進に関する要望」など
声明 3件 「日本学術会議会員任命問題の解決」を求めたもの
提言 8件 「自動運転の社会実装と次世代モビリティによる社会デザイン」
見解 37件 「2040年の科学・学術と社会を見据えていま取り組むべき10の課題」
報告 27件 「深化する人口縮小社会の諸課題─コロナ・パンデミックを超えて」

 

 過去には、原子力基本法の基礎になった原子力平和利用三原則の声明(1954)や、観測隊を毎年派遣する契機になった南極観測の再開への勧告(1962)などの実績がある。学術会議の勧告などで作られた研究機関は50以上。大学間の共同利用型の研究所も学術会議の勧告に由来する仕組みで、東大でも宇宙線研究所や物性研究所、情報基盤センターなどのルーツに関わる。

 

 学術的な国際交流も主導する。42の国際学術団体に参加しているほか、各国のナショナルアカデミーとも交流。2023年にはG7サミットに合わせ、G7のナショナルアカデミーの代表者が集結するGサイエンス学術会議を主催した。これらの活動が、ニホニウムの命名権やチバニアンの国際境界模式地への認定を呼び込んだとする。

 

 専門家間の分野横断的プラットフォームの役割もある。コロナ禍では、パンデミックに対応したシンポジウムを、2020年だけで 16度開催。2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、21年に80以上の委員会・分科会の連絡会議が発足した。

 

論点はどこに 梶田隆章元学術会議会長が語る

 

 

 2020年から23年まで学術会議の会長を務めた梶田隆章卓越教授・特別栄誉教授(東大宇宙線研究所)が5月8日、駒場Iキャンパスで法案を巡る問題点を7点説明。梶田卓越教授が示した懸念点をまとめた。

 

  現行法 法案
学術会議の地位 内閣府に置かれる「特別の機関」 特殊法人
会員の選考方式 学術会議は、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、首相に推薦 新法への移行期間にあたる最初の選考は政府と協議で設置される候補者選考委員会が関与、その後はその時の会員が次の会員を選ぶ方式だが、新たに選定助言委員会が設置される
会員 会員 210人と連携会員約2000名 会員250人、連携会員は規定なし
政府の権限 会員の任命 首相任命の監事による監査や、首相設置の評価委員会による検査
その他  

秘密を漏らした場合、最大で1年の拘禁刑

 

  1. 法人化は学術発展に本当に貢献するか

 政府の関与・介入の強化や財政基盤の弱体化は自律的な運営を損ねると指摘。独立した意見表出ができなくなる可能性があるという。また、学術会議の重要な役割の一つに国際学術団体への参加があるが、資金難により参加が不安定になることが懸念されるとした。

 

  1. 学術会議の基本原則が変質しかねない

 現行法では前文で「科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献」することが理念に掲げられているが、法案では削除された。また、現在明記されている「独立」の文言も、「自主性及び自律性に常に配慮」と換えられている。

 学術会議は科学者の戦争協力への反省から1949年に設立されたが、設立時からの基本理念が揺らいでいると話した。

 

  1. 法人化の理由が不明確

 2015年に内閣府の有識者会議では学術会議が現行制度下でも「独立性が担保」され「これを変える積極的な理由は見出しにくい」としている。法案の審議にあたっては、法人化が必要になる理由が示されず、さらに学術会議が示し続けている懸念も無視されているとする。

 

  1. 国による多重の監督が制度化される

 法案では新たに、①中期計画・年度計画の策定、②首相任命の評価委員会による審査、③首相任命の監事による監査、④第三者による運営助言委員会の設置──を定める。政府の意向が活動全般に反映される可能性には、学術会議の独立性を脅かすリスクがあると話した。

 

  1. 会員選考への外部の関与

各国のナショナルアカデミーでは、専門的知識が必要な会員の選考は、学者が担うのが一般的。しかし法案では法人発足時の会員選考に外部の参与を規定。その後も第三者による選定助言委員会の設置を規定しており、会員選考における自主性が深刻に脅かされているとした。

 

  1. 財源の脆弱ぜいじゃく

 法案では補助金により補助することができるとしか定めがなく、十分な国際連携や委員会審議が行えなくなる危険があるとし、学問界全体に悪影響を及ぼす可能性を指摘した。

 

  1. 罰則規定の存在

学問は公開が原則と話した。学術会議では、一部の人事情報を除いて会議内容の全てが公開される。しかし、法案では「秘密を漏らした者」に最大で1年以下の拘禁刑が課されると規定されており、学術会議の原則にそぐわないと説明した。

 

【梶田卓越教授の講演に関してはこちら】

学術会議法改正案に懸念 梶田隆章前学術会議会長が駒場で講演会

 

東大教員アンケート

 

 東大には多くの日本を代表する研究者が存在し、東大教員にも日本学術会議の関係者が存在する。

 東京大学新聞社では東大教員は今の情勢をどう見ているか、メールでアンケートを実施。アンケートなど、学術会議の法人化に関しては、6月10日付で発行の『東京大学新聞』6月号に特集記事を掲載した他、東大新聞オンラインにて設問・回答も公開。そちらも併せてご覧いただきたい。

東大教員は学術会議の法人化をどう見ているか 各設問・回答一覧

 

 また、学問の自由に関しては以下の記事も参照。

【論説空間】「学問の自由」蝕む「改革という病」

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