里山再生に取り組むサークル「匠(たくみ)」が2025年3月に新しく設立された。失われつつある里山を残すべくどのような活動を展開しているのか、寄稿してもらった。(寄稿=橋口功大(匠))
里山再生サークル「匠」とは
里山再生サークル「匠」は、2025年3月に東京大学の学生が中心となって立ち上げたインカレサークルです。12月時点では、105名が参加しています。北海道から沖縄まで、全国30の大学から学生が集まっており、全国規模に広がっています。
| 地域別所属大学一覧 | |
| 北海道 | 帯広畜産大学、東京農業大学 |
| 東北 | 弘前大学、岩手大学、秋田大学、山形大学、東北大学、福島大学 |
| 関東 | 東京大学、東京農業大学、茨城大学、宇都宮大学、武蔵野大学、北里大学、早稲田大学、慶應義塾大学、国士舘大学、帝京科学大学、日本大学、日本獣医科学大学 |
| 中部 | 石川県立大学 |
| 近畿 | 京都大学、神戸大学、関西大学、立命館大学 |
| 中国・四国 | 広島大学、倉敷芸術科学大学、福山大学 |
| 九州・沖縄 | 九州大学、琉球大学 |
| 海外 | 独ハノーファー大学 |
失われゆく「日本の原風景」を守るために
なぜ今、わざわざ大学生が山に入るのでしょうか。それは日本の生物多様性が、かつてない危機に瀕しているからです。
かつての日本では当たり前だった、小川で遊ぶ子供たちの姿や、季節ごとに食卓に並ぶ山菜、夜になれば聞こえるカエルの大合唱。しかし、そうした「里山の当たり前」が確実に消えつつあります。
地方の高齢化や人口減少に伴って、農地や雑木林の管理放棄が進み、生物多様性が劣化しています。全国で一斉に地域の自然を守る担い手がいなくなってしまっているのです。同時に、若者が自然に触れる機会も減っています。野外に出ても生き物が少ない現代では、かつてのように生き物がひしめき合う「本来の自然」を知る機会はほとんどありません。それは若者の自然観にも影響を与えていていると考えています。
この危機に対して以下の4つの柱を掲げて活動しています。
①「里山を再生させ、豊かな自然を守る」
絶滅危惧種の保全や自然再生を通じて、本来の生態系を取り戻します。
②「地域社会で受け継がれてきた伝統・文化を継承する」
火入れや草刈りといった、土地に根づいた管理手法を古老から学び、次世代へ繋ぎます。
③「環境問題や生物多様性について考える」
現場での体験を通じて、人間と自然の共生のあり方を問い直します。
④「ナチュラリストを育てる」
幅広い視点から自然を見つめ、考えることができる人材の育成を目指しています。
今、世界では「ネイチャーポジティブ(自然再興)」がキーワードとなっています。生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるというこの国際目標を、私たちは現場で実践しています。絶滅危惧種を守ることは、地域の自然を守るだけでなく、関係人口を増やし、地域の文化や活力を未来へ繋ぐことでもあると考えています。

「匠」の3つの魅力
1.「誰でも楽しめる」活動
「絶滅危惧種の保全」や「調査」と聞くと、「専門知識がないと難しそう」「生物や農学の専攻じゃないと参加できないのでは?」という印象を持たれる人も多いと思います。しかし、それは大きな誤解です。
実際、今の「匠」を支えているのは、「初心者」たちです。文系の学生もいれば、これまで虫取り網なんて握ったことがなかったという学生もいます。
私たちは、「生き物や保全への知識のない方、大歓迎」というスタンスを貫いています。なぜなら、知識は後からついてくるからです。活動では、上級生や専門家の方々が同行します。彼らが「自然のどこを見れば面白いか」「この植物はどういう名前か」を教えてくれます。また、草刈り機などの道具の使い方も一から身につけることができます。
私たちの活動の根底にあるのは、かつての日本の集落で行われていた「結(ゆい)」のような共同作業の精神です。みんなで力を合わせて草を刈り、終わったら一緒におにぎりを食べる。「匠」での活動を通して、現代の学生生活で得難い経験と大学を超えた仲間とのつながりを得ることができると考えています。

2.オンラインでの「さとやま講座・交流会」
「現場に行きたいけれど、遠くてなかなか参加できない」。そんな学生のために、私たちはデジタルでの活動も行っています。
毎週木曜日の21時から、オンラインで「さとやま講座・交流会」を開催しています。ここでは、保全の現場で活動されている方や、各分野の専門家の方を招き、里山や生物多様性について深く学びます。
これまでに取り上げたテーマは、「春の芽吹きとツキノワグマ」の話から、「草原の火入れ」といった民俗知、さらには「ヨーロッパと日本の森林利用の違い」といった海外の事例まで、多岐にわたります。
そして、講座の後は交流会の時間です。画面の向こうには、北海道から沖縄まで、全国各地の学生がいます。「うちの地元ではこんな虫が見つかったよ」「今度、そっちの活動に参加しに行きたいな」そんな会話が飛び交い、大学や学年の垣根を超えた交流が生まれます。これこそが、全国規模のインカレサークルである「匠」ならではの醍醐味(だいごみ)です。
3.最前線での「本気の活動」
全国各地で絶滅危惧種を守るとともに、それらを指標として生態系全体の保全・再生に取り組んでいます。独自の調査結果や、専門家・保全団体との協議を踏まえ、保全の緊急性が高い場所を優先的に選定しています。そのため活動地域は生物多様性の観点から極めて重要な場所(ホットスポット)ばかりです。
現在、活動は約15地域に及びます(図)。対象としているのは、種の保存法に基づき国内希少野生動植物種に指定されているシャープゲンゴロウモドキやコヒョウモンモドキ、法指定はないものの絶滅の危機にあるマダラナニワトンボ、そして地域個体群として天然記念物などに指定されている山形県鮭川(さけがわ)村のギフチョウ・ヒメギフチョウなど、計17種類。今後も活動を拡大していく予定です。
私たちの強みは、地域に根差した科学的なアプローチです。認定NPO法人日本チョウ類保全協会などの保全団体や専門家、地元集落と連携した活動を行っています。網羅的な調査を実施し、そのデータに基づいて具体的な対策を行い、継続的なモニタリングを通じて管理手法を柔軟に見直す「順応的管理」を実践しています。
初めての人でも、先輩や専門家と一緒に活動することで、1年もすれば一通りの調査方法や保全方法を身につけることができます。自分が手入れをした場所に、数年ぶりに希少な生き物が帰ってきた瞬間の感動は、何物にも代え難い経験だと考えています。

一生モノの「原体験」を
私たちの活動は、地味で泥臭いものに見えるかもしれません。しかし、このサークルで活動する中で、今までただ「森」や「池」、「川」として見ていた空間が、全く違ったものに見えてくるはずです。どんな生き物がそこに生息していて、どんな生活をしているのか。「自然の見方」がわかるようになること、そして日本にまだ残る「本物の豊かな自然」をこの目で確かめられること。これらは一生モノの財産になると考えています。
自然が好きな人、環境問題に関心がある人、全国の大学生と交流したい人。どんな動機でも構いません。絶滅危惧種を守る最前線には、あなたの力が必要です。ご興味を持たれた方はお気軽にご連絡ください。
次回、連載第2回では、各地域での活動の中から、特に興味深い事例を深く掘り下げてご紹介します。
連絡先:satoyama.hozensaisei@gmail.com











