INTERVIEW / OBOG 2014年8月13日

『進撃の巨人』が生まれるまで 編集者川窪慎太郎さんインタビュー

2014年上半期売り上げオリコンランキング1位の漫画『進撃の巨人』。しかし、作者の諫山創さんは新人のころいくつか出版社に原稿を見せたが、どこも相手にしなかったという。諫山さんの良さを見出したのは、連載当初から『進撃の巨人』の担当編集者を務めている川窪慎太郎さんだ。川窪さんの編集者としての在り方に迫った。(取材・渡辺健也、撮影・渡邊勝太郎)

IMGP0106.JPG描きたいことを見つける―編集者の心得

――編集者として大切にしていることは

編集者になって9年ほどになりますが、漫画家として一番大切なのは絵の上手さじゃなくて「何を描きたいか」ということだと思っています。漫画は表現の手段でしかありません。別に歌が得意で表現できるならば歌で表現すればいい。多くの漫画家さんを見てきましたが、単純に絵が上手で描きたいから漫画家になる人は伸びにくいですね。

担当の漫画家さんとの打ち合わせでも、作者が何を描きたいのか想像しながら原稿を読みます。読んだ後は自分なりの解釈を漫画家さんに話して、解釈と漫画家さんの表現したいことにずれがあれば、アドバイスをします。

もちろん、『進撃の巨人』の作者の諫山創さんにも描きたいことがありますが、直接明言するのは気恥ずかしいと思っているようです。読者が自由に考えるべきだと。ただ、身近で接していて思うのは、漫画のセオリーを外そうとしていますね。例えば、他の少年漫画よりも残酷なシーンが多くあります。

描きたいものを漫画家さんと一緒に見つけるのも、編集者として必要なことだと思います。ベテランの漫画家さんになると描きたいことが分かっているのですが、新人の漫画家さんはそもそも「何を描けばいいか」もよく分からないことが多い。まずは本当に描きたいことを一緒に考えながら見つける作業を手伝います。

具体的には、漫画家さんと漫画以外のことを話すことが大切です。いつも何を考えているか、好きなものは何か、何が嫌いかなど人間的な部分を聞いてあげる。話している最中に漫画家さんが描きたいことに気付くことがあるんですよ。難しい作業ですし、自分が上手く引き出せているのかも分かりません。毎回試行錯誤してやっています。

 

――主な仕事を教えてください

主な仕事は漫画家さんと打ち合わせするのですが、最近は『進撃の巨人』関連で他社の人との打ち合わせなどの方が多いです。アニメや企業とのコラボなど漫画以外で『進撃の巨人』をどう売り込むのか考えています。

『進撃の巨人』を売り込む上で気を付けていることは、『進撃の巨人』を大衆化しすぎないことですね。連載はあと3、4年で終わる予定ですが、『進撃の巨人』は10年、いや50年語り継がれる作品だと思います。どこでも見られるようにすると、ただの消費財で終わってしまうのではないかと心配をしています。もちろん広く売り込むこととのバランスを取るのは悩ましいですけどね。

これは諫山さんも僕も一致した意見ですが、企業とのコラボをする線引きは、相手が『進撃の巨人』を面白がっているかです。ただ人気に乗っかるのではなく、キャラクターの性格や物語など作品を生かした企画ならば、コラボしています。

出社時間は漫画家さんが基本的に夜型なこともあり、昼間の2時ごろです。退社時間は夜の2時くらいが普通ですが、打ち合わせが長引いて朝までかかることも。土日は月に2、3回会社に行くこともありますが、あとは休みます。

 

原稿から情念感じる―諫山さんとの出会い

――『進撃の巨人』作者の諫山さんとの出会いを教えてください

諫山さんが新人のころに講談社に原稿を持ち込んできて、僕がその原稿を見たのが始まりですね。原稿から情念というか並々ならぬ思いが伝わってきて、目に留まりました。ただ絵や話の技術はまだまだだったので、2年間絵の練習をしてもらい、時々編集部に来てもらって助言をしました。

偉そうですが、実は『進撃の巨人』は売れると思っていて、連載前に諫山さんに初版100万部を目指そうと言いました。初版100万部は漫画では超人気作品です。諫山さんは驚きましたが、連載用のネームを読むととにかく面白かったのでいけると思いました。

 

――諫山さんとは普段どのようにやり取りしているのでしょうか

『進撃の巨人』は月刊連載ですから、月の初めに1週間から10日くらいネームという漫画の下書きの打ち合わせをします。諫山さんは講談社でネームを描くので、描き終わったら編集部に見せに来てくれます。

どのくらい手を入れるかは月によってまちまちで、先月打ち合わせしたものは面白くてほぼ修正しませんでした。連載当初のころは全ボツと言って全部書き直してもらうことがありましたが、この1、2年はないですね。

ネームを描き終わると諫山さんは実際に漫画を描き進めるので、会うことはほとんどないです。ただ漫画以外の打ち合わせもあるので2、3日に1回電話で連絡を取ります。

 

IMGP9985.JPG――『進撃の巨人』で一番好きなシーンは何ですか アニ・レオンハートというキャラクターが、主人公のエレン・イェーガーたちに自分の正体を明かすシーンが好きですね。もともとアニはエレンたちの仲間でしたが、正体に気付かれます。するとアニは「全く傷つくよ」という言葉で告白し始めるんですが、それがかっこいい。アニはエレンの仲間を何人も殺したんですよね。そんな裏切り者なのに「全く傷つくよ」というセリフにしたのは驚きでしたね。

 

――諫山さんはどんな人ですか

謙虚で本当に立派な人です。諫山さんは講談社で栄養ドリンクを何本も飲んで夜遅くまでネームを執筆することもあります。それでも朝帰宅する時に深々と頭を下げて「遅くまで付き合ってくださりありがとうございました」と言ってくれるんですよ。

諫山さんは今や超売れっ子漫画家で、もし講談社から他社に移ると言えば講談社中がひっくり返るほど影響力があります。それなのに謙虚で見習いたいです。

 

漫画漬けの学生生活―編集者に至るまで

――どんな東大生生活を送っていましたか

漫画ばかりの生活でした。当時付き合っていた彼女の実家に入り浸っていたんですが、その子も漫画好きで一緒に漫画や小説を読んでいました。夕方に起きて、一緒に漫画を読んでゲームセンターに行って、帰って朝まで漫画読んで寝て……その繰り返しでしたね。二人で漫画喫茶で漫画を読みながら夜を明かすこともよくありました。

漫画は何でも読んでいて、雑誌なら、ジャンプ、サンデー、マガジン、ヤングマガジン……15誌くらい読んでいました。小説は1年で150冊くらいだと思います。特に村上春樹さんが好きで繰り返し読んでいました。

サークルも途中で辞めましたし、授業も真面目に受ける方ではなかったです。真面目な学生ではなかったですね。

 

――就活ではもともと出版志望だったんですか

こんな性格なのでもともと働きたくなかったですよ(笑)。ただ、生活はしなければならないので、「どんな条件なら働き続けられるか」を考えました。考えた条件は①転勤がない②早起きをしなくてよい③私服で出社できる――の三つ。この三つを満たすのが講談社でした。経済学部出身なので銀行や商社も受けたんですが、三つ全てに当てはまらないですよね。そこしか受からなかったらどうしていたんでしょうね(笑)。

今、会社に行きたくないと思うことはないですし、毎日楽しく仕事しています。何千万部も売れる人気作品に携われる機会なんて今後はないですし、やりがいを感じています。

 

――川窪さん自身の未来や『進撃の巨人』の今後は

正直大それた目標があるわけでもないですが、担当になった漫画をできるだけ長期連載させたいですね。諫山さんが『進撃の巨人』の連載まで3年以上かかったように、漫画って連載までに1年以上準備します。でも終わるのは一瞬で、1話目の人気が最下位ならば打ち切りなんですよ。1年以上続く作品は10作品中1作品くらいと厳しい。打ち切りで途方にくれた漫画家さんも多く見てきたので、漫画家さんの力になりたいです。

『進撃の巨人』は5年近く連載していますが、伏線を仕込むのはおしまい。あとは結末に向け伏線を回収するだけと諫山さんは言っています。僕が連載当初から面白いと思っている謎の一つもまだ明かされていませんので、楽しみにしていてください。

 

川窪慎太郎さん(かわくぼ・しんたろう) 週刊少年マガジン編集部

ご経歴

05年経済学部卒。06年講談社に入社。入社1年目に諫山創さんと出会い、『進撃の巨人』連載当初から担当編集者を務める。

 

  この記事は2014年8月5日夏季特集号の転載です。本紙では他にも独自記事を掲載しています。

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