INTERVIEW / FEATURE 2019年4月15日

若者よ、社会の原動力となれ 小宮山第28代総長と見る東大の平成と未来

 次の時代が日の出を迎えようとしている。夜明け前の東大は、暗闇の中を手探りで進んでいるように映る。学生は時代の変わり目にどのように向き合っていくべきなのか。平成年間に工学系研究科長・総長などを歴任し、平成の東大を見つめ続けてきた小宮山宏氏(三菱総合研究所理事長)の言葉から、光明が見えてくるかもしれない。

 

(取材・小田泰成 撮影・石井達也)

 

小宮山宏(こみやま・ひろし)第28代総長
 72年工学系研究科博士課程修了。工学博士。05~09年に総長を務め、09年から三菱総合研究所理事長。

 

──まずは、東大の研究についてお聞きします。平成の30年間で進歩したのでしょうか

 

 私にその質問をすること自体が時代遅れだ。今はみな、自分のごく近くの学問分野以外は、専門的過ぎて分からなくなっているし、学問の価値自体も変化している。研究が進歩したかどうかは測れない。多数の信頼できる専門家の話を総合するか、あるいは統計から推測するしかないと思う。

 

 「応用研究ばかりが重視されて、基礎研究が駄目になっている」という言説についても、研究費の統計や、何人かの専門家の話からそうなんだろうけれど、一つ一つの研究は必ずしも投入された研究費と成果が比例しない。ただ私の専門の工学系・化学系に限って言えば、大学ランキングを見ても、今でもトップクラスだよ。

 

 ノーベル賞も昔とは位置付けが変わっている。例えば1945年のノーベル生理学・医学賞になったペニシリン(世界初の抗生物質)は、そのまま製薬会社の莫大な利益につながったし、多くの人々が感染症から救われた。一方(日本人3人が受賞した)2014年のノーベル物理学賞は、LED自体を発明した功績ではなく、LEDの実用化への道筋を開いた青色LEDの発明だった。以前はノーベル賞という知識の表彰が人の幸福や企業利益と一体的だったのが、変わってきている。

 

 

──では東大の研究について、ご自身の任期(2005~09年)中はどうだったのでしょうか

 

 就任時に「東大を世界一の大学にする」と宣言した。その核心は、人類が抱えている課題に、真っ向から対峙している研究グループが必要だという点にあった。事実私の任期中には、サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)、数物連携宇宙研究機構(IPMU)、ジェロントロジーの寄付講座などを立ち上げた。本質的な課題を追求し、世界をリードすることが世界一の大学の意味だと思うよ。

 

──任期中、総長としてはどのようなことを実行しましたか

 

 以前の総長は、主に入学式と卒業式の挨拶しかすることがなかった(笑)。でも2004年の国立大学法人化以降、総長には「大学を経営体として運営する」という使命が課された。だから私は学内の調整役に回った。自律分散協調系を標ぼうして、協調系の推進に回ったんだ。

 

 主な仕事の一つは資金調達だ。毎年約100兆円の国家予算のうち約6割が社会保障費で、それも毎年2兆ずつ増えている。どう考えても、大学に回せる交付金は減っていくよ。私は国に「交付金を増やせ」と言い続けてきたけれど、それは言い続けないともっと減らされてしまうからであって、増えることを期待しているわけではない。現実的な手段としては、東京大学基金を立ち上げたり、産学連携を進めたり、調達の合理化を図ったり。いろいろな方法を使ったよ。

 

 

 もう一つは声掛けだ。委員会だと形式的になってしまうので、昼食会のような場を設けて、教職員と議論をした。自由闊達に話し合うから決まるんだ。草木が生い茂って立ち入り禁止だった一二郎池を整備したのも、構内に4年間で5か所保育所を作ったのも、話し合いの成果だよ。委員会はただ合意を取るだけ。

 

──平成年間の東大で一番大きな出来事は何だとお考えでしょうか

 

 やはり国立大学法人化だろうね。ただ、東大は比較的うまくやってる方だと思うけれど、他の国立大学を見ていると、法人化の主旨を生かせていない。つまり、自由になり切れていない。

 

 私の任期中、事務系の部長専用の車が運行されていたことがあった。文部科学省に、東大として取り組みたい事項のお伺いを立てるためだろう。でも相談したところで「やめろ」と言われるに決まっている。役人は2年間何も起こらなければ昇進できるのだから。だから、部長たちを集めて「私に無断で文科省に行ったらクビだ!」って言って怒ったよ、本当にクビにはできないけれど(笑)。

 

 

──最後に、次の時代に向けて、東大の学生には何を期待しますか

 

 日本の学生はおとなしいね。国は経済を維持しようとして、国債をどんどん発行しているけれど、借金を背負うことになるのは若者だろう。電力だって、世界はみな安価な再生可能エネルギーにかじを切っているのに、日本はいまだに火力発電だ。若者がもっと声を上げてもおかしくない状況なのに、そうなっていない。

 

 多くの学生は大学を出たら就職するだろうけれど、企業に入ったら今よりもっと不自由になってしまう。上意下達の組織で独創性が育まれるわけがない。基本的に上の世代は現状維持を望むから、やはり若者が声を上げていかないと。

 

 私は地球が持続し、豊かで、人の自己実現を可能にする社会を「プラチナ社会」と呼んでいる。例えば種子島には大学はないけれど、東大などの学生がチューターとして島の高校生に教えるなどして、プラチナ社会化を進めている。研究と教育の距離がすごく近くなっているといえるだろう。私はこれを、大学と社会が一体となって課題解決を目指す「超大学」と考えている。やはり学生がエンジンとなって、課題解決のために社会全体を動かしていかないといけない。

 

 それだけですね。勉強は今も昔もよくできますよ。

 取材後、小宮山第28代総長は「時間がなくて話し切れなかったから」と、自著を何冊かくれた。「どうせ君たち読まないんだろ?」と笑いながら。次の時代が来るまでに、ちゃんと読み終えなくては。

 

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