INTERVIEW / OBOG 2019年7月18日

「心」の根本的理解を目指す神秘主義 視野広げ真理を探求

 現代は科学に絶大な信頼を置く時代であると同時に、既存の価値観が揺らぐ激動の時代だ。個々人が信念を持つことが重視される中、スピリチュアルな観点から人間の「心」に迫る運動がある。目に見えないものを探求する神秘主義という思想について、神秘哲学団体・バラ十字会AMORC理事である東大OBに取材した。

(取材・長廣美乃)

 

本庄 敦(ほんじょう・あつし)さん
非営利・非宗教の世界的教育組織「バラ十字会AMORC」理事、日本本部主宰。東大教養学部卒業後東芝に入社し、2007年より現職。

 

━━東大の学部時代には何を学んでいたのでしょうか

 理Ⅰから教養学部基礎科学科(当時)の物理・数学コースに進学しました。もともと物理に興味がありましたが、物理学などの学問そのものよりも、それらが成立する根拠にあたる哲学を学びたいと思ったからです。例えば、人間の観測は現象に干渉してしまうため、純粋な現象、つまり意識と独立した実在は存在しないのではないかという「観測問題」などがあります。

 

 それから、科学史についても学びました。今では多少言い古された観もありますが、トマス・クーンの唱えたパラダイム・シフトの概念に影響を受けました。

 

━━大学受験はどういったものでしたか

 元から物理や数学が好きで勉強していたこともあり、あまり苦労はしませんでした。良い勉強仲間がいたことも大きかったと思います。予備校の授業に潜り込んだりもしました。

 

━━大学時代の生活は?

 哲学、特に科学哲学と神秘哲学の本は山ほど読みました。TBAというバドミントンサークルに所属し、家庭教師や塾講師のアルバイトをしていました。

 

━━バラ十字会との関わりは既にありましたか

 大学1年次からバラ十字会で学び始めました。雑誌の広告で、以下のような印象的な問い掛けを見たことがきっかけでした。「宇宙と自然界と人間に見られる秩序の背後にあるものは何でしょうか? エネルギーでしょうか? 法則でしょうか? 精神でしょうか?」。この問いにとても興味が湧き、はがきを送ってテキストを取り寄せました。その後は主に自宅で学習し、年に数回勉強会にも出席しました。

 

━━バラ十字会に興味を持った背景は

 高校時代から友人らと「絶対に確実な知識は存在するか」などの議論をするなど、もともと哲学的なことに興味がありました。昔の学生はよくそういった議論をしていましたね。また、小中学校では周囲に親の社会的地位がとても高い友人が多く、父が町の実業家でであった自分とは「見ている世界が違う」と感じたことも背景にあると思います。慣習や常識にとらわれない、広い視野を持ちたいという思いがありました。

 

━━学部卒業後は東芝に就職したと聞きましたが

 6年学部に在籍した後、東芝に入社し18年間勤務しました。大学の先輩が働いており、就活は大学の教員に付き添われて企業訪問をするなどしました。東芝勤務時代は、前半はデジタルカメラの部品であるCCDの製品開発、後半は半導体集積回路のトランジスタの研究開発をしていました。

 

━━その間もバラ十字会とは関わりがありましたか

 学習は続けており、10年目くらいからはテキストや雑誌の翻訳を手伝うなど、ボランティアとして関わっていました。その流れで当時の代表から抜擢されて東芝を退職し、2007年から現職に。

 

━━転職に際し迷いは?

 当時の東芝は早期退職制度もあり、迷いは特になかったです。むしろ同じ仕事を一生続けていくことへの疑問、違う世界も見てみたいという気持ちがありました。

 

━━現在のバラ十字会AMORC日本本部代表としてのお仕事は

 通信講座の教材の提供、集会の開催のほか、一般向け講演会の開催、雑誌・書籍の翻訳監修を行っています。

 

━━組織について簡単に教えてください

 カリフォルニアに世界総本部がある非営利の神秘哲学団体です。日本での活動は会員制の通信講座と、友愛組織としての集会の開催が中心です。現在、世界に数十万人の会員がいます。特にフランス、ブラジル、米国で盛んです。

 

━━神秘哲学とはどういったものでしょうか

 「知」の一種です。知という言葉で、現代人の多くが思い浮かべるのは科学ではないでしょうか。科学は物質の領域では正確な知を蓄積しています。一方、心、特にその深奥の領域に関しては根本の把握が進んでいません。神秘哲学は心の深奥を主に扱います。物質についての知と心についての知が結び付いたときに、より良く生きることに役立つ真の知が成立するので、科学と神秘哲学は、将来的には協力し合うのではないかと考えています。

 

━━バラ十字会の提唱する、心に関する具体的な概念は

 現代の主流の考え方の一つを表す言葉に、マテリアリズムがあります。この言葉は物質を精神的価値よりも重視する「物質主義」と、宇宙の根本要素は物質だけであるという「唯物論」の二つを意味しますが、神秘哲学はどちらとも異なる見解です。

 

 唯物論の一種である物理主義は心を脳という物質の働きとして説明しますが、神秘哲学では心は物質に還元されないと考えます。これは一見、世界は物質と心からなるという二元論に聞こえますが、そうではなく、両者を統一する原理があるという見方です。例えば光と音は、いずれもエネルギーと呼ぶことができますが、振動数の違いゆえに異なる現象として現れています。物質と心もこれと同じような関係にあると考えることができます。

 

━━本庄さんは東大で、アカデミズムに触れる経験をされたと思います。バラ十字会もアカデミックな活動を行なっていると聞きましたが

 バラ十字会が編集する学際的な国際オンラインジャーナル『The RoseCroix Journal』は、科学・歴史・芸術・神秘哲学・スピリチュアリティのうち2分野以上にまたがる論文を特に募集しています。非会員も寄稿でき、査読審査を通り掲載されれば研究者としての業績になります。越境的な論文を募集しているのは、現代の学術研究はあまりにも細分化・専門化されてしまっているため、より良く生きるための「知」に結びつきにくいという問題意識からだと思います。

 

 また、会員により構成されるバラ十字国際大学という研究部門が、教材をより良くするために医学や心理学、エジプト学などの研究をしています。

 

 今はアカデミズムにとって良い時代です。望む情報を自由に検索・閲覧・発信し、貢献することができます。中世ヨーロッパの、特定宗教に考え方を縛られた時代とは対照的です。

 

━━現代における神秘哲学の意義は

 ゲーテの詩に、以下のような文言があります。「雷雨の来る前、やがて長い間一掃されてしまうほこりが最後に猛烈にまきあがる」。現代はそのような転換期の時代であると考えます。

 

 現代社会はさまざまな面で危機的状況にあります。環境破壊、ポピュリズム、宗教原理主義の台頭、経済の投機化。マテリアリズムの影響が強くなりすぎた、その揺り戻しとして空前絶後の混乱が予想されます。今後数十年に予想される大変化を人類が無事に乗り切るには、一人一人が聡明であることが重要です。そのために神秘哲学が提唱しているのは、個人の道徳意識を絶対的意識につなげることです。

 

━━後輩である東大生にメッセージをお願いします

 皆さんの中には、今後社会の指導的立場になる方もいることでしょう。過渡的な時代には見識の広さ、聡明さが決定的に重要になると思います。余裕のあるうちに視野を広げ、非常識とされる意見を再検討する力を身に付けてください。科学の多くの分野も、かつて非常識とされていたことが常識に変わった歴史を経ているのですから。


この記事は2019年6月11日号の拡大転載版です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

 

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新研究科長に聞く:①経済学研究科 渡辺努教授
世界というキャンパスで:分部麻里②
サーギル博士と歩く東大キャンパス:②本郷キャンパス三四郎池
ひとこまの世界:駒場の商店街で食べ歩き
キャンパスガール:黒田汐音さん(文Ⅲ・2年)

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