INTERVIEW / FEATURE 2020年1月25日

【受験生応援2020】東大日本史のカリスマ講師が語る、東大受験に求められる力とは

 今年も東大2次試験(22527日)まで残り約1カ月となった。2次試験直前期の受験生に求められる力や心構えはどのようなものなのだろうか。今回は、自身も東大文学部の卒業生であり、現在は学研プライムゼミなどで日本史の講師を務める野島博之先生に話をきいた。

(取材・撮影 原田怜於)

 

野島 博之(のじま ひろゆき)先生 東大文学部日本史学科卒業。駿台予備学校、東進ハイスクール講師を歴任し、現在は学研プライムゼミ特任講師・朝日カルチャーセンター講師。豊富な知識と徹底された問題分析から授業を展開し、受験生から厚い信頼を得ている。

 

━━ご自身の受験生時代は

 詳しいことは何しろ数十年前のことで思い出せない部分も多いのですが、一番感じていたのは「格差」です。私は三重県の出身で、まず驚いたのは地方と都心の格差。それから、そこそこの進学校と「本当の進学校」の格差は厳然としてありました。その差はトレーニングの総量の違いが生んだもの。僕は1年間東京で浪人生活を送りましたが、そこで出会った「本当の進学校」の生徒は誰もが中学生の頃から大学受験を見据えて勉強していたし、何年分も前倒しになるカリキュラムに乗っかって皆が浪人生のような学力を現役の時から身に付けていました。僕の大学受験は、そこをどう埋めるかが一貫した課題だったと思います。

 

 大学受験が抱える問題として現在でも言われるのは、経済力はもちろんですが、「親の学歴」の再生産。東大生の親に東大出身者が少なくないというのも、突き詰めれば一種の格差です。行き着く先は「新たな身分制社会の形成」に他なりません。私が日々更新している「グラサン日記」も、そうした傾向を少しでも和らげ、可能性を広げる一助になればという思いがあります。

 

━━受験を通して得られるものは何でしょうか

 まず大学受験とは確実に、ヒトが直面する試練の一つです。社会には様々な試練がありますが、その中で間口が一番広く、制度として成立しているもの、いわば最も「システマティックな試練」が大学入試ではないでしょうか。

 

 受験を通して養うことができるものとは、端的に言うと、現代社会を生き抜くのに必要な物事の見方だと思います。利他主義的な考え方であったり、自らの手で必要なものを選び取っていく力であったりというのは、受験を通して獲得可能な部分が大きいと感じています。それから高校までの学習内容の習得は、知性の基礎を身に付ける作業でもあるので、やり切ると世界のことを了解できるような気もしてくる。いずれにせよ、これらは人生100年時代と呼ばれる長い道程を生きる上でとても大切なものです。それを驚異的な密度で注入できる機会は、受験期以外にそうそう訪れるものではありません。

 

 中学受験や高校受験は、極端なことを言えば、全教科面倒を見てくれる人がいれば志望校に入れるという面もある。けれども、大学受験はそうはいかない。志望校選びから戦略の練り方や傾向分析、どういう教材・勉強法を選択するかまで自分で決定すべき事柄になります。何をどう駆使していくべきか、日々決断を迫られるといっても過言ではない。でも、こうした特徴を見抜いて作戦を立てれば「小よく大を制す」チャンスも次々に生まれてきます。状況をいつも前向きにとらえ、楽しみながら考え抜く姿勢が大切ではないでしょうか。

 

 

━━受験生にとって、合格に必要な能力とは

 まずやらなければいけないのは、手抜きをせず頭をフル回転させて勉強することです。目安としては、2時間やってくたくたになれるかどうか。本当の集中力は、このあたりで限界を迎えるはずです。

 

 「できる受験生」とは往々にして、要領が良く見えます。けれども彼ら自身には、そのつもりはない。彼らは「あっちでやったことをこっちでも使う」という頭の働かせ方をしているからそう映るのだと考えています。例えば数学の証明問題で使った論理を、現代文の記述に応用するといった具合に……。これができている受験生は、話していても頭の強さを実感するものです。

 

 一方で、なかなかダイナミックな知の結び付きが起こらず、結果として実力が頭打ちになってしまうケースもあります。このパターンは、能力はあるんだけれども、勉強自体に面白みを感じられていない生徒が多いなという印象です。

 

━━受験生にとって、必要な心構えとは

 受験が終わった後に周囲の人に感謝するのは当然ですが、直前期に限って言うならば、中世の武士のように「自力救済」の精神を持つことです。もうここまできたら、人に頼らず前に進んでいくしかない。勉強とは、進めていくと次第にそう思えるようにできています。それに、大学受験に臨むというのは、今後自らが生きていく世界を選ぶという決断でもあります。覚悟を決めて、すがすがしい精神で受験に挑んでほしいと思います。

 

━━東大受験生に期待することは

 成績が上位の受験生たちは総じて、大変優秀です。それに加えて実際に東大教室で話していても、優しさとか思いやりといった人格面も育っていると感じる場面が多々あります。

 

 一方で残念なのは、皆生き急いでいること。東大受験生や中高一貫生はとにかく先取り学習が大好きだし、予備校の中には現役生専用を謳うところもあります。できるだけいい(とされる)レールに乗ることに主眼が置かれてしまっている結果です。でも、生き急ぐ必要はどこにもない。昔、元服(男子の成人)が13歳前後だった平安時代の平均寿命は30歳台。成人が20歳と定められた時も、平均寿命は50歳に届いていませんでした。今のライフスパンでいうと、成人になるのに本当は30年くらいかかってもいいはずです。むしろその中で、時に道草を食いながら、いろいろなことを学んでいくことの方が大切でしょう。

 

 現代社会は、常に変化が激しく、その見極めはとてつもなく困難です。皆さんはそうした暗中模索的な世界を生きていくのであり、生きていくために勉強すると否応なく決めたのです。ならば、早々に進路を決めてしまって、狭い部分ばかりをいびつに鍛えて他の部分と向き合わない考え方や、時代の流れを読もうとしない選択はしてほしくない。幕末・明治維新の数年前に、幕府官僚になる努力を重ねるような愚を、決して犯してはいけません。いろいろな可能性を探り、困難に直面しても柔軟に対応できるヒトになってほしい。そのエネルギーは、例えば歴史を知る過程でその連綿とした流れの中に自分を置いてみる、そうした知的な営みを通して育まれるのではないかと考えています。

 

━━最後に、東大受験生へのメッセージをお願いします

 たまたま、とてつもなく幸運なことに、皆さんは東大を受験できるレベルにまで到達したのだから、その能力を精一杯生かせるように頑張ってほしいなと思います。今は気付けないと思いますが、受験生とは相当に難解なことをどんどん吸収できる存在です。それに、長時間勉強した後の心身の回復も早い。これは生物学的に若い世代に与えられた特権です。どうかその力を存分に活用して、合格を勝ち取ってください。

 

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