報道特集

2021年9月10日

【新体制のキーパーソンに聞く】社会から変わらせられるのではなく、自ら変えていく 林香里理事・副学長(国際、ダイバーシティ担当)

 

 今年4月に藤井輝夫総長が新総長に就任し、新体制が発足してから5カ月が経った。東大の新たなキーパーソンたちは東大が抱える課題にどう向き合ってきたのか、そして今後どう解決していくのか。今回は、国際、ダイバーシティ担当に就任した林香里理事・副学長に話を聞いた。(取材・池見嘉納)

 

ダイバーシティ 男女共同参画室を拡充へ

 

──国際、ダイバーシティ担当の理事・副学長に就任して9月で5カ月だが、現在の所感と今後の意気込みは  

 

 多くの教職員が東大を支えてくれていることを就任に際して改めて感じ、感謝している。東大には歴史と伝統、実績があり、それを大事にしながら新しいものをつくっていく責任を日々痛感している。

 

──多様な人材が活躍する大学の意義は。またその意義をどう発信するか  

 

 東大は研究・教育の機関としてトップクラスの水準を保ち、優秀な学生を教育する責任がある。多様な学生がいることで、さまざまな立場からの視点を交えることができ、それが新たな発見につながる。多様なものの見方を尊重する姿勢は、世界水準の高等教育機関としての大学に必須の条件だ。現状東大はまだ多様なものの見方を大切にする組織文化が育っているとは言えないので、発信の前にむしろ社会から学ぶ点もあると認識している。

 

──ダイバーシティ推進や国際化といった改革でどのような東大像を構成員や受験生にアピールしたいか。逆にこの観点からどのような入学希望者を歓迎したいか

 

 「日本人のエリート男性の大学」という東大像が今でも通用しているが、藤井総長の「世界の誰もが来たくなる大学」というキーワードの通り、研究が好きな人、リーダーになりたい人、何かに秀でている人たちが性別、文化、障がいの有無などにかかわらず誰でも入学したくなるキャンパスをつくっていきたい。地方の学生や女性学生、海外の学生といったこれまであまり東大に来なかった属性の人にも来てほしい。特にどんな分野でも「リーダーになりたい女性」には是非受験を考えていただけるよう取り組んでいきたい。

 

──ダイバーシティを学ぶ機会を増やすために取り組んでいることは  

 

 就任して4カ月後に前期教養課程の学生向けにD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に関する啓発動画が公開された。まずはイベントを開催したり、啓発動画を活用して学生とコミュニケーションを取れる機会を設けたりしたいと考えている。ダイバーシティに関する教育プログラムは各部局とコミュニケーションを取りながら進めていく。さらに、学生へ多様な学びの場を企画するため男女共同参画室に次世代育成部会を設置する準備をしている。   

 

──東大の男女比の偏りについて、日本の社会が抱えるキャリアに対するステレオタイプの観点から語られることが多いが、どう考えているか  

 

 確かに日本社会が女性の性別役割分担を固定する社会であり、そのため東大の男女比が男性に大きく偏っていることは間違いない。しかし、研究分野で世界をリードしようとする東大が、ジェンダー分野だけ「日本社会と同じだからしょうがない」と納得してしまうべきではない。世界ではジェンダーを含むダイバーシティへの意識が高まっているので、東大も社会から変わらせられるのではなく、自ら変えるべきだと考えている。

 

──男女比に偏りがある現状にどのように危機感を抱いているか  

 

 主に三つの点で危機感を抱いている。まず、男女間で学力・知力には差がないのに男性が8割を占めるというのは、それだけ優秀な女性を取り切れていないということ。次に、社会がダイナミックな変化を見せる中で、日本人男性の見方だけでなくいろいろな立場の見方を理解することが必須となっているという点だ。あらゆる局面からものごとを見る強靭(きょうじん)な知を育てるためにも、多様性が確保されなければ今の社会についていくことすらできない。最後に、世界中で多様な研究者との共同研究が立ち上がり、活発な議論を交わす中、東大が取り残されているという点を懸念している。   

 

──男女比改善の緊急措置として、あるいは男女比に関わらず多様な学生を受け入れるために入学者選抜に対しクオータ制(性別などの基準で定員を割り当てる制度) などの何らかの措置を講じることを考えているか  

 

 入試はこのままではいけないと感じている。しかし、東大入試は戦後日本の教育の集大成というシンボリックな一面があり、そういったものに手を加えるに当たっては先述したような喫緊の課題を皆さんに理解してもらい、一緒に議論する必要がある。クオータ制には確かにメリットはあるが、一方で今の日本社会では受け入れら れにくいところがあり、すぐに導入したとしても議論がクオータ制の是非に集中してしまい、本来のジェンダー平等という目的を達成できないのではないかと思っている。   

 

──東大で見られるセクハラや男女差別などについて東大特有の原因はあるか  

 

 セクハラは多くの場合、男性による女性への支配欲に起因する。東大では男性が圧倒的なマジョリティーだ。また、女性に対して「男性だからこれぐらいは」の延長線上に「東大生だからこれぐらいは」という考えがある。   

 

──セクハラや性暴力、差別的言動について学生、教員といった各構成員に対しどのような教育を行うか 

 

 教員は学生に単位・学位を出す側として大きな権力を持っているので、権力に付随する義務を自覚し、教育者としての高潔さを保つべき。学生たちも、まさに19年度入学式の上野千鶴子先生の祝辞のとおり、自分たちが恵まれた立場にあることを自覚し、恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々をおとしめるためにではなく、そういう人々を助けるために使うよう、知識や能力の目的を自覚し、他者を尊重するような教育をしなければならない。   

 

──現状のハラスメント相談体制の課題・改善点は  

 

 ハラスメント相談所の相談員はとても真摯(しんし)に対応しているが、大学規模に対して相談員が少ないので相談員の側がもっと余裕を持って対応できるようにしたい。また、こちらとしてはもっと手軽に相談してほしいと考えていて、ハラスメント相談所に行く前に相談できる場所も増やしていきたい。現在も「なんでも相談コーナー」や「駒場キャンパスセイファー・スペース(KOSS)」があるが、需要は大きいと考えている。さらに、そばにいる教員や友人にも気軽に相談できる雰囲気があるキャンパスをつくっていきたい。そのためにもダイバーシティ・インクルージョンの教育が必須で、先述の次世代育成部会を中心に教育イベントや出会いの場をつくっていきたい。

 

「誰もが受け入れられる大学」発信へ

 

──性的マイノリティーの方々への支援や学生への啓発は、学生向けの動画教材を作成するなど学生団体が中心となって推進しているが、大学側にしかできない組織や施設の整備、システム面の改善などはどう進めていくか  

 

 学生団体の方々にもお世話になっているが、東大側としても個別の相談体制の整備などを行ってきた。制度面については、性的マイノリティーの方々をどのように受け入れ、心地良く大学での活動に専念してもらうかは、まだまだ制度的にも不備があると考えており、意見をいただきたい。また、就活の問題などを考えると東大内だけで完結できないことが課題だ。東大が多様な性を受け入れる大学であるということについて対外的に発信する必要があり、その点については現在検討している。

 

──障がい者の方々に対する設備や支援などで今後一層注力していきたいことは  

 

 障がい者の方々が安心して学べる環境を素早く準備、提供できるように今まで取り組んできた。これからは個別の対応はもちろんのこと、東大が「あらゆる障がいを持った方々が受け入れられ、守られる大学」であるということを組織として発信していきたい。   

 

──国際性について、教育面で課題は。どのような取り組みを進めていくか  

 

 留学生数で言えば日本の大学では多い方だが、英語開講の授業はもっと増えてもいいと感じている。3年前から始まった国際総合力認定制度(Go Global Gateway)は、国際化にあまり興味のない学生や英語が苦手な学生にも東大で国際化を感じてもらう動機付けになっている。部局にも専門性を生かした留学や国際交流プログラムなどがあり、さらなる展開を期待する。本部としては、そうした取り組みを体系化する国際総合力認定制度に東大生全員が登録して、一人でも多くの学生が認定証を手に入れるまで頑張ってほしいと考えている。   

 

──ポスト・コロナでのオンライン・オフラインでの国際交流のあり方は  

 

 コロナ禍で海外留学ができなかったこと、今なお海外留学が難しい大学があることを申し訳なく思う反面、オンラインによる交流プログラム等も実施し、手軽で参加しやすいという発見もあった。流行が収束した後もこうしたオンラインによるプログラムを国際交流の方法の一つとして、また実際に海外渡航する留学の準備段階として活用すべく、新たな国際教育プログラムの一環として作成に取り組んでいく。

 

 

林 香里(はやし・かおり)理事・副学長(国際、ダイバーシティ担当) 88〜91年ロイター通信東京支局で記者として勤務。97年東大大学院人文社会系研究科博士課程退学。博士(社会情報学)。東大大学院情報学環助教授(当時)などを経て09年より同教授。東大総長特任補佐(国際関係/ダイバーシティ担当)などを経て21年4月より理 事・副学長。専門はマスメディア、ジャーナリズム研究。

 

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