インタビュー

2014年4月18日

【20年前の東大、今の東大】「ささやかなエゴイズムの大切さを説きたい」 三田誠広さんに聞く2

 大学生の平均年齢を20歳とすれば、今の大学生が生まれたのは、およそ20年前。その頃の『東京大学新聞』でも、「大学とは、大学生とは何か」ということは、大きなテーマの1つだった。編集部員は、気鋭の作家や学者が発表した作品に刺激を受けると、取材を申し込んで話を聞き、記事にまとめていた。
この20年で、大学は、そして社会は、どう変わり、変わっていないのか――。20年前のインタビュー記事を、再度、そのまま掲載するとともに、当時取材した編集部員がもう一度、20年ぶりに、同じ人物にインタビューして記事にする。その2つの記事を読み比べたら、何が見えてくるのだろう?

mitamasahiro.jpg作家・三田誠広

(1995年の三田誠広さんのインタビューを読む)

三田誠広さんは現在も作家活動を続けつつ、武蔵野大学教授として大学生とも日常的に接している。
およそ20年ぶりに連絡をとらせていただき、記事の再掲と改めてのインタビューを申し込んだところ、有り難いことに「質問事項を送っていただければ文書で回答します」と、ご快諾いただいた。
三田さんは20年前の自身の発言をどう感じ、いま、何を考えているのか?

Q1 20年前のご自身へのインタビュー記事について、率直なご感想はいかがですか?

わたし自身が若かったということもありますが、時代がまだ日本が発展途上国であったことの記憶を残していた、若者に向上心があることを前提としていた時期であったかなと思います。

この20年で何が起こったかというと、わたし自身が老人になったということがあります。老人になったという意味は、自分の知力体力が衰えたということではありません。世間のことはどうでもよくなったということで、生きる時間が短くなった人間はエゴイストになっていくということです。

エゴイストでないように見える老人もいますが、それは世のため人のために尽くすことを老後の生きがいにするという自分のエゴイスティックな価値観で生きている人であって、それは単なる頑固じじいということです。わたしもそういう老人になりつつあるかなと思います。

20年前の自分には、若さがあり、相手の反撥をかえりみず、何かしら励ましの言葉をかけたり、叱咤激励してやりたいという、純粋な善意があったように思います。

Q2 「今の若い人を見て、単にバカだという感想しか持てない」とおっしゃっていましたが、20年が過ぎ、「若い人」は当時と比べてどのように変わり、また、変わっていないと思いますか?

20年前のわたしが「単にバカだ」という言い方をしたのは、若い人、とくに東大のような有名大学の学生が、自分が評価されること、もっと簡単にいえば自分が金持になること、の他に何も考えていないのではないかという危惧を感じたからです。

つまり、自分がエゴイストであるということが、恥ずかしくない風潮が広まったということでしょう。この国の未来はどうなるのかとか真剣に心配している若者、あるいは、世のため人のために身を粉にして働きたい、というようなことを考えている人が、周囲の人から何となくトンチンカンな人と思われるような風潮が当時はあったのではないでしょうか。その危機感がわたしにあって、そういう言い方をしたのだと思います。

その後、どうなったかというと、規制緩和、競争原理、自己責任といったことが強調されるようになって、自分だけが幸福になればいいというモチベーションだけで生きていいのだという価値観が定着したように思います。

エゴイズムって、恥ずかしいことではないでしょうか。いまの若い人にも聞いてみたいと思います。わたしはいまも大学の先生をしていますが、自分の教え子にこういう問いを投げかけることはありません。ごくふつうの一般市民は、エゴイストであっていいのです。

むしろこれからの社会は、規制が強くなり、民衆に滅私奉公を強いるような時代になると思いますので、むしろわたしは若者たちに、ささやかなエゴイズムの大切さを説きたいと思います。

わたしが許しがたいと思うのは、国税をつぎこんで教育を施している国立大学の学生が、単なるエゴイズムだけで生きているのではないかな、という危惧を覚えることに由来しています。

大学生、とくに入学することが困難な大学に入った大学生は、世のため人のために尽くす義務を負っています。人民のために奉仕するというくらいの気持ちをもって勉学に励んでほしいと思います。

Q3 「世の中はだんだん良くなっていくと楽観的に考えていたが、若者たちに新しい動きが見えず、日本は崩壊するのではないかと危機感を感じた」ことが、『大学時代をいかに生きるか』を書いた動機だとおっしゃっていました。
 この20年、世の中は良くなったのか、日本の崩壊は近づいているのか、いまの社会についてどんなことをお考えになっていますか?

日本の社会は悪化しています。ごく簡単に言えば貧富の格差が広がっています。
自分は才能があり有名大学に入るために努力したのだから金持になって当然だというような発想の人が増えているのではないかと危惧します。

才能のある人、努力する人というのは、選ばれた人なのですから、その才能や努力を自分のエゴイズムのために使うのではなく、社会貢献のために活かさなければなりません。そういうスタンスで才能を発揮し努力する若者がいなくなると、選ばれなかった 若者は反社会的になり、暴動が起こります。
暴動が起こるならまだいいのですが、少数民族などのより弱い立場の人々を蔑視し、差別するような風潮が広まることが懸念されます。

日本は犯罪が少ない社会であり、誰もが「おもてなし」の気持をもっているというのは、昔のことではないか。むしろいまは、エゴイズムが横行し、「おもてなし」を強調する人の心の内にはお金を儲けたいという下心が隠されているのではないかと疑いたくないほどに、社会はすさんだ状態になっているのではないかと思います。

Q4 20年前、「学生はいかなるものにも所属していないから、一生懸命考えれば非常にフェアな意見を出せるはず」「世界がいかにあるべきかということを、学問という立場からフェアに考えていくために大学はある」とおっしゃっていました。
 改めていま、社会の中で学生や大学が果たすべき責任や期待される役割とは、どのようなものだとお考えですか?

現実を認識した上で批判的な視野をもち、社会をよりよくするための理想を追求するのが大学だと思います。
現状を肯定するのではなく、よりよき未来を実現するために、理想を求める想像力を育てなければなりません。
いまの大学は理想を求めるパワーを失っています。むしろ現実を肯定し、現実にすりよるために、エゴイズムを奨励するような教育がなされているように思います。

Q5 最後に、今の大学生や若者に伝えたいメッセージをお聞かせください。

自分だけが幸福になって、それで本当にあなたは幸福でしょうか。自分の幸福だけを求める人生に寂しさを感じないでしょうか。自分は何のためにこの世に存在しているのかと真剣に考えたことがあるでしょうか。
そういう問いを自分に課しながら、自分なりに答えを見つけて、胸を張って生きていけるような人になってほしいと思います。

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