報道特集

2018年4月3日

【蹴られる東大②】本音で語る、僕らが海外を選んだ理由(下) 海の向こうで見たもの

 東大を離れ海外の大学に進学する学生に迫り、世界での東大の立ち位置を考える連載「蹴られる東大」。2回目の今回は、前回に引き続き2017年の4〜7月に東大に通った後、9月に米国の名門大学に渡った3人の学生に、米国の大学での生活や、東大と米国の大学を比べて思うことを語り合ってもらった。

 

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(取材・高橋祐貴 撮影・山口岳大)

 

 

参加者(左から順に)

上田裕路さん 私立武蔵高校出身。理科Ⅰ類から米国名門リベラルアーツカレッジのカールトン大学に進学

西尾慧吾さん 私立灘高校出身。文科Ⅲ類からイェール大学に進学

鞍馬陸さん 私立開成高校出身。理科Ⅰ類からプリンストン大学に進学

 

十人十色の米国大生活

 

──それではいよいよ米国での大学生活について語ってもらいます。まずは学業面について、授業の構成や厳しさなども日本とは違うと思いますが、実際に受けてみてどう感じましたか

 

西尾 まず取っていた授業を言うと、一つ目はDS(Directed Studies)というもので、これは1年生のうち選考に通った人のみが受けられる、ひたすら人文学をやる授業です。基本的に各セメスター4単位を取得するのですが、この授業が3単位分あって、文学、歴史、哲学がそれぞれ1単位ずつ、というように特にハードな集中授業三つから構成されていました。他に前セメスターは1.5単位のフランス語を取っていたのですが、こうした授業の取り方をした結果、リーディングの量が週平均600ページになってしまいました。もうどうなってんの、という(笑)。しかも古典の授業なので、『イーリアス』1冊をいきなりバーンと渡されて、3日後までに読んでこい、みたいなこともありました。最終的にDSの三つの授業で30冊くらいの本を買わされましたね。さらに毎週5〜6ページのライティングが課され、各授業それぞれ期末試験があったため、本当に一日中本を読むような生活が続きました。図書館が午前1時45分まで開いているので、そこで閉館まで勉強して、寮に帰ってルームメイトが寝ていれば、そのまま部屋で午前3時くらいまで勉強しました。フランス語の授業が朝8時20分から始まるので、朝7時半には起きて小テストの勉強をしていました。勉強は本当にすさまじかったです。毎日4時間睡眠で回す感じで、キツかったですね。

 

上田 週末はどうだったの?

 

西尾 週末はミスって10時間くらい寝てしまう日もあったけど、少人数の授業ばかりで予習しないとばれてしまうので、基本的に勉強ばかりしていました。

 

 

上田 僕の場合はまず1年生が取らなければならないArgument & Inquiry Seminarと呼ばれるセミナーがあり、教育についての授業を選択しました。後はフランス語を続けたかったのでフランス語の授業を取り、それからまだ理系か文系どちらに進むか決めていないので[1]「もし理系に進むなら数学は早めに取っておいた方がいい」というアドバイスのもと数学を履修しました。僕の大学は1学期10週間のトライメスター(3学期)制で、一つの授業で基本6単位ですが、例えばオーケストラのような半分課外活動みたいなものだと1単位のみだったりします。音楽が専攻として成立するのも米国大の面白いところですよね。

 

 一つ一つの授業は基本週3回、合計3時間半くらいでしたが、フランス語だけはTA(ティーチングアシスタント)との少人数のセッションが通常授業とは別の日にあったため毎日授業がありました。フランス語は毎回コンスタントに宿題が課されましたがどれも1時間半程度で終わり、時々あるテストもそこまで大変ではありませんでした。頻繁に授業がある分負担が分散される感じでしたね。数学は入る授業を間違えた感じがありました。カリキュラムもきちんと確かめた上で決めたのですが、教授が思いの外前半の内容を長くやり過ぎてしまい、高校のとき習ったような内容で止まってしまうという…。セミナーも大学の中では楽な方だったらしく、今学期は8時間近く寝られました。

 

 

西尾 うらやましい…。

 

上田 来学期はもっと人文系の授業も取ってみようかな。

 

西尾 いやあ、人文系の授業取ると一気に睡眠時間減るよ。

 

鞍馬 僕が取っていたのは数学、物理、経済、フランス語です。数学は数学専攻向けの授業だったのでそれなりに量は多くて、授業の頻度は少ないですが毎回の課題として出される問題のセットをこなすのが大変でした。証明問題ばかりだったので毎週ペーパーを書かされている感じでしたね。物理は解析力学の授業でしたがそこまでキツくはなく、日本でやっていたものからちょっと進んだ内容を学びました。経済は入門の授業だったので重くはなく、週100ページはいかないくらいのリーディングで済んだので楽しめました。フランス語が個人的には重かったかな。毎日授業があって、コンスタントに宿題があるのに加え、作文や口頭試験、ペーパーテストのような重たい課題が週に2、3回あったのでつらかったです。

 

──ここにいる3人とも帰国子女ではないですが、英語面での苦労はありましたか

 

西尾 授業では古代ギリシャの人名などが、日本の世界史とは違う呼ばれ方をしている場合が多く、分からないという苦労をしました。後は雑談をするのが難しいですね。

 

上田 僕も大変でした。読むことに関しては週100ページくらいのリーディングをこなしているうちに、一文一文じっくり読まずに要点を捉えて読めるようになりました。しかし、他の留学生もアメリカの高校に通っていたなどして英語に堪能な人が多く、英語力のハンディは大きかったです。

 

西尾 留学生っていっても帰国子女の子が多いよね。「冬休み国に帰るの?」って聞いたら「いやニューヨークにお父さんいるから」みたいな。

 

上田 一応外国から来ているけれどもUWC[2]出身みたいなね。ライティングも自分が苦労しているものを、他の留学生の人たちはこんなの余裕という感じでこなす人も多いです。話すことに関しては、セミナーの授業がディスカッションの多いものだったんですが、アメリカ人の学生が教授からの質問を無理やり自分の言いたいことにこじつけて答えるのに驚きました。

 

西尾 ああ、なんとなく分かるかも。おそらく彼らも課題文献を全部は読んでないので、自分が読んだ部分につなげようとしゃべってくるんですよね。自分はそこについて話したくないのにな、と思っていても向こうが延々としゃべっているのでどんどん論点がずれていく。

 

 

上田 そう。教授が提示した論点に必ずしも直接的に答えないんですよね。そんなのでいいんだ、と言ったら変かもしれませんが、これは新鮮でした。

 

西尾 教授も学生がリーディングを全部は読んでいないことを察するので、論点から外れた発言は評価されませんが、かといって何も発言しないと授業参加点がゼロになってしまうので、難しいところです。しかしイェールではこうした点も、授業ごとに配置されているアカデミックアドバイザーの人たちに2週間に1回くらいの頻度で相談できます。「本当は授業中にこういう話をしたかったのにクラスメイトがこう話をもっていったせいでできなかった」と相談すると、「教授もそこは気付いているから、教授に後からどんな話をしたかったのか伝えに行けば参加点は下がらないよ」と教えてくれました。

 

上田 僕のところは基本的に、専攻を決めるまでA&I Seminar (Argument & Inquiry Seminar)の先生がアドバイザーになってくれます。僕も授業でのディベートがつらいと相談しに行ったことがありました。相手が何を話しているのかを聞き取るのがまず大変だし、それを理解してから話題が次に移るまでに考えて発言するのはなかなか速度が追いつかない。どうすればいいかと尋ねたら、一つ核となるアイデアを持っておいて、何か聞かれたらとりあえずそこに結びつけて答えるようにすればいい、と教えられました。おかげで少しやりやすくなりました。

 

鞍馬 僕は取っている授業の性格的にそこまでディスカッションは多くありませんでした。経済の授業は一応しゃべりましたが、リーディングの内容確認をする、という感じだったのでそこまでハードでもなく、物理や数学でもディスカッションはありませんでしたね。ただ、入学前に「今年の1冊」的な本が家に送られてきて、オリエンテーションの時にその内容についてディスカッションをさせられた時は本当にきつかったです。

 

 

西尾 今年の本は何だったの?

 

鞍馬 “What Is Populism?” (Jan-Werner Mueller)という本で、トランプに代表されるように近年ポピュリズムの台頭が著しいけど、実際ポピュリズムとは何なのか、というような内容でした。なかなかあれは難しかった。

 

──皆さん大学での課外活動はどのようなものをやっていますか

 

西尾 イェール大学の日本人会に所属しています。他にはイェール大学のあるニューヘイブンは難民が多いので、シリア難民に英語を教えるボランティア活動に参加したり、ホームレスに食事を届ける活動をしたり。地元の小学校で英語を教えるボランティアもやっています。イェール生は積極的に課外活動をするので、これでも少ない方です。

 

上田 僕はそんなにはやっていないですね。単位がつくので授業なのか課外活動なのかわかりませんが、とりあえずオーケストラには入っていて、後はやはり日本人会みたいなものはあるのでそこにも入っています。けどそこ止まりかな。

 

 

西尾 皆課外活動の希望を持って米国に行くけど、意外とできへんよな。やっぱり授業は忙しいから。

 

上田 多分課外活動をやると、寮の友達と過ごす時間がなくなると思う。

 

鞍馬 僕はサッカーをやっています。学校代表とかではなく、結構自由な感じで活動しているクラブです。一応数学クラブにも入っていますがこちらはクラブ自体ほとんど活動していません。後はAASAという団体にも入っていて、週末ごとに皆でまとまってキャンパス外のレストランにご飯を食べに行くなんてことをしています。

 

 やはり全体的に課外活動は少ないと思っていますが、これにはクラブに入らなくてもできる活動が多いためという事情もあります。寮で夜開かれている「プログラミングコードを書く会」なんてものに出てみたり、歴史のセミナーに参加しに行ったりしているうちに、課外活動に手を出す時間はなくなっていました。

 

西尾 そういうイベントの点では、イェールの場合結構大学が著名人を呼んできてくれますね。昨年だとジョン・ケリー元国務長官とか。まあOBだから呼べるのですが。

 

──それはすごいですね。ちょうど寮での話が出ましたが、東大とは違ってほとんど全ての学生がキャンパス内の寮に住む米国大での寮生活にはどのような意義があると思いますか

 

西尾 良し悪しがあると思います。当然ストレスもたまりますし。一応事前にルームメイトとの性格が合致するようにアンケートを取ってから部屋を決めてはくれるのですが、特に1年目はミスマッチも多いです。私の場合も自分とテンションがかけ離れた人たちと相部屋になってしまい、4人部屋の残り3人は常にパーティーに行っているというような状態でした。寮で静かに勉強ができないため図書館に行かなければならず、つらかったです。

 

 その一方で、他人との衝突をどう解決するか、ということを学べるのはいいと思います。私のところは、ルームメイトの3人が全員アメリカのニューイングランド地方出身という著しく多様性に欠けた部屋でしたが、日常生活に対する見方がまるで違う彼らと衝突しつつも、話し合ってお互いの違いを認識し合い、歩み寄ることができました。後は留学生が全体の1割しかいないのでなかなか難しいですが、もう少し出身地に多様性のある部屋に割り振られればなあ、という感じです。

 

 

上田 僕のところは、基本的に1年生は2人部屋で、留学生は米国人と相部屋になります。1フロアに30くらい部屋があり、そのうち留学生は4人程度です。学生数が全部で2000人程度なので、知り合いの知り合いの知り合いをたどればキャンパス内の全員を網羅できそうな、密なコミュニティーが形成されています。週1回寮のフロアの全員で夕食を食べたり、毎週日曜には連絡事項を伝達するフロアミーティングがあったり、面白いところではうちの学校で盛んなフリスビーのフロアチームもあったりと、フロアの結束は固いです。僕やルームメイトだけじゃなく、ルームメイトの友達も普通に僕たちの部屋に入って来るので、いろいろな人に会う機会は多いと感じます。終電という概念もないので、勉強したければずっと勉強できるし、週末も深夜3時くらいまで遊んで帰って寝る、ということができて、ずっと大きな家に住んでいる感覚です。

 

鞍馬 高校、大学に日本で通っていたときは、通学に片道2時間かかっていたので、それを思うと徒歩数分で教室に行ける寮生活は新鮮でした。自分の場合は、珍しいと思いますが1人部屋だったので、他の2人とはちょっと違いますね。ただし、寮の同じフロアに住んでいる、同じく1人部屋住まいの15人程度の学生で構成されたグループがあり、そのグループで一緒に出かけたり、普段も交流したりと、ルームメイトに近い存在はいました。このグループに自分を含めて3人の留学生がいて、結構話しやすい雰囲気はありましたね。自分の寮は酒とたばこが厳禁だったので、それを目当てに留学生が集まったのかもしれません。

 

上田 うちの大学にもそういうフロアがありますよ。希望して入ってるはずなんだけど、酒飲んでる人もいる(笑)。

 

──飲酒事情にもいろいろあるんですね。次の質問ですが、米国大での生活を通して、これはいいと思った点はありますか

 

西尾 やはりいいのは勉強に打ち込めることですね。古典を本気で学ぼうと思ったら、人文学の基礎知識を徹底して教えてもらえますし、提出したエッセイ(小論文)にもたくさんコメントを書いて返してくれます。それから、日本だと論文を書く時は二次資料の引用が普通ですよね。面白いのは、イェールだと1年生のうちは二次資料の引用が禁止で、自分でどれだけ古典の原典という一次資料を深く読めるかを求めてくるところ。おかげで人文学をやる上で必要なスキルが身につきます。

 

鞍馬 クラス単位が小さいというのが嬉しいところでしたね。プリンストンだと基本全ての授業が16〜20人で行われます。経済とかだと100人くらいになることもありますが、どの授業にもプリセプトと呼ばれる少人数での討論中心のゼミの時間が付随しているので、必ずきめ細かい指導を受けられます。

 

西尾 イェールもTA(ティーチングアシスタント)による討論中心のゼミ授業というのを毎週やっていて、大人数の授業を取っても少人数指導の要素が必ずあります。

 

 

上田 僕のところはそもそも学生数が少ないので、授業は基本15人くらいで、多くてもレクチャー授業の70人程度ですね。僕の行っているリベラルアーツカレッジが他の2人の総合大学と違うのは、院がないためそもそもTAがおらず、教授が直接討論の指導も行ってくれることでしょう。

 

西尾 私の取っているDSも特別な授業なので、イェールの人文学のトップ層の教授たちが毎週2時間半、1対15くらいで直接指導してくれます。オフィスアワー[3]もものすごく充実していて、週3時間くらい1人の教授が時間を取ってくれる上に、時間外に行っても相談に快く乗ってくれました。

 

──続いて、米国大に進学する際にネックになると思われる学費についてお聞きします。米国の大学は、大学にもよるものの、寮費などを含めた学費が年間約7万ドル(およそ700万円)と高いですが、皆さんはどのように負担していますか。金銭的負担は進学の妨げになり得るでしょうか

 

上田 僕は日本国内の財団と大学から奨学金をもらっているのですが、それでもカバーし切れないので親に一部を負担してもらっています。キャンパスでのバイトは週8時間までと定められていて、学年が上がっても週10時間程度までにしか増えないので、あまり学費の足しにはならないですね。

 

西尾 僕は国内の奨学金団体に全額を負担してもらえています。1年の学費は大体6万5千ドル(約650万円)ですが、それに加え大量に本を買わされているので、やはり年間700万円近くはかかっていますね。ペーパーバックも「ちりも積もれば山となる」という感じです。

 

鞍馬 僕も国内の財団から全額学費を補助してもらえています。ですが、やはり一般には学費の問題は進学の妨げになるでしょう。

 

 

西尾 私は今援助してもらっている奨学金に受かることが米国大受験の第一条件でした。かなり宙ぶらりんの状態のまま米国大受験の準備を進めましたが、奨学金の選考に通った前提で話を進めないと準備が間に合わないので、そのつもりで取り組みました。

 

上田 お金が妨げになるのは厳然たる事実です。僕は実際問題、最後の段階で大学側から提示された奨学金の額の違いを見て、第1志望を諦め第2志望に進学しました。

 

西尾 米国の大学は、高額な学費を取っている分資金も潤沢で、大学の設備や学生のサポートシステムがしっかりしています。卒業後を含めた将来的なことも考えると、払った分だけ見返りがあるとも言えますが、やはりその見返りにたどり着くまでに払う額が高いのは否めないですね。

 

東大 VS 米国トップ大 それぞれの強み

 

──ここからは東大と米国の大学の比較について話していきたいと思います。まず、実際に行ってみて、米国大にしかない強みにはどのようなものがあると思いましたか

 

西尾 やはり友人関係の面で見ても寮生活で「大学に住んでいる」というのは大きいですね。後は資金力。東大と比べても施設の面でイェールは充実しています。それから授業が少人数なのも良さですし、何よりサポートの充実が強みです。週2回はオフィスアワーで教授と会う機会が保証されていますし、日本では考えられないレベルで教員が学生に尽くしてくれます。前にちょっとリーディングで分からないところがあり、ある先生に質問をしたら、その分野が専門の先生にいつの間にかメールを転送してくれていたこともありました。

 

上田 僕も前に授業を取っていない先生のところに、今こういうことをやりたいと思っているが来学期どんな授業を取るべきか、といったことを聞きに行きました。他に米国にしかないものとしては、向こうに行ったら日本人としてマイノリティーの立場に立たされるということ。共通の前提がない人たちと交流する体験は東大にいるときにはない経験でした。

 

鞍馬 2人が話していた教授とのコンタクトの点について言うと、僕は東大にいるときも積極的に教授に会いに行ったから分かるのですが、東大にはシステムとしてのオフィスアワーもないし、初めはどう教授にコンタクトを取ればいいのか分からず戸惑うことも多かったです。その点プリンストンだと、アカデミックアドバイザーや生活上の相談に乗ってくれる寮の相談員がいて、そういう人たちのところに行けば、教授や先輩と簡単にコンタクトを取ることができます。

 

西尾 米国内部の多様性も向こうでしか実感できないかな。教授には白人が多いのに、レストランなどで働いている人にはラテン系が多い、というような、米国内部でのヒエラルキーを肌で実感させられます。

 

 

上田 今バイトでダイニングホールで働いているのですが、やはりラテン系の人たちが多いですね。東大にいるうちは普通に過ごしていると一般的な東大生のイメージから外れた人に会うのが難しかったですが、向こうではむしろ一般化された学生像がない感じが面白いです。

 

西尾 ただ、逆に米国の大学には多様性がない、という見方もできて、人種や国籍が多様でも、言うて育ちが似通っている人が多いんですよ。イェール大学の学生の19%が社会の収入上位1%の家庭から来ているという統計もあり、いやおかしくないか、と。留学生でもその国の超上流階級出身だったりするので、多様かどうかというのは国籍・人種だけでは測れないですよね。

 

──逆に東大にしかない強みにはどのようなものがあると思いますか

 

上田 ぱっと思いつくのは東京にあること、ですかね。僕の大学が米国のど田舎にあるから、というのもあるかもしれませんが、東京には何でもそろっているし、東大生だから、という理由でやれること、面白いことに触れる機会も増えるでしょう。

 

鞍馬 日本で仕事をするなら東大に行くことには大きな利点があると思っていて、例えば将来日本で政治をやりたい、という友達がいたんですが、そういう人なら東大に行った方が有利かもしれません。それから、もし授業外で自分が学びたいことを突き詰めたい、というのであれば東大の方がいいかもしれない。東大にいた時には自主的にゼミをよく開いていたんですが、プリンストンに行ったら、好きな授業は取れるけれども取ったらそれに注力しなければいけない、というような裏表な状態に陥って、自主的な勉強の機会が減ってしまったので。

 

西尾 話がかぶるかもしれませんが、イェールには何でもある分、受動的にならざるを得ない側面もあって、自分が何かを始めようとしてもすでに他の誰かがやってしまっているとか、大学がやってしまっている、ということがあります。米国大の、与えられたものをこなすだけで精一杯になってしまうというのは、良さでもあるし悪さでもあると思う。東大だと日本語という強みもあるので、自分でバリバリ動きたいのであれば、東大に行くべきだと思います。一つ思うのは、米国の大学に行くのであれば、将来をやりたいことを一つに決める必要はないけれど、自分がそのとき興味を持ったことについてはとことん集中できる人でないといけない、ということです。向こうでは取った授業については、単に講義を受けること以上の注力を求められるので。

 

──今自分が行っている大学と東大を比べて、東大のどのようなところを改善すべきだと考えますか

 

 

鞍馬 東大でもシステムさえ整えれば、学生と教授の距離を縮めることが可能だと思います。米国の大学ほどサポートシステムを整えるのは難しいでしょうが、教授とのコンタクトの取りやすさを変えるだけでも大きな違いが生まれるでしょう。

 

上田 これは僕が東大で全科類を合わせて一つのクラスとして扱われるインタークラス[4]に所属していたから思うのかもしれませんが、科類ごとにクラス分けする必要はないのかな、と。今のところクラスにはコミュニティーとしての機能以外に、五月祭や駒場祭をやりやすくするくらいしか役割がないと思うので、いっそ文理を混ぜてしまった方がより多様性があって刺激的なコミュニティーができあがるのではないかと思います。

 

西尾 イェールに行っていて思ったのが、向こうの教授は学生の生活面の面倒も見るという点で、高校の先生に似ているということ。特にイェールは学部の教育を誇りにしているからか、学生の世話と自分の研究を二者択一だと思っていない教授が多いです。皆楽しんで学生の面倒を見ている。日本の大学の先生が他の業務で忙しいという問題もあるとは思うのですが、東大でももっと学生の生活面を気に掛ける教授が増えてもいいのかもしれませんね。

 

 それと同時に、学生の側も自ら勉強するよう意識を変えることも大切だと思います。東大でも真面目に勉強する意志があればいくらでも吸収できるというのは、東大に通っていて感じたことです。システムを変えると同時に、学生は学生で変わらないといけないでしょう。

 

──それでは最後に、東大と米国大の双方に興味がある高校生に、進路選択について一言アドバイスをお願いします

 

西尾 東大と米国大、双方にそれぞれの良さがあり、うまいこと始業の時期がずれているので、併願するのはいいことだと思います。東大受験に向けての勉強も、例えば世界史の論述問題のようなものは米国に行っても必ず役に立ちます。一方で、米国大受験でエッセイを書いて自己分析をすることなどは人生にとっての糧になるでしょう。両者を二者択一だとは考えずに、お互いの受験形式のいいとこ取りをしよう、くらいの意気込みで、受けてもらえたらと思います。

 

上田 両方行ってみたいという気持ちが強くあるのであれば、やった方がいいと思います。両方の受験に失敗することは十二分にあり得るので、受験する際にどちらに集中するかは考えた方がいいですが、思い立ったら行動に移してしまうのがいいでしょう。

 

鞍馬 僕は海外の大学で学ぶということに興味があるのであれば、いつかは必ず行くことをおすすめします。しかしそれは必ずしも学部での正規留学でなくても構わないでしょう。留学の形は一つではないので、自分にできる形で留学すればいいのではないかな、と思います。

 

──本日は本当にありがとうございました

 

 

 取材を通して彼らから伝わってきたのは、自分のやりたいことを追求する積極性と、東大、米国大双方が好きだという気持ちだった。彼らにとっては、学ぶ場所はもはや本質的な問題ではなく、何を自分が学ぶかが大切だということなのだろう。そんな彼らから指摘された東大と米国大の最大の違いは、寮生活の有無とサポート体制の充実度。近年国際化に取り組む東大が改善すべきは、一見国際化とは関係ないところにあるのかもしれない。

 

※次回は、今回取材した3人とは異なり、高校における海外大進学のサポートが必ずしも整ってはいない状況から米国の大学に進学した2人の学生に取材します。次回掲載予定は4月8日です。

 

【蹴られる東大】

本音で語る、僕らが海外を選んだ理由(上) 海の向こうへの挑戦

学生目線で比べる東大と米国トップ大

ハーバードで2年間 気づいた「自分、東大、ハーバードの強み」

番外編 ハーバード大生と東大生が見る東大の「国際競争力」

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勉強に対する姿勢の差 東大生は勉強していると胸を張って言えるか

開成生はなぜ海外大を目指すのか・開成学園柳沢校長インタビュー

東大は本当に「蹴られて」いるのか 鈴木寛教授インタビュー

蹴られて当然?東大生もうなずく「とりあえず東大」の終わり


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[1]米国の大学では基本的に学部での文理の別がなく、大学2年次に自由に専攻を決めることができる。

[2] ユナイテッドワールドカレッジ。国際的なネットワークをもつインターナショナルスクールで、日本では経団連が派遣事業を担っている他、軽井沢に系列校がある。

[3]米国の大学で一般的な、教授が学生と話すために時間を指定して居室を開放する制度。

[4]英語以外の外国語を高校以前に習得していた学生対象のクラス。

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