インタビュー

2015年12月14日

ノブレス・オブリージュだけでは社会課題は解決できない リディラバ安部敏樹さん1

 「僕は中学2年生のときに家庭で事件を起こして、家を出て、路上生活もしてたし、学校にも長く行かないという時期があったんです。自分自身が、非行とか不登校といった社会課題の当事者だったから、そのとき「社会の構造」みたいなものを強く感じたんです。当事者は当事者としか仲良くならない。僕もそうだった」

 

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 東大教養学部で2014年度冬学期まで行われ、学生の人気を集めた全学体験ゼミ「ソーシャルビジネスのためのチームビルディング」。このゼミで学生を指導したのは、ゼミの開始当時24歳という若さだった安部敏樹さんだ。安部さんは「一般社団法人リディラバ」の代表として、「社会の無関心を打破する」を理念に、スタディツアーという手法で社会課題に取り組んできた。

 

 インタビュー第1回では、

・安部さんがリディラバを通して何を変えようとしているのか

・社会課題の解決にはどのような壁があるのか

・社会課題のビジネスチャンスとしての側面とソーシャルビジネスの難しさ

について聞いた。1時間半にわたってノンストップで話す安部さんの勢いに、記者は終始圧倒されっぱなしだった。

(リディラバの詳しい活動はこちらをご覧ください。http://ridilover.jp/

 

ノブレス・オブリージュだけでは社会課題は解決できない

――安部さんはどうして社会課題に取り組むようになったんでしょう

 僕は中学2年生のときに家庭で事件を起こして、家を出て、路上生活もしたし、学校にも長く行かないという時期があったんです。自分自身が、非行とか不登校といった社会課題の当事者だったから、そのとき「社会の構造」みたいなものを強く感じたんです。当事者は当事者としか仲良くならない。僕もそうだった。

 

 当事者とばかりつるんでいて、当事者じゃない人に関心を持ってもらえなかった。でも自分たちだけで集まっても物事が好転することってほとんどなくて、基本的には集まっては愚痴を言い合って世の中を恨むだけなんだよね。そういうのって不毛だから、変えたいと思うようになった。非当事者と当事者が近づくというのは、なにか特別な仕組みがないと難しいんですよ。

 

 その後、幸運にも社会復帰をしたのち、ドラゴン桜に触発されて東大に入りました。そして、大学で最も大きなゼミで、「東大生の持つべきノブレス・オブリージュ(高貴なる義務)」という話を聞いたんです。でも、東大生が自分を高貴だと思っているかっていうと、そうではないですよね。同じゼミにいた人が、卒業後年収1000万円を稼いでいるのに、いまや「ノブレス・オブリージュ」なんて言わない。なぜかというとそれは構造的な問題でもあって、彼らだっていつまでその給料がもらえるかわからないわけです。ずっと安定して貴族のような「高貴」な生活ができる奴なんていないんですよ。

 

 そういう時代にノブレス・オブリージュを基本にした社会課題の解決って、ちょっと違うと思う。人の名誉や善意をベースとするんじゃなくて、仕組みとして当事者意識や関心を持てるようなものが必要だと思ってリディラバを作ったんです。

 

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社会に新しい意思決定の仕組みを

 今の社会の意思決定の仕組みは、当事者性の「グラデーション」を軽視しすぎている。当事者性というのは0か1ではなく、どの程度当事者としての意識を持っているかというグラデーションで表せられるんですよたとえばパブリックコメントに意見を書き込むのは関係者ばかりなんです。つまり、利害関係者の陳情の場になってしまっている。この道路の幅を拡げるかどうかということでパブリックコメントが募集されているとしても、一般の人はパブコメが募集されていることすら知らないわけだよね。

 

 当事者性を強く持たないと、人は自分から関わろうとしないんです。当事者性を考えるときに重要なのは、非当事者と当事者の間にある3つの壁です。

・関心の壁

・情報の壁

・現場の壁

「関心の壁」というのは、そもそもその社会課題に興味を持てないということ。「情報の壁」というのは、その課題についての情報がまとまっていないために、可視化されていないということ。そして「現場の壁」というのは、課題の現場にいても関わりづらいということ。例えば、そこにホームレスのおっちゃんがいても、話しかけないでしょ? 物理的な距離が50cmでも、そこには壁があるんですよ。

 

 リディラバはこの3つの壁をなくそうとしています。「現場の壁」には「スタディツアー」で取り組んでいます。これは、青森県六ケ所村の核燃料再処理工場など、社会課題の現場へ連れて行くもので、これまでに150種類以上のツアーが企画されました。「情報の壁」はTRAPROというメディアで、社会課題の可視化に取り組んでいます。「関心の壁」は、修学旅行や企業の研修で、もともと興味ない人に関心を持ってもらおうという取り組みをやっています。

 

社会課題はビジネスチャンス。社会課題に潜むチャンスと困難とは?

 大企業の役員の研修をリディラバで請け負うこともあります。その研修の中で、社会課題について知ってもらい、考えるきっかけを与えるのです。

――それって企業にとってのメリットってなんなんでしょう

 ひとつは、上場企業の部長格以上だったら、社会の課題について語れないなんておかしいでしょ。大きい企業なら、ときには国の法律も変えるようはたらきかけなきゃいけない。そういった意味の人材育成も重要なわけだよね。

そしてもうひとつは、日本は人口が減少してマーケットが縮小しているけれども、社会課題の解決はまだ手を付けられていない部分です。社会課題に事業として取り組む「ソーシャルビジネス」には企業にとって大きな可能性があって、僕らはそこを突き詰めている。

 

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 介護もこれからさらに大きなマーケットになってくる。そういう社会課題がどうして今までマーケットになっていなかったかっというと、行政が手を出しすぎていたこと、経済性がなかったこと、そして問題の把握が難しいこと。

ビジネスって、価値の提供者と価値の受益者がいて、受益者がお金を払うっていうのが普通ですよね。でもソーシャルビジネスって、ステークホルダーが普通のビジネスよりも多くて、受益者がお金を払うとは限らない。例えば空き家の問題だったら、空き家の所有者だけじゃなく、それに迷惑している近所の人や、行政もステークホルダーになる。

 

 それぞれのステークホルダーと課題との関係性には、「グラデーション」があります。それをマッピングして分析しないと、課題全体を理解できない。それがソーシャルビジネスの難しさなんです。

社会課題では、価値の受益者からお金が取れないことが多いけど、例えば空き家の問題であれば、空き家を撤去することに行政がお金を出すこともある。空き家が社会に与えているマイナスの影響を考慮してのことです。これは、「空き家対策特別措置法」を受けてのこと。こんなふうに法律が新しくできたり変わったりするときこそ、社会課題の解決がビジネスとして成り立つ機会は増えていくんです。

(取材:須田英太郎、日高夏希  文:須田英太郎)

第2回:日本の教育格差における本当の問題は「体験の格差」 リディラバ安部敏樹さん2

第3回:現場の課題を見つけ、問いを作る力を身につけるには。 リディラバ 安部敏樹さん3

 


 安部敏樹さん

1987年生まれ。東大在学中に「リディラバ」を設立。教養学部でゼミをまとめた著書『いつかリーダーになる君たちへ 東大人気講義チームビルディングのレッスン』が1211日に発売となる。

 

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