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2025年9月11日

リュウグウ母天体が10億年以上氷を保持 地球の水の起源に新たな示唆 東大チームがはやぶさ2の試料を調査

 

 飯塚毅准教授、橘省吾教授(いずれも東大大学院理学系研究科)らの研究チームは、はやぶさ2が探査した「リュウグウ」の母天体の小惑星が形成後10億年以上もの間氷を保持しており、それが天体衝突時に失われたことを示した。地球の材料のうち炭素質小惑星が、氷として、これまでの想定の2-3倍の水を地球にもたらした可能性がある。成果は9月10日に英科学誌『Nature』に掲載された。

 

 東大のチームは、リュウグウの2つのポイントで採取された計4つの試料に、東大のMC-ICPMS(多重検出器型ICP質量分析計)を利用してLu(ルテチウム)-Hf(ハフニウム)分析を実施した。Lu-Hf分析は、放射性同位体176Luが半減期372億年で176Hfへと壊変するのを利用し、鉱物の形成年代を求める手法。分析の結果、リュウグウ試料は約48億年前に形成されたと推定されたが、しかしこれは太陽系の年齢45.67億年よりも古い数字で、何かがリュウグウの同位体組成に影響し、「176Lu-176Hf時計が狂った」(飯塚准教授)と考えられた。

 

リュウグウ試料および炭素質隕石のルテシウム-ハフニウム同位体組成(報道発表資料より)

 

 検討の末、結果が古く出た原因はLuが失われたためと考えられた。Luが移動するには、流体に流されるか700度以上の高温で拡散される必要がある。リュウグウには400℃以上で分解されてしまう含水鉱物が今も多く残ることから、高温には晒されておらず、含水鉱物の液体がLuを失わせたのではないことが伺われる。そのためリュウグウ母天体では、含水鉱物とは別に存在した氷が解けた時に、Luが失われたと考えられた。

 

 Lu-Hf分析のずれ幅を勘案すると、水との接触は、少なくともリュウグウ母天体の形成から10億年以上後だと推定される。そのため、リュウグウ母天体の岩石の粒の隙間に氷の状態で少なくとも10億年以上の間水が保持されていたことが示唆された。なおその水は、リュウグウ母天体が他の天体と衝突した時にLuとともに失われたと考えられる。

 

 これはリュウグウ母天体の歴史のうち、誕生後500万年ほどの間に含水鉱物が形成されてから後の長い未解明の期間について、少なくとも10億年分の空白が埋められたこととなる。さらに、リュウグウ試料の鉱物の組み合わせを踏まえると、リュウグウ母天体における水の割合は質量の20~30%ほどと見積もられ、従来想定された水の質量の2-3倍の数字となる。

 

リュウグウ母天体の歴史について空白となっていた時期のうち、10億年以上にわたる新たな知見が得られた(報道発表資料より)

 

 はやぶさ2による炭素質小惑星「リュウグウ」探査は、太陽系の起源・進化の解明と生命の原材料物質の起源の解明を目指したものだ。リュウグウは炭素質イヴナ型隕石(CI隕石)に組成が近いが、地球の材料の6%ほどとも推定されるCI隕石に含まれる含水鉱物は地球に水をもたらしたと考えられてきた。しかし、今回リュウグウ母天体が想定の2~3倍の質量の水を、氷として保持していたことが示されたことで、CI隕石が含水鉱物だけではなく、氷としても水を地球にもたらした可能性が示唆された。仮にCI隕石が一般的にリュウグウ母天体と同様の割合で水を保有したとすると、CI隕石が地球にもたらした水の量は、地球全体の質量の1.2~1.8%に及び、現在の地球海洋質量の60-90倍にも相当する。

 

 なお、CI隕石は太陽系初期から存在すると考えられ、含水鉱物を多く持つ。しかし非常に脆く、隕石としては地球の大気圏で消滅してしまい、地球上では希少なため、分析が困難だった。今回の研究は試料が小惑星リュウグウから持ち込まれたからこその成果だ。今後はNASAが小惑星ベンヌから持ち帰ったサンプルとの比較や、地球に持ち込まれた海洋の60~90倍もの質量の水分がどこへ行ったのか。すなわち宇宙空間に放出されたのか、あるいはマントルや核に取り込まれたのか、など幅広い研究が期待される。

 

論文情報

Tsuyoshi,Izuka et al. Late fluid flow in a primitive asteroid revealed by Lu–Hf isotopes in Ryugu

DOI:10.1038/s41586-025-09483-0

URL:https://www.nature.com/articles/s41586-025-09483-0

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