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2023年8月26日

関東大震災と東大生 災害支援を「支援」する

 

 今から100年前に起きた関東大震災。当時の東大生を描いた記録を調べると、災害支援に活躍した学生救護団の姿が浮かび上がった。また今回は、彼らも直面した災害支援の課題に取り組むボランティア支援団体、JVOADに取材し、どのような活動を行っているのか、望ましい災害支援とは何か、話を聞いた。(取材・橋本拓)

 

100 年前の東大生が結成 知られざる救護団の活躍

 

 1923年9月1日、東京・神奈川を中心に甚大な被害をもたらした関東大震災では、東京大学本郷キャンパスも総建物面積の3分の1に相当する建物や蔵書の6割に当たる54万冊が焼失するなど、深刻な打撃を受けた。さらに市街地で火災が広がるにつれて、2000人以上の人々がキャンパス内に避難してきた。混乱の中、当時の学生たちは学生救護団を結成して避難民の救援活動に取り組んだ。

 

1923年11月8日の『帝國大學新聞』(当時)
1923年11月8日の『帝國大學新聞』(当時) 東京大学駒場図書館所蔵、一部トリミング

 

 『帝國大學新聞』(第57号、1923年11月8日)は「永久に記憶さるべき東大学生の大活動」と題したうえで(以下、引用箇所では旧字体を新字体に改めた)「九月一日東大が火を発するや、母校の急を救わんとして大学に集まり、そのまま警備に当たったる学生等と、たまたま二日に南洋から帰来した四十名の学生団(編集部注:当時委任統治領だった南洋諸島の視察から帰国した学生団)とが中心となり(中略)、帝大救護団を組織し(中略)、大学構内に避難せる三千の罹災者の衣食住の世話に当り、食料被服の配給に、衛生設備の完成に、驚くべき成績を挙げた」と震災直後に学生が主体となって救護団を結成し、さまざまな形で被災者支援に尽力したことを報じている。

 

 学生救護団は、末弘厳太郎(すえひろいずたろう)・穂積重遠(ほづみしげとお)法学部教授(当時)の指導の下、支援活動の組織化に成功した。構内の避難者に食料を配給するために、トラックで秋葉原・芝浦などに赴き、米などの物資の収集に当たった。配布方法として一般的に想像される炊き出しは行わず、避難者を自治団体に分け、各団体が自主的に物資を管理するよう促した。結果、配給品は極めて公平に分配された。

 

 さらに『帝國大學新聞』の記事は続く。「便所の掃除までして衛生状態の改善感謝されたる上野支部」として、救護団は「上野公園の避難民の不衛生状態を救うのが目的であったが九月十一日の調査の結果、食糧分配が甚だ不完全であることを発見してその方の仕事もすることに」なったと伝える。彼らは食品や衣服などの運搬と配給に汗を流し、人が嫌がるトイレ掃除にも先立って取り掛かるなど、朝早くから日暮れまで一生懸命働き続けた、と評した。またこの時救護団は、地域を13の区に分割し、各区に学生と避難民からなる委員を置いて全ての事務を担当させ、さらに学生のみからなる中央部を据えて区を統一した。このような活動を通じて、彼らは災害支援の際に陥りがちな物資分配の「もれ・むら」の防止に尽力したとされている。

 

 献身的な活動のかいあって、5日ほどで、無秩序で不衛生だった上野は見違えるほどきれいになり、10日経つと、学生たちの考えが避難民の間に浸透し、もはや学生の力を借りる必要がなくなった。議論の結果、9月23日以降は新たに避難民によって作られた上野自治団が組織を受け継いで仕事を続けていくこととなった。学生は顧問として活動を支援する立場になったと報じられている。

 

 学生救護団の活躍は上記にとどまらない。末弘教授の主唱で設立された「東京罹災(りさい)者情報局」の活動である。地方の人々が東京の知人の安否を尋ねて上京することが非常に多く、市民のいっそうの食料不足が心配された。そこで、これを防ぎ、地方にも情報を提供するために、震災救護事務局の了解の下、東京罹災者情報局を立ち上げた。被災地域を実地調査し、死傷者や避難者の状況を把握して、地方の人々の質問に個別に答えることで、彼らに便宜と安心を提供した。『帝國大學新聞』は次のように締めくくる。「この未曾有の大事変に際して、最も組織的なる東大学生の活動は全く世人を驚嘆せしめ、遠く海外にも伝えられて非常な称賛を博しているが、恐らくこの震災が伝えられる限り永久に記憶されるであろう」

 

災害支援を「コーディネート」する

 

 関東大震災において学生救護団は、単なるボランティアの枠を超えて、災害支援全体を指導する役割を担っていた。現代においても、当時の救護団と同様に災害支援のサポートに取り組んでいるNPOがある。「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」だ。JVOAD広報部の小竹(しの)さん、石井さんに話を聞いた。

 

──団体設立のきっかけは

 

 2011年の東日本大震災の際、さまざまな支援が組織的に行われました。行政機関による支援活動のほか、国際支援を行っている団体や、阪神・淡路大震災以来国内で活動を行う団体による支援が見られました。

 

 しかし、それぞれの組織の結び付きが弱く、連携した取り組みはなかなか実現しませんでした。行政機関はNPO・NGOがどのような支援ができるのかを把握しきれておらず、NPO・NGO間でも、互いの役割を十分理解できていない、といった齟齬(そご)がありました。

 

 こうした課題を受けて、災害支援を俯瞰(ふかん)することの重要性に気付き、それら災害支援のコーディネーションを行う仕組みとして、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)が生まれました。2016年にはNPO法人としての活動を始めています。

 

──「災害支援のコーディネート」とは

 

 現在、日本では、国や自治体などの行政機関が、それぞれの制度を活用した災害支援を行っています。また、大規模な災害が発生した場合には、社会福祉協議会が災害ボランティアセンターを立ち上げ、個人ボランティアの受け入れをしています。さらに、NPOや企業などの多くの民間組織も支援に参加して、行政制度だけでは対応が難しい領域や、個人ボランティアでは難しい専門性をもった支援などに対応するようになってきています。こうした支援組織の活動支援や活動調整を行うのが、JVOADなどの災害中間支援組織になります。NPO間の連携促進や行政や災害ボランティアセンターとの橋渡し役も担います。

 

 近年、支援関係者の中では、支援の「もれ・むら」をなくすために、災害時において情報共有会議を立ち上げることの重要性が意識され始めており、現在平時から、都道府県ごとに災害支援のネットワークを作り、大災害の発生直後から、避難生活の支援、仮設住宅への入居やその後の公営住宅への移行、家の再建までといった、長い期間での復興の中で出てくる課題について、支援に関わる多様な主体と協働で対応できるように連携強化に努める動きが出てきています。JVOADもその仕組み作りを後押しできるよう、都道府県域の災害中間支援組織への伴走支援を行っています。

 

 国の動きとしても、今年5月末の中央防災会議で防災基本計画の改定が行われ、そこではNPO・ボランティア等の活動支援や調整を行う組織として「災害中間支援組織」の名称が用いられ、その育成・強化、関係者の役割分担の明確化などが記載されました。

 

行政・社協・NPO等の連携の必要性
JVOAD提供の資料より東京大学新聞社が作成

 

──ダイレクトな支援とは別の役割を担う中で、活動の原動力となっているものは何ですか

 

 JVOADの活動は支援者側のバックアップが主なものとなるため、被災者の方々と直接交流する機会は少ないですが、支援組織の間で信頼関係を築き、依頼をいただくようになったりするところに、活動の醍醐味があると思います。

 

 また、個人的な経験となりますが、行政機関の一員として災害支援に携わっていた経験があり、行政組織では広範囲に支援の網を張ることはできるものの、個々のニーズに直接働きかけることは難しいと感じていました。その点、NPOなどの支援組織には一人一人が抱える困難に寄り添い、手法を少しずつ変えながらサポートできるという特徴があります。こうした多様な形での支援をJVOADが調整することによって、間接的にそういった方々の力になれることは、非常に意義深いと思っています。

 

西日本豪雨時の広島情報共有会議の様子
西日本豪雨時の広島情報共有会議の様子(写真はJVOAD提供)

 

災害支援を「独りよがり」にしないために

 

──現代の災害支援における具体的な課題は

 

 例えば、被災地の避難所では毎回、避難後の食事が毎日菓子パンやおにぎりであったり、温かい食事の提供が難しかったりといった食と栄養の問題が出てきます。また在宅避難を選ぶ方が増える中で、避難所には物資が届く一方、在宅の方に届きにくいという課題もあります。さらに、子どもや要配慮者への支援、被災家屋の支援、コミュニティ形成の支援などが必要になります。このような現状を受けてJVOADでは課題を14の分野に分け、解決に向けて議論を進めているところです。

 

被災地で起こる主な課題
JVOAD提供の資料より東京大学新聞社が作成

 

──支援が偏ってしまうことも多いと聞きます

 

 例えば特殊なアレルギーのある方など、全員には当てはまらないけれどその当事者にとって必要なものに関しては、自ら「助けて」と訴えない限り支援が届かない場合も多いです。

 

 メディアで注目されたところには手厚い支援が届く一方で、被害が大きくてもメディアに取り上げられないところには、必要な支援が集まらないということも起こります。例えば最近では大雨や台風の影響により、多くの地域で浸水被害が出ておりますが、広範囲にわたって被害が出たにもかかわらず、発信の仕方によっては、あまり注目されなかったり、逆にセンセーショナルに取り上げられることで必要以上に注目が集まったりということも起こります。個人のボランティアが支援活動へ行く際にも、そういったニュースやSNSなどに影響される傾向があり、支援の偏りが見られる点が難しいと感じます。

 

 被害を受けた方々が直面している困りごとを、いかに正確に吸い上げられるかといったところが、今後の支援課題になってくると考えています。

 

西日本豪雨災害時の現地支援団体との合同調査
西日本豪雨災害時の現地支援団体との合同調査(写真はJVOAD提供)

 

──私たち一般人が支援を行う際に気を付けるべきことは

 

 被災地に赴いて支援する場合は、全国社会福祉協議会が発信している「災害ボランティア活動心得」を参考にするとよいと思います。服装などの十分な準備や保険への加入、必要な物の自己確保から宿泊の手配などにおける、ボランティアが備えておくべきことが載っていますので、こうした情報をあらかじめ調べて、用意をすることが、被災地へ負担をかけることなく支援に向かうために必要です。

 

 物資を送るという形で支援を希望される場合、必要な支援を適切に行うためには、まずはしっかりと情報を確認し、正確な情報かどうかを含めて把握することが大切です。

 

 最近では、SmartSupplyVisionによる「スマートサプライ」という仕組みもあり、支援物資が必要な被災地と支援をしたい方々とのマッチングを図るシステムが生まれています。こういった仕組みがあることを、普段から知っていると、個人の方でも気軽に支援に取り組めるかと思います。さらに、被災地で必要な物資を調達するため、また被災者の方が、物資以外でも必要とする支援が届くよう、資金的な支援も、重要と感じています。被災者を支援している民間の団体などに寄附することも、被災地への直接的な支援につながります。適切な支援を効率的に届けられる可能性も高いと考えられます。

 

2019年台風15号上陸時の、NPOと自衛隊への瓦屋根ブルーシート講習会
2019年台風15号上陸時の、NPOと自衛隊への瓦屋根ブルーシート講習会(写真はJVOAD提供)

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 100年前、歴史的大災害を前に立ち上がり、驚くべき活躍を見せた東大学生救護団。現代の災害支援の裏側で、支援者の善意と被災者のニーズとを結びつけ、スムーズな助け合いをサポートするJVOAD。時代を越えた二つの団体の活動には、全体の状況を俯瞰し組織間の連携を図るという、災害支援において重要な姿勢が共通していた。また、災害大国・日本で生きていく上で、読者が支援を受ける、あるいは支援を行う場面に出会うことも想像に難くない。個人レベルでの災害支援に迫られたとき、教わった支援方法が適切な対処の参考となるだろう。

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