インタビュー

2015年12月15日

ハフポスト日本版・高橋浩祐編集長に聞く 市民目線のジャーナリズムとは

 「東大の知をひらく」をコンセプトに、教授や卒業生のインタビュー、東大の関連ニュースを発信してきた東大新聞オンライン。開設1年半を過ぎたいま、月間6~8万人の訪問者を集めるメディアになったが、まだ歩むべき道のりは長い。そこで今回、東大新聞オンラインの須田編集長が、ハフィントンポスト日本版編集長である高橋浩祐さんに話を伺った。(後編はこちら

 ハフィントンポストは、発祥地となったアメリカ版を中心に、世界で15の国と地域に展開する一大オンラインメディアだ。月間訪問者数は全世界で2億人を超え、来年の初めまでに中国版の開設が予定されるなど、さらなる拡大を続けている。2013年5月に設立されたハフィントンポスト日本版も、現在月間約1500万人の訪問者を持つまでに成長した。

 規模では象と蟻ほどの差があるハフポスト日本版と東大新聞オンラインだが、広く人々に知ってほしい情報を発信するという志は同じはず。インタビューでは、メディアの役割が大きなテーマになった。

 

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――まず、ハフィントンポストがメディアやジャーナリズムを通して、どういうことができるのか、また何をしたいとお考えで活動してらっしゃるのか、お聞きしたいと思います。

 ハフィントンポスト日本版は、設立からまだ2年と6ヶ月で若い。他のメディアにない分野をカバーしないと差別化できないので、リベラル・メディアとしての姿勢を鮮明にしてやっていますね。たとえばLGBTの問題は、大手メディアがあまり積極的でない中、うちは熱心にやってきました。

 あとは、国際ニュース。うちは国際ニュースをやることで、国際色豊かなメディアとしてのキャラを立てようとしていますね。今世界で15ヵ国版ありまして、それぞれ記事の乗り入れをしています。英語だけではなくて、韓国語ができる記者がいるので韓国版から記事を転載したりしています。逆に韓国版もしょっちゅう日本版の記事を訳して載せ ています。

 

――中東の支局はどうなっていますか?

 マグレブ版とアラビア語版があります。2016年は国際ニュースに重点を置きますが、たぶん中心は中東とヨーロッパですね。いま世界を見てみると、シリア、イラク、イエメン、リビア、チュニジア、マリといったところでは、国家が崩壊して無政府状態じゃないですか。アルカイダやISみたいな集団が出てきて、そこから難民がヨーロッパに行っている。そういうニュースは来年もっと大きくなると思うんですよね。エジプトも同じような状況になるかもしれないし。そうすると、国際ニュースの重要性は高まると思います。

 僕は11月25日までスペインでの国際会議に行っていましたが、創業者のアリアナ・ハフィントンは2020年までに50ヵ国版に増やすと言っておりました。その中にはインドネシアも入っているし、スカンジナビアやラテンアメリカの国も入っています。

11月21日、スペインのマドリッドで開かれた国際会議 (Photo Credit: The Huffington Post)
11月21日、スペインのマドリッドで開かれた国際会議 (Photo Credit: The Huffington Post)

 

――そこは大きな強みですね。

 あとは、東大新聞さんの官邸デモの記事を読みましたが、ネットって割とフラットな動きを追うものじゃないですか。市民レベルの動きに関しては、ネットの方が強いですよね。主要メディアの人はやっぱり、首相官邸クラブや外務省クラブに行って権威・権力筋の取材を重要視しているので。

 うちはそうした記者クラブにも属していないので、実際に現場に行って取材するとか、ネットで起きている市民レベルのニュースを裏を取って書いている。僕はそれをシビック・ジャーナリズムと言ってるんだけど、市民目線からのジャーナリズムで、他のメディアにないところをやりたいですね。

 

――社会学者の小熊英二さんも、お読みいただいた記事の中で、マスメディアは市民レベルの運動を認知できなかったと言っていました。

  僕も日本の新聞社にいましたけど、いま全国津々浦々に記者クラブがあるんですよ。警察に、交通クラブに、県政クラブ、市政クラブ、経済クラブ。そこに役所や政治家、企業が投げ込み資料を出す。地方ではまだ、若手記者は割と街に出ることがあったけれど、中央に来ると首相官邸や中央省庁などの取材に依存している。そうして総理大臣とか官房長官とか偉い人の取材に慣れちゃうと、市民レベルで起きていることに対して鈍くなっちゃう

 僕がコロンビア大のジャーナリズム・スクールに行ったときは、記者クラブも何もなくて、ハーレムとかサウス・ブロンクスとかあまり治安がよくない場所が担当だったんだけど、自分で街をまわってネタを探しました。街に出て、今週は政治がトピックの記事を書けとか、来週は経済、その次はスポーツ、その次は貧困ストーリーを書けとか。

 僕は情報が集まりそうな教会に行ったり、どんな地域社会にもリーダーがいるから会いに行ったりするんだけど、そっちの方が面白いんだよね。たとえば、ふと街歩いていたら、移民の子どもたちが図書館で署名活動している。図書館で移民の子どもたちに英語を教えるクラスを、ニューヨーク市が予算削減のあおりで無くしちゃったんだ。そういう話を書いて、最後にニューヨーク市の担当者に「現場はこんなに困っているけど、いいのか」と話を聞きに行きました。

 日本だと、予算の記事っていうと「東京都が予算削りました。来年度から10%減」で終わっちゃうじゃない。そうじゃなくて、現実で起きているところから取材して、最後に行政や政治家に当てる。そっちの方が民主主義じゃない? メディアがやるべきことっていうのは、そっちだと思うんだよね。

 いま日本の新聞は、主語が「政府自民党は」とか「日銀は」とか、権威や権力が主語じゃない記事切り取ったら一面に書くことがなくなるよ。もっと人の表情とかカラフルなストーリーが面白いのに、のっぺりした「政府自民党」が何とかしたとかさ。若者が一番読まない記事だよね。

 

インタビューは、ハフィントンポスト日本版オフィスで行われた
インタビューは、ハフィントンポスト日本版オフィスで行われた

 

―― 一般の人たちの考えていることが政治にすくい上げられていかない面があるような気がするのですが、それに対してジャーナリズムはどんなことができるでしょう?

  どんどん声をすくいあげていくことだろうね。今は特に若者。前回の衆議院選なんて20代の投票率は32%くらいで、全世代最低でしょう。「なんで投票行かないんだ」から始めて、議論の場を提供してどのように書いてもらうかだよね。

 

――それって難しくはないですか? 僕は冷めている人に届かないな、と思うことがあるんですが。

 僕は、この間の選挙の前に、ブログで選挙に行かないとこれくらい若者の負担が増えるということを書いたら、1000か2000くらいリツイートされましたね。理屈としては、若者が行かないと政治家は若者の声聞かないよ、そうすると次世代に負担をかけるような施策を打つよ、ということ。ビビッドにやれば、みんなわかると思います。他人事じゃなくて自分事に置き換えてあげることが重要ですね。

 

(聞き手:須田英太郎 文・写真:井手佑翼)

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