INTERVIEW / FEATURE 2014年4月7日

東大生は20年で変わったのか? 江川達也さんに20年ぶりに聞く

 大学生の平均年齢を20歳とすれば、今の大学生が生まれたのは、およそ20年前。その頃の『東京大学新聞』でも、「大学とは、大学生とは何か」ということは、大きなテーマの1つだった。編集部員は、気鋭の作家や学者が発表した作品に刺激を受けると、取材を申し込んで話を聞き、記事にまとめていた。
この20年で、大学は、そして社会は、どう変わり、変わっていないのか――。20年前のインタビュー記事を、再度、そのまま掲載するとともに、当時取材した編集部員がもう一度、20年ぶりに、同じ人物にインタビューして記事にする。その2つの記事を読み比べたら、何が見えてくるのだろう?

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漫画家・江川達也さん
 1992年に連載が始まった漫画『東京大学物語』(週刊ビッグコミックスピリッツ・小学館)は、当時の大学生、そして受験生に、大きな衝撃を与えた。成績トップでクールな外見とは裏腹に、頭の中はエッチな妄想で一杯の主人公・村上直樹と、天然かつ頭脳明晰な美少女・水野遥。北海道・函館の高校を舞台にした「受験勉強と恋愛」の行方に目を離すことはできず、その後、テレビドラマ化もされた。

作者・江川達也さんの狙いは何なのか? ある日の夕方、東京・吉祥寺のスタジオを訪れると、江川さんの熱い語りは延々と続き、インタビューは5時間以上にわたり行われた。そして『東京大学新聞』に掲載されたのが、次の記事だ。

egawa-2.png(以下、『東京大学新聞』1993年9月28日「受験生特集号」より、江川達也さんのインタビュー記事を転載します)

東京大学物語の作者江川達也さんが語る受験、東大、教育…

偏差値81のラブコメティー!?~東大を目指す学年トップの秀才、村上直樹。水野遥に思わず交際を申し込み、思わずOKされて……。高校3年生の2人。灰色の受験生活が一転、仲良く東大合格を目指す2人……のハズが、いろんな困難も待ち構えていて……。「受験生特集号」の今回、『東京大学物語』作者の江川達也さんに話をきいてきた。(編集部)

数学教師・江川達也の解く東大入試問題~高校生レベルで解けるとは思えない

――『東京大学物語』では、今のところ函館の高校が舞台になっていますが、自身の受験生時代はどんなだったんですか。

江川 受験勉強……あんまりやんなかったですね。共通一次の最初の年だったんですよ。共通一次前も、2週間で、徹夜じゃないけど13時間くらい勉強して詰め込んで、終わったらぱあーっと忘れちゃったみたいな勉強なんで。実は高校の3年の秋くらいから、私も女の子と付き合い始めたっていうこともありまして……。

――じゃあその経験が、「恋と受験の両立に悩む」村上君の心理描写に生きてるわけですか。

江川 そうそう。結構生きてるけど、でも村上君ほどには「恋と受験をいかに兼ね合ってやっていくか」なんてことにはほとんど悩まなかったですね。それまで全然勉強してなかったから急激にやったら成績がボンボン上がってきて、「ああ、こりゃあ受かるや」って結構すんなりと。だからあまり受験勉強の苦しみっていうのはなかったんですけどね。
でも、今の人って受験勉強の大変さってありますよね。東大の入試問題とかね、全然知らなくて買ったりして見たんですけど、すっごく難しいですよね。これ大学の試験じゃないか、みたいな試験でしよ。高校生レベルで解けるとは思えないんですけどね。

――いや、だからいかに入試の時に「学力」のピークをもっていくかで、あとは落ちていく……ってことじゃないですかね。

江川 いやそれはよくないですけどねえ。大学で勉強しなきゃダメじゃないですか。……でもこれ、よく解けるなって思いますよ、本当に。

これZ会(増進会出版社)の人が送ってきてくれたんですけどね(と言いつつ、東大入試の過去関集を取り出す江川氏)。でね、私もZ会入ったんですけど(なんと江川氏宅に通信添削の問題が届けられていることが判明した)。一応、高校の教師の免許持ってるんで、数学の問題ね、解けるかなーって思ってやってみたけど、これ、すっごいむちゃくちゃ式が要るなあ、とんでもないなあって思って答え見たんですよ。

そうしたら、東大の問題ってのは、すごい近道があって、見抜くとすっといけるというね……これはすごいなあと思って。で、そういう問題ばっかでしよ。作る人も頭いいんだろうなあって思いましたけどね。

――そうした入試を突破すべく、低学年のうちから塾通いする小学生の姿なんてのもよくテレビに出てきますが。

江川 今の人はかわいそうだなあって思いますよ。要するに、学者になるタイプと、そうじゃない才能があるタイプがあるじゃないですか。学者になる人はどんどん勉強すればいいんだけど、そうじゃない人までね、最初からやらなくても……。
東大入って官僚になっても、結局、出世競争でしょ。官僚になっても家建たないっていうし。

……好きな仕事ってあるじゃないですか。ちょっと学歴信仰が強すぎるっていうか、戦後っていうのはもう「学歴かお金」しか価値観がなくなっちゃったじゃないですか。昔は結構、多趣多様な頂点ってあったんだけど……。なんでそんなに東大に固執するのかなあ。

本当に今って、学歴が一つのステータス、勲章みたいになっちゃっているから、東大受ける人はほとんどは自分で決めたわけでもなく、何となく流されて東大に入ってて……多分どんな人間でも成績いいと東大行っちゃうんだよね。もっと違う価値観ってないのかなあとか、まあそこもこれから描きたいところなんだけど。

だから東大受ける人も、もう一回なんで自分は東大なのかってことを考えて受験したほうが、試験でもアガらないと思いますよ。
基本的に、将来何をしたいかってことを明確に持ってる人って少ないですよね。要するに、やりたいことを見付けるような教育をしてないっていうか。ねじり鉢巻きで小学生の頃からやってるわけでしよ。そうするとまあ、学校で覚えた勉強くらいしかないじゃないですか。

ところがよく考えると、やりたい職業を選ぶっていうのは学校でやった勉強ってあまり役に立たないですよね。学校でやった勉強のなかに、これをやったから将来はこれになろうって思うような勉強って一つもないじゃないですか。

文部大臣・江川達也の学校改革~俺はもうビジョンがすごくあって

――教育大学に進んで、中学の先生も経験したそうですが、教師になろうと思った理由というと。

江川 俺はもうねえ、自分の中で高校の時ビジョンがあったんですよ。小学校の先生になりたかったんですけど教育に対するビジョンがすごくあって、こういう学校でこういう勉強教えてこうしようっていうのがあったんだけど、「それはできないな」ってのが教育大学に行ったり教師になってわかったんですけどね。

――といいますと。

江川 やっぱり学習指導要領とかあるわけでしょ。あれ無視することになって、文部省の方針と真っ向から逆らうようなのが自分の理想なんで……。

――じゃあ仮に文部大臣になったらどんな改革を。

江川 文部大臣になったら? そりゃあもうカリキュラムはいっぱい考えてて……まず、勉強を2つに分けようと思う。教育で、「教」と「育」ってあるんだけど、今の学校教育も塾もみんな 「教」の方ばっかやってるんですよね。だから「教」と「育」を分けて、「教」の方のカリキュラムは今までよりもっと効率のいいプログラムにして、「育」の方はもっと育てるっていうか。

美術でいうといちばんわかりやすいんだけど、要するに絵を描くっていうか、そういうものってのは自分が表現して自分からやるもんですよね。それで先生は「こういうふうに絵を描くんだ!」って教えないじゃないですか。そういうものをもうちょっと増やす。国語だったら、もっと作文を増やす。あと「図書館」って授業をつくって、図書館にいって好きなものを読ます。

だから今の文部省のやってる国語教育を、美術教育に当てはめると、どういうことやってるかというと、「今日はこの絵をやる!」ってやるわけですよ。で、「この絵のこれは何を表しているか、ここを表しているのだ!」って教えるわけですよ。それで、絵は絶対描かせないわけ。で、より先生が決めた絵の見方をした人がほめられる。そういう教育でしょ。絵を描くのが好きな人がすぐ嫌いになるような授業を国語はしてるわけで、「味わう」とかそういう部分はもっと自由にした方がいいんじゃないかっていうか。

社会科は、いちばん問題なのは昔の歴史にやけに詳しくて、最近の歴史に非常に暗い。例えば小学校の地理なんかだと、最初自分の家のまわりから始めて、だんだん拡げていくでしょ。突然ねえ、アメリカの田舎の町を勉強しないでしょ。それと同じで歴史だって、昨日のことを知った方がいいじゃないですか。近代史があまりにもやってないのはねえ……。だいたい第2次世界大戦の反省したっていってねえ。広島とかね、東京大空襲は印象強いでしよ。でもなんであの戦争起こっただろうって考えていくと、ハッキリ答えられる人ってのは日本でもあんまりいないんじゃないんですか。

東大の学生に聞いてみたいのは、あの第2次世界大戦はなんであんな戦争を起こしてあんなひどい目にあったのか、意見もってる人はどれくらいいるのか聞いてみたいですけどね。近代史をね、日本人がほとんど知らない。これは弱点だと思う。もっと自分の身のまわりのことを知るべきっていうか、学校で教えるべきですよね。天皇制なんかも絡んできて、どう教えるかってこともあるんだけど、そろそろ語らなきゃいけないんじゃないかって思いますよ。

あと、地政学を復活させてほしい。まあ地政学っていうと問題あるんだけど、平和を守るためにはなぜ戦争が起きたのか、戦争っていうのはどういうものか、戦争をなくすための戦争を研究するっていうか。

日本人って、戦争っていうとどこか他人のもので、あまり詳しくないんですよね。でも重要なことは、PKO反対賛成も、海外派兵も、国連常任理事国入りとかそういう問題も、今まで戦争の歴史がどうあったのか知らない人間には語れないではないですか。だからだいたいの人の考えは感情論でしかない。シビリアンコントロールを効かすっていっても、そのシビリアンがいったい戦争に対する知識がまったくないとなると、どうするんだよっていうね。

東京大学に行ってる人も、戦争マニアになっちゃいけないけど、クールに客観的に戦争を見れる人間がシビリアンとして官僚として育って、しかもそれをみんなに教えていくってしないと、全然過去を振り返るっていっても振り返っていないですよね。

予言者・江川達也の未来像~マインドコントロール戦争ですよ

――その他に、なにか特別な科目を作るとしたら。

江川 あとねえ、これからは映画ですよ。映画を作るってのを子供にやらせるんです。これからは、自分の思ってることとか情報を伝えるのに、もう言語じゃなくっていい便利なものができた。それはビジュアルなんですよ。あとは、コンピュータ。

アメリカの副大統領のゴアが「情報ハイウェイ計画」ってのをいってますけど、そうなると個人がコンピュータもってるだけで、おびただしい情報を伝達しあえるようになるんですよ。コンピュータがあれば絵なんかすぐ取り込めるでしよ。グラフも、音楽も取り込める。それによって自分のイメージが瞬時に他人に伝わるわけですよ。活字っていうのは、それだけのものを伝えられるのか。できないでしょ。これからは活字じゃなくて、映像とか音楽、コンピュータってものの重要性が伸びてくるわけだから、学校の授業に入れるべきですよね。

――なるほど。

江川 そうなると、今後はマインドコントロール戦争ってのが考えられますよね。素手での戦いから機械での戦い、経済戦争、情報戦争ときたわけだけれど、最終的にはいかに他人の心を支配できるか、コンピュータ、映像、音楽などを駆使していかに他人に快感を与えられるかでマインドコントロール戦争が起きるんでしょうね。

――では最後に、受験生と東大生に向けてなにか。

江川 まあ、だいたいね、受験の時がいちばん悩むんですよ、人間。受験の時いちばん勉強してるでしょ、受験の時いちぱん頭使ってるじゃないですか。だからついでに、自分の将来のことを考えるとか、自分が本当に何したいのか考えて受験すべきっていうか。

東大生は……まあ官僚になったら、もっと教育のことを考えてほしい。あと戦争をもうちょっと勉強してほしいですね。それと、理系の人は科学史をやってほしいですよ。細分化して技術屋になっちゃうんじゃなくて、今の時代ってのはどうなってるのか、もっとグローバルに世界の科学の発達を考えて、一般人に科学をもっとわかりやすく伝えてほしい。

どうも昔から官僚と科学ってのは一般人から遊離してるんですよね。一般人は専門のことは考えなくていいんだよっていうようなね。でもそういう時代はもう終わったんじゃないか。いちばん如実に出てるのはエコロジーの問題とかゴミ問題。一般人一人ひとりが科学っていうものをわかんなきゃいけない時代になってるじゃないですか。

そういうことも漫画のなかで描いていきたいと思うんだけど……恋愛ドラマからどうやってそこまで描いていけるのか、難しいっていうのはあるんですけどね。

(連載「20年前の東大、今の東大」、今回は、1993年の江川達也さんのインタビュー記事を掲載しました。明日更新予定の記事では、2014年に行われた江川達也さんのインタビューを掲載いたします)

江川達也(えがわ・たつや)
1961年名古屋生まれ。83年、愛知教育大学教育学部数学科を卒業。同年、名古屋市内の中学校で数学講師を経験。84年『BE FREE!』で漫画家デビュー。また、江川漫画研究所を設立、漫画を科学的に分析している。

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