COLUMN 2019年5月6日

19歳が見た欧州自動車の世界:イギリス編

文・写真 本多詩聞(理科Ⅰ類2年)

 

自動車再発見!

 

 東京大学には、自動車を構想して、完成させて運転するところまでを、すべて学生がこなす、そんなサークルがある。私の所属する東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)だ。

 

 UTFFでは毎年2月に、希望者はヨーロッパ旅行をする。ヨーロッパの自動車関連施設を見学し、ものづくりに対する知見を深める旅だ。私はこれに参加し、イギリスのF1ファクトリー、フランスの飛行機工場、ドイツの自動車博物館、の三つをメインに見学した。

 

アエロスコピア航空博物館にて(フランス・トゥールーズ)

 

 この前後編の記事は、私がヨーロッパで自動車の開発・製造現場を目の当たりにして考えたことを通じて、自動車の魅力を伝えようとするものである。自動車が好きなら、読んで共感してもらえるところも多いだろう。そうでなくとも「こんな世界もあるんだなぁ、自動車って奥が深いなぁ」というふうに、自動車を再発見していただけたらありがたい。また、これから大学を目指す高校生や、何かに打ち込むことを見つけたい大学生の方々に向けて、私がサークル活動で主としている「学生フォーミュラ」の魅力もお伝えしたい。前後編2回の連載にして、ずいぶんと欲張った願いをこめている。
 

学生フォーミュラの魅力

 

 私は東大に入って、課外活動として「学生フォーミュラ」に、積極的に取り組むことにした。これは、学生が自分たちでフォーミュラカーを構想・設計・製作し、「全日本学生フォーミュラ大会」というコンペで性能・設計・プレゼンなどの部門で競う一連のものづくりプロジェクトである。ここでいうフォーミュラカーとは、Formula(定式・決まり)という英単語が指すように、大会側が定める厳格な決まりに従って作られる車両である。詳しくは、東京大学の学生フォーミュラチーム「UTFF」の公式ページをご覧いただきたい。

 

 

 UTFFの魅力の一つは、「速いクルマ」の条件について、最低限の知識が身につくことだ。私が小さいころから触れていた、一部の自動車関連の映像作品・ゲーム・雑誌においては、「速いクルマ」の本質が単純化されていたことに、UTFFで活動する中で気づいた。これらの世界では自動車の優劣は特に「ハイパワー」と「軽量」の二要素で片付けられていることが多い。たしかに、この二つに主眼を置いた自動車のレビューは、車の特徴を伝える上では分かりやすいし、それを否定したいわけでもない。しかし、実際のところ強力なエンジンを積んでいても、そのパワーを路面に伝えなければ速くは走れない。カーボンパーツによる軽量化も、それが些細なものであれば、運転手が痩せた方が効果的だったりする。というように、本当に「速いクルマ」を作るためには、極端にいえば、自動車の構成要素(熱機関・変速機・タイヤ・ブレーキ・サスペンション・ボディ・電子制御など…)全体で考える必要があるのだ。

 

 UTFFのもう一つの大きな醍醐味は、プロの方と共同で自動車をデザインできることだ。現在製作している車両「UTFF18」のボディのデザインは、日産の市販車・コンセプトカーのカーデザインに関わっている、西川満生氏と私のタイアップで行った。世界に1台しかないモデルではあるが、自動車メーカーに比べ圧倒的に少ない人数で1台を作るため、驚くほど自分のやりたいことができてしまうのは、この活動の利点である。

 

 自動車には興味がなくて、ものづくりに興味があるという理由で学生フォーミュラをしている人もいる。そのため、当然ながら人によって、活動するメリットは違う。自分の興味に応じて、プロジェクトに参加している。

 

F1の魅力

 

 題名に「欧州」とあるように、2月8日から2月21日にかけて、ヨーロッパへ旅行に行った。UTFFの一員として参加することで、顧問の草加浩平先生(工学系研究科特任教授)を通じて通常は見学できないところも見せてもらえる、スペシャルな旅行である。前半、イギリスではF1チームの「レーシングポイント」およびF1のパワーユニットを供給するホンダを見学した。後半、フランスでは旅客機メーカーのエアバス社の組み立て工場、およびドイツの各所にある、有名自動車メーカー(BMW・アウディ・ベンツ・ポルシェ)の博物館をめぐった。ここでは前半のイギリスでの見学と、F1好きな親友の話をもとに、F1の魅力をお伝えしたい。

 

レーシングポイントでの1枚

 

 私の一番の親友は、生粋のF1ファン、谷くんである。彼に言わせれば、F1の魅力は「いい歳こいた大人が、ひたすらレースに勝つことを目的に動いていることの面白さ・すがすがしさ」にあるという。正直なところ私はF1に詳しくない。今期はいくつのチームがあって、それぞれドライバーは誰であるとか、歴代マシンの特徴、レースの名場面といった知識には乏しい。とはいえ、そんな私も彼の意見には(何となくだが)同意できる。この魅力は具体的にどのようなことか、自分なりにイギリスでの見学に基づいて考えた。

 

 「いい歳こいた大人」が指すところは、ドライバーだけではなく、チームの構成員全員を含む。ドライバーは、超高速での操縦をこなせる反射神経や、加減速・旋回時の慣性力に耐える強靭な肉体を持たないといけない点で、言うなればアスリートである。このような人たちがレースで勝つことを目標にするのは、F1に限らず、速さを競うスポーツ全般に言えることである。一方、チームの構成員は、オーナー、エンジニア、人事、広報、マネジメントといった、世の中のあらゆるメーカーに存在する職種である。ロンドン郊外のニュータウン・ミルトンケインズに位置するF1チーム「レーシングポイント」を見学した際、オフィス部分ではコンピューターによる設計や解析が行われており、工房部分では部品の製作が行われていた。これらを見ても、姿勢の違いはあるにせよ、やっていることはメーカーと似ているように思えた。しかしながら、このチームの目的は利益ではなく勝利である。勝利に向かって、役職間で緊密な連携をとりつつ、一台のマシンを作るのである。このような、一見した様子と実際の目的意識のギャップには、他のスポーツにはあまりない新鮮さがある。

 

2019年3月9日に、青山で開催されたレッドブル・ショーラン・東京の様子(写真提供:谷拓希くん)

 

 ここまで説明した、谷くんの言うところの魅力も、こう解釈すると「面白さ・すがすがしさ」が見えてきそうだ。ところで、これはファンから見た魅力であるのに対し、実際のところF1を作るチームから見たF1の魅力は何だろうか。同じくミルトンケインズにあるホンダのファクトリーは、パワーユニットをチームに供給するサプライヤーにあたる。そこでチームの方から伺った説明によると、社内に向けては「レースは人材育成の道場」であるという。「レースには必ず本番があって、そこでは決して失敗は許されません」。量産車の開発とも違う、現場の緊張感がレースにはあることで、道場よろしく徹底的にスキルを身につけることができる、とホンダは考えているのだ。さらに、社外に向けては「レースを通じて、顧客から存在を期待される企業であり続ける」という理念を伺った。「顧客の喜び・期待を得ること、それを共有すること、信頼を得ること」に基づいて、顧客(ホンダ車のオーナー)に「うちはF1で優勝したメーカーの車に乗っているんだ」という誇りを持ってもらえたらうれしい、とおっしゃっていた。ホンダをはじめとした各チームは、勝利以外にも独自のモチベーションをF1に見出していることが分かった。

 

F1と学生フォーミュラ

 

 プロのF1と学生フォーミュラを比べるとき、マシンの性能、お金、人材など何から何まで規模・レベルが違うのだが、基本的なプロセスは同じである。要は車を作って競い合うということだ。学生フォーミュラにおける「人材育成の道場」の側面は、車を作る過程での設計ソフトの使い方、旋盤・フライス盤などの工作機械の操作、チームのマネジメント、渉外活動を通じたビジネスマナーなど、たくさんの技法を身につけ、それを社会に出てから還元できるところにある。そして「(いい歳はこいていないが)ひたすらレースに勝つことを目的に動くことの面白さ・すがすがしさ」は、1年間で自分たちの車を構想・設計・製作して走らせるまで、学生同士が連携をとって行動する苦労の先にある。車が完成したとき、あるいは大会で結果を得たときに、学生でもきっと、F1エンジニア級の歓びを得ることができるだろう。

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