INTERVIEW / FEATURE 2015年7月8日

日本企業からグローバル人材は育つのか? 武田薬品 長谷川閑史 会長インタビュー

「海外に打って出なくては、今の日本の生活レベルを維持・向上することはできない。

こう語るのは武田薬品工業株式会社 代表取締役 取締役会長の長谷川閑史さんだ。

長谷川さんに、日本企業そして日本人がグローバル化に対応するために必要なリーダーシップについて、また、グローバル化の時代をどう生きるべきかを聞いた。

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――長谷川さんは、どのような学生時代を過ごされてきたのですか?

山口県から上京して大学に入ったのですが、もっぱらワンダーフォーゲルに熱中していました。自然のなかで過ごすことは、創造性の刺激にすごくいい影響があったと思っています。

――長谷川さんは社長を退く際に、後任に外国人を据えるなど、武田薬品のグローバル化を推し進めました。長谷川さんが社長時代にそのような決断をされた理由を教えてください。

現代のビジネス環境を考え抜いた結果です。今後、日本が第三次産業にシフトしていく必要があることは明らかです。日本が得意な、製造業におけるキャッチアップ型で経済成長ができる時代は終わりました。このモデルは新興国に研究されつくし、例えばサムスンやLGに規模の経済で追い越されました。スマートフォンに関しては、いまやサムスンすら中国のメーカーに追随されています。

この流れは必然と言えます。第二次産業が世界の主流だった時代、アメリカが日本に追随された結果、金融やITなどのプロフェッショナルサービスに代表される第三次産業にシフトしました。日本も同様に、付加価値の高い産業にシフトしていく必要があります。

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世界的に見れば、富は増え続けています。IMFによれば、2000年には世界全体のGDPは33兆ドルだったのに対し、2010年には65兆ドル、2020年には98兆ドルを突破することが予想されています。このように世界全体の富が20年間で3倍に成長するなか、その過半は新興国によってもたらされ、日本はその成長にほとんど貢献しないこともデータで出ています。

我々に残された道は、国内産業の生産性向上に努めると同時に、成長している市場に出て行って、製品・サービス・情報を提供し、国や地域の成長に貢献すると同時にその成果を自国に取り込むことしかないと言えます。

――グローバル市場では競争も激しいと思いますが、武田薬品は何を軸に世界に打って出ているのでしょうか。

医薬品は、電化製品と同じような形で、猛烈な勢いで新興国に普及していきます。世界の医薬品市場は、2025年には、現在の約1.5倍となることが見込まれており、その成長の5割以上は新興国からもたらされます。武田薬品の最も大事な使命は、「優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献する」ことです。この使命を果たしながら成長を実現するには、世界中の病気や痛みに苦しむ患者さんに医薬品をお届けすること、特に市場が急速に成長している新興国において、患者さんの生活の質(QOL:クオリティオブライフ)の向上に貢献していく必要があります。

また、サイエンスの進歩に合わせて、パフォーマンスも上げていかなければなりません。手近な例を言えば、遺伝子工学などの発展により、薬の効用についての個人差も明らかになってきており、1人ひとりの体質に最もあった薬を処方する、パーソナライズド・メディスンというアプローチも進化してきています。そして今は医薬品を提供していますが、将来的には究極のゴールである「そもそも病気にかからないこと」への取り組みも目指していきたい。いずれにしても、患者さんのQOL改善に貢献することが軸となります。

――そのような大局的な見通しのもと行動されている長谷川さんが考える、「リーダー」の定義とは、どのようなものでしょうか?

私が考える「リーダー」は、自らが率いる組織のミッションを充分に浸透・理解させ、その達成のために組織のベクトルをそろえ、最大限の成果を継続的に実現していく人です。

経営者の視点から言えば、事業において何か問題が発生したとき、徹底してクリティカルかつロジカルに思考を突き詰めれば、必ず答えはあります。その際に重要になってくるのは、「白紙で考えること」と「実行する決意」です。人は現状に甘んずるものですが、成功した会社ほど、過去の栄光に安住することなく、会社を変革しています。私は2003年にこの会社の社長になったとき、事業のあらゆる面で、グローバルに競争力のある会社にする、そのためには何でもやる、そう決めて変革を実行してきました。

私の後任人事の件もそうですが、決断をする立場にいれば数多くの批判を受けますが、批判が嫌なら社長を引き受けなければいい。リーダーがすべきことは現状を理解した上で将来を予測し、その中で自分は組織のパフォーマンスを最大化するために何ができるのかを考え、実行に際してはコンプライアンスを守った上で、結果を出すことです。

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――そのような決意のもとの取組みだったのですね。世界的な視点を持つ長谷川さんにとって、「グローバル人材」とはどのような人のことを指すのでしょうか?

先ほども申し上げた、「組織のミッション」を理解していることが基本です。その上で、世界のどこに行っても「ミッション」を決して忘れず、その実現に向けて努力し、成果を出せる人のことです。

日本企業の中からグローバル人材が育っていくのが望ましい。武田薬品は、ようやくグローバルレベルで人材育成が出来るスタートラインに立ちました。海外企業の買収を行ったことで、非常に短期間でグローバル化を進めなければならなかったため、組織の要職にグローバルにビジネスをマネージした経験のある人材を配置しました。

こう申し上げると、外国人が優遇されているのではないか、などと誤解されることもありますが、決してそうではありません。人種・性別に関係なく、グローバルなマネジメント経験を有する「生きたロール・モデル」の近くで働けることは、日本人にとっても恰好の学びのチャンスです。このチャンスにチャレンジする気概がある人をバックアップして成長させることも、リーダーとしての役割の一つです。

――ありがとうございました。最後に、日本の学生にメッセージを。

日本は本当にいい国です。労せずして、カンファタブルに過ごすことができる。しかし、少し長いスパンで見ると、日本は少子高齢化の問題を抱え、財政赤字からデフォルトを迎える可能性もあります。そのような危機的な状況になった際に批判されるのは、現在の構造を放置した我々の世代です。これからは、高度経済成長期のように右肩上がりで、ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれ、就職してずっと一つの会社に勤めて安泰という時代ではありません。でも悲観しなくていい。国内にもイノベーションを通じた生産性の向上等、多くのチャンスがあります。加えて、世界にはまだまだ、皆さんがもっと自分の力を発揮し、貢献できるチャンスがあります。発展する地域に進出し、成長する国に製品を提供し、その国の人々の生活レベルを向上させることを通じ、富の分け前を自国に持って帰ることで、日本の生活レベルの維持・向上に貢献することができるでしょう。

学生の皆さんは、自分自身と子供や孫の将来のために、日本が「いい国」として存続していくために何をすべきなのか。目的意識を持って、学ぶことや進む方向を決めて、自分をきちんと磨き続けていけば、明るい未来を必ずつかむことが出来ます。

未来は自らが創っていくものです。皆さんのこれからに大いに期待しています。

(文責 沢津橋紀洋)

本インタビューは東大新聞オンラインとGCL Newsletterの共同企画です。

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