インタビュー

2021年3月29日

「生き金」増やす経営改革断行 五神真総長退任記念インタビュー・前編

 

 2015年に就任した五神真(ごのかみ・まこと)東大総長は今年3月で6年間の任期を終える。東大を「自立した経営体」とすべく経営改革を行った五神総長は、自身の改革をどのように振り返るのか。そして、次期執行部が引き継ぐべき東大の課題は。退任目前の五神総長に話を聞いた。前編の主なテーマは五神総長が特に力を入れて取り組んだ経営改革について。浮かび上がってきたのは、成長可能な経営メカニズムの構築と大学が生み出す「価値」への投資という課題だ。

(取材・中野快紀、撮影・高橋祐貴)

 

「雑巾絞って」得た10億円

 

――まもなく総長を退任する現在の率直な心境は

 

 長いようで短かった6年間でしたが、重責でしたので少しホッとしています。現在は何よりも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応が大変で、キャンパス内の安全・安心を確保しつつ、教育・研究活動の質を高めるためにギアチェンジする必要があります。新年度に向け、学生や研究者をどうサポートしていくか、藤井輝夫新総長と共に考え、引き継いでいるところです。COVID-19対応は時々刻々状況が変わるので、これまでどのように判断してきたのか、経験をお伝えしています。

 

――自身の任期中に力を入れた改革とその成果は

 

 総長に就任した直後は、濱田純一前総長の任期中に策定した総合的教育改革による4ターム制や、総合図書館の改修目白台インターナショナル・ビレッジの新設などの大型施設整備事業が走り出すタイミングでした。それらがうまくいくように進めることがまず第一でした。

 

 経営については2015年6月に文部科学省からの通知で国立大学法人が「経営体に変わる」ことが求められ、それを起点として、改革を始めていくことになりました。しかし、その通知には「経営体になる」ことの具体的な姿やそのための手段が全く示されていませんでした。大きな転換なので当然リフォームのためのまとまった資金が必要ですが、それには全く言及がありませんでした。そもそも国立大学法人への運営費交付金は漸減が続いていたのです。そこで、まず財務改革と財源の多様化が必要と考えました。私自身、歴代総長の仕事を手伝う中で、東大はまだ資金を上手に使えていないと感じるところがありました。そこでまず、できることから取り掛かることにしました。国立大学時代からの習慣で、予算が部局ごとに細分化されていて、せっかくの東大の規模が生かされていないことを残念に思っていました。そこで予算を全学で透明化して、これまで部局ごとに分断されていたものを皆で議論して全体で最適な形で編成する方式に変えたのです。そうすることで、部局ごとの予備費確保などの無駄が減り、若手研究者の人件費などの重要なものに最優先で予算を投入する余地が生まれました。この改革方針は、小宮山宏元総長、濱田前総長の下でも提案してきたのですが、実現できずにいたので、自分が総長になったら実行しようと考えていたのです。

 

 任期前半では財務改革など、学内の制度整備を優先しましたが、後半は国際展開を一気に進めました。グローバル・コモンズ・センターの設置や東京フォーラムの開催など世界展開を加速しました。

 

――歴代の総長も手をつけられなかった予算配分方法の変更に反対の声は

 

 最大の基盤財源である運営費交付金が漸減という状況で、全学で透明化して実質的に使えるお金を増やすという仕組みなので、反対の声はありませんでした。予算を3、4割増やすようなことはできなかったものの、諸改革と合わせ、年間10億円程度の余裕金も生み出すことができました。他大学では、研究費やポストが厳しく削減されている状況の中で、東大では、ポストも増やし、部局配分予算も増やすことができたのです。国からの予算は増えませんが、東大はいわば絞る雑巾が大きいため、効果を出すことができました。

 

大学債は「あるべき姿ではない」

 

ソフトバンクなどの企業と「産学協創協定」を締結。ソフトバンクとその関連企業が10年間で最大200億円を拠出する「Beyond AI 研究推進機構」を設立した。メルカリとは産学協創協定は結んでいないが、複数の部局が参画する共同研究を開始している。(いずれも撮影・東京大学新聞社)

 

ーー今後の工夫次第で目に見えるような予算増は可能か

 

 大学の予算はほぼ全て使途が決まっており、一般企業のように経営改革によって次の改革資金を生み出すことができません。経営体として成長するメカニズムが存在しないのです。欧米の大学市場化は学生を顧客と考えるビジネスモデルで、米国トップスクールの年間授業料は五百万円以上です。そのモデルも使えません。活動資金を生み出すオリジナルモデルの創出が不可欠なのです。

 

 産学連携も問題でした。東大では年間二千件もの産学共同研究契約を締結しています。小規模なものがほとんどですが、問題はその契約の中身です。契約額は必要な経費を積み上げて決まっています。その研究で生み出される知的な価値はいわばゼロ査定なのです。知の価値を正しく評価してもらうには、企業の一部門と大学の一研究室の契約では無理です。そこで、組織対組織の大型連携という仕組みを創設しました。これが「産学協創」です。そこでは、10年間で100億円といった規模で、大学の知という価値を評価して投資していただくことが可能になりました。経営改革サイクルを回す財源が生まれたのです。大学債も同様で、経営サイクルを拡大し、大学の機能を拡張するための規模感のある先行投資資金を獲得できたのです。

 

 大学が価値を生み出す活動の時間スケールは多様です。四半期のキャッシュフローマネジメントに縛られる民間企業経営とは全く違います。大学の経営では、長期の事業への投資を可能とする、自由度の高い経営資金の確保がなにより重要なのです。例えばハイパーカミオカンデは、その事業自体がお金を生み出すものではないですが、学術的には明らかに大きな価値を生む研究ですから、東大として投資する意味があります。これは40年後の日本の姿を考えたとき、国の価値を高めることに貢献する研究でもあります。こうした将来価値を向上させるものには、むしろ率先して税金を投入すべきだと私は主張してきました。しかし、今の国の財政状況ではそれが出来なくなってしまった。そこで、東大も自らリスクを取り、市場を説得して、国の未来のために必要な資金を調達することにしたのです。大学債でまかなうのは本来あるべき姿ではないので、引き続き国にも働き掛けていかねばなりません。

 

経営体=拝金主義は誤解

 

――大学が収入を得る手段には寄付などもあるが

 

 寄付は大事ですが、大学の基盤を支える財源とするには、一定規模まで積み立てていかねばなりません。それまでには時間がかかります。つまり、いただいたお金をすぐに使うわけにはいかないのです。しかし、今は変化の時代です。リフォームのための先行投資の財源となる、ある程度まとまったお金が今必要なのです。努力して年10億円を絞り出しました。しかし、それを普通に使ってしまうのでは、東大の2300億円という予算規模の中ではインパクトは限られます。でもその10億円を償還財源として債券を発行すれば、まとまったリフォームのためのお金を手にすることができます。

 

 大学債発行には資金調達以上のより重要な意義があります。それは社会全体で未来のためにお金を使うという機運を高めることです。大学という本来的に長期の活動をしている組織が資金循環の中に本気で入っていくことで、現行の市場原理に傾きすぎた資本主義の欠陥を修正したいのです。経済の仕組みの改革に貢献できる。だからこそ、大学が経営体になる意味があるのです。東大の進めている経営改革はこのような高いビジョンに基づくものです。その点を市場も評価してくれているということが重要です。

 

 大学が経営体になるというと、今の市場原理の中に大学が入っていって、大学が拝金主義的な活動に支配されてしまうのではと考える人もいますが、それは誤解です。実際、多くの欧米の大学はその方向に進んでしまいました。コロナ禍でそうした大学は経営危機に瀕しており、それが間違いであったことは今は広く認識されています。東大モデルを世界に広めていく必要があります。

 


 後編では現在の東大が残す課題、特に学内のジェンダーバランスやガバナンスの問題について、五神総長の認識を聞きます。

 

東大はいまだ「世界の普通」ではない 五神真総長退任記念インタビュー・後編

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