インタビュー

2021年3月30日

東大はいまだ「世界の普通」ではない 五神真総長退任記念インタビュー・後編

 

 2015年に就任した五神真(ごのかみ・まこと)東大総長は今年3月で6年間の任期を終える。東大を「自立した経営体」とすべく経営改革を行った五神総長は、自身の改革をどのように振り返るのか。そして、次期執行部が引き継ぐべき東大の課題は。退任目前の五神総長に話を聞いた。後編の主なテーマは東大構成員のジェンダーバランスの問題と、昨年混乱が生じた学内ガバナンスについて。五神総長は東大構成員のジェンダーバランスの偏りに対し「世界基準で見て、まともな組織にならないといけない」と断じる。

(取材・中野快紀、撮影・高橋祐貴)

前編はこちらから

 

学生に「グローバルスタンダード」な感覚を

 

ーー任期中に不足していた改革は

 

 現在、大学に対する期待は非常に高まっています。COVID-19にしても地球環境問題にしても、大学こそが他のセクターにできそうにないことを、国際的に連携しながらやっていけるのではないか。大学がこうした問題に対し、主体的かつ意欲的に取り組まなければいけない立ち位置に立っていることを理解している人はだいぶ増えましたが、まだ十分に浸透していないかもしれません。特にそういった問題に学生のエネルギーを積極的に生かすようにすることが大切だと思っています。

 

 一方、グローバルな問題にチャレンジするには、世界基準で見て、まともな組織にならないといけません。ここで問題なのはやはりジェンダーバランスです。私は女性役員比率向上を目指す30%クラブに率先して入りました。藤井輝夫新総長はそれをさらに進めて、執行部に占める女性の割合を過半数にすることにしました。そういう見えるところから進めていくことがとても重要です。私もオンラインツールも活用して全国の女子高校生たちと対話する機会があったのですが、こうした取り組みを通して東大を身近で魅力ある場所と感じてもらい、女性の受験者ひいては在学生を増やしたいと思っています。東大は早く「世界の普通」とならなくてはなりません。

 

 ダイバーシティー推進のために私が一番重要と思ったのは、現役の学生たちがきちんとグローバルスタンダードな感覚を理解してもらえるように学ぶことです。例えば講演会で、講演者として男性研究者ばかりが写っているポスターを目にしたときに、これはおかしいとすぐにわかる感覚がまだ育っていないのです。この感覚を大学の構成員全員で共有できるようにすることが目標ですが、まだ道半ばです。

 

 この感覚の必要性を痛感したのは、任期後半で海外大学の学長や外国企業関係者と接触するようになった頃。東大では学部学生の女性比率が2割程度と話すと、それは病的な状態だとまじめに心配して下さいます。その感覚はまだ日本には存在しません。

 

――学生や教職員のジェンダーバランスを改善するための手段として、クオータ制導入をどのように考えていますか

 

 私自身なるべく積極的に女性の割合を増やしていく必要があると考えて、アファーマティブな施策もどんどん打ち出しました。もっとも、クオータ制の導入については女性教員にもネガティブな意見も多いのです。また東大が女子学生の住まい支援を始めたときにネットで最初に反発したのは東大の男子学生でした。社会全体がどのようにあるべきかを、男子と女子が同じ舞台で議論できる場が不足していることが問題なのです。東大は、中・高と男子校で過ごす学生が非常に多くなっています。その状況は、現代的に見てどうなのか。そこが、大学入学後の教育が必要だと考える所以です。具体的な施策をやりながら、社会全体が納得できる環境を醸成することがクオータ制導入の前提だと思います。

 

――学内で合意が形成された場合の導入は

 

 現状ではあまりにジェンダーバランスが取れていないので、このままでは将来的に、積極的な調整をせざるを得ないと思っています。今の調子で何もしなければ、二、三十年経っても変わらない恐れもあります。

 

政府主導の制度改革に「待った」

 

五神総長は総長選考プロセスに関する検証委員会の報告を受け、会見で「まことに遺憾であり、東京大学の最高責任者として深く反省いたしております」を述べた(撮影・東京大学新聞社)

 

――任期最終年度に総長選考に関する混乱が生じた

 

 私としては、今回の総長選考は、私が諸改革を行った6年間を踏まえて、東大が自律的な経営体としてリーダーを選ぶことができると社会に示すべき大舞台だったと考えていました。学内外の誰もが納得する形で総長が選ばれる姿を高らかに示す。当事者である構成員が主体的に関与するという立派な選考プロセスとして、東大改革の最大の見せ場であるべきでした。ところが、COVID-19の流行も影響していると思いますが、不本意な形になりました。会議後のちょっとした意見交換の機会などがなくなってしまって、気付かないうちに議論を中途半端にしか消化できなかった。そんな中で混乱が起きたということで、大学全体を司る立場として大きな責任を感じています。

 

 選考プロセスを検証する中で、今回のような混乱の際には現総長が助けに入る仕組みを作れば良いのではないかという意見が学内外から結構ありました。しかし、私は、それは良くないことだと思っています。学長が後継者選びに直接関与できないようにするのが、国立大学法人におけるガバナンスの基本、最後の一線だと考えます。

 

 政府主導のガバナンス改革では制度を変えようとしていますが、制度変更だけで良いガバナンスが達成できるほど簡単なことではありません。大学という組織に属している自分たちがどういう責任と権限を持っているのか、全員が自覚した上で総長選考をやらなければ意味がありません。大学が経営体になり、周辺環境も変化する中で、これまでとはレベルの違う高度なことが求められていることは理解してほしいと思います。そもそもどのような経営体になるのか、模索の最中ですので、ガバナンスの議論が先行することは意味がなく、私はいつも違和感を覚えています。公共を担う経営体の姿を示すことこそが今求められている最重要な責務なのです。

 

 経営体としての姿を具体的に示した上で、東大の総長選考についても良いモデルを示せれば、他にも応用が効くかもしれません。たとえば現状では、「現代的な民主的プロセス」が何か分からなくなっています。その要因の一つがSNSです。SNSはプライベートマスメディアとも言われ、個人の意見が全世界に拡散されます。それは少数意見を汲み上げるという重要な機能があります。一方で、自分と違う意見は目に入りにくい、分断を促してしまう仕組みも内包されてしまっている。そうしたプラットフォームでの発信がマスメディアと同じようなパワーを持つようになっています。パブリックマスメディアが商売のためにそうしたプライベートマスメディアを利用することがあることも問題を深刻化しています。学問的にもしっかり考えていかねばならない課題です。

 

残り2年はお待ちかねの研究を

 

――自身の今後の東大への関与の仕方は

 

 定年まであと2年あるので、長らく待たせた私の学生や国内外の研究仲間たちとお預けになっていた研究に取り組みたいです。またグローバル・コモンズ・センターも立ち上げたばかりですから、総長業務で培ったネットワークなども生かし、軌道に乗るようサポートしていこうかと考えています。総長としての判断は総長にしかできないので、藤井新総長にお任せします。もちろんわからないことがあれば私が覚えていることならいつでもお答えしたいと思います。

 

 私は任期中、総長という立場で、あらゆる学問を眺めてみる貴重なチャンスを得ました。疑問に思ったことを専門の先生に聞いたら、先生が即座に返信をくれる。そういう非常にありがたい環境にいたわけで、そこで吸収したものは、皆で共有すべきものですので、広く伝え、還元していかなければいけないとも考えています。

 

「生き金」増やす経営改革断行 五神真総長退任記念インタビュー・前編

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