COLUMN 2015年4月1日

ある東大生の物語。彼はなぜ短歌をよみ始めたのか:東京大学本郷短歌会

 「絶望的に重くて堅い世界の扉をひらく鍵、あるいは呪文、いっそのこと扉ごと吹っ飛ばしてしまうような爆弾がどこかにないものだろうか。一本のギターを手に取ったことで、世界が変わる人もいるだろう。だが、ギターさえ、その手に重すぎる人間はどうしたらいいのだろう。

経験的に私が示せる答えがひとつある。それは短歌を作ってみることだ。」

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 「東京大学本郷短歌会」のサークル紹介文を、機関誌編集長・服部恵典、つまりは僕の物語から始めさせてほしい。

入学が決まった頃の僕はいつも、「僕の人生ってこれだけじゃないはずだ」という、根拠のない自信のような、願望のようなものを抱えていて、しかし結局、並の人間以上の努力はしてこなかった。東大に入るぐらいの勉強は確かにしたけれども、周りがみな東大生なのだから、そんなことは今さら自慢の一つにもなりやしない。  

 

 自分で言うのもなんだが、平凡な悩みだと思う。これはきっと、多かれ少なかれ、誰でも知っている感覚のはずだ。

 最初に引用したのは、僕が尊敬する歌人、穂村弘の『短歌という爆弾』という本の言葉だ。僕は小学1年生のときにクラシックギターを習っていて、もし現在まで続けていたら天才ギタリストだったのかもしれないが、ギターは僕の手には重すぎた。中高6年間吹奏楽部だったのだが、ユーフォニウムも僕の手には重すぎた。絵も描けない、歌も音痴、運動神経も悪い、恋人もいない、延々と語れる趣味もない、もう、僕には何もないんじゃないか、そんなときに目にとまったのが、本郷短歌会のビラだった。  

 

新宿のゴディバの前で捕まった恋人を迎えに行くところ(吉田瑞季)  

 

 当時できたばかりのサークル機関誌『本郷短歌』創刊号に載っている歌らしかった。短歌というと古臭い感じがするけれど、チョコレートの「ゴディバ」が出てくるなんて、ちょっとおしゃれだ。意外と大変な場面なのかもしれないのに力が抜けてる感じが、大学生っぽいかもしれない。「恋人を迎えに行くところ」も、よく数えたら七・七の14音で、なんかすごい。

 短歌が、僕の世界の扉の鍵だなんて、本気で思っていたわけではないし、今も本気で思っているわけではない。それでも、やってみたら、結構しっくりきた。

 

言い訳はしませんという言い訳はしません ぼくらはトイザらスキッズ(服部恵典)

 

 顔がないぼくらを乗せてスタートがみな同じなのに人生ゲーム

2が一番強いゲームもあるのだしキッチンマットで目覚めてもいい

 

 「僕の人生ってこれだけじゃないはずだ」という漠然とした不安のようなものが、僕を離れて歌になって、僕ではない人の気持ちのようになって、誰かの胸を叩き、共感してくれたり、批判してくれたり、自分が思ってもみなかった読みをしてくれたりする。それも、ただ五七五七七の三十一文字というルールに乗せるだけで(小説に挑戦したことがある人は分かると思うが、小説はまず、書き終えることが大変なのだ)。何も頑張れなかった僕でもこれなら続けられるかもしれない、そう思った。

 結局、短歌を始めてもう4年目になる。とうとう、機関誌の編集長にまでなってしまった。この3年間で、僕の歌を読んでくれた人がTwitterに感想を書いてくれたり、プロの歌人が雑誌や新聞で引用してくださったりもした。そんなときはもう、たまらなく嬉しい。

 僕が入るまでは月に1回の歌会だけが基本的な活動内容だったが、最近は駒場で月に2回、本郷で月に1回の歌会と、不定期の歌集勉強会が開かれている。どれも参加不参加は自由だ。ちなみに、4月の新歓歌会は3回とも駒場キャンパスで、7日(火)、15日(水)、23日(木)。活動が少なくて寂しいと思う人もいるかもしれないが、基本的に一年中何かしらの形で機関誌の作業があるので、編集委員になれば充実した活動ができる。  

 

 歌会によく来る人からほとんど現れない人まで様々だが、今年の3月にできたばかりの『本郷短歌』第4号に参加してくれた人は16人。サークル全体でいうと、20人は超えている。そのほとんどが、大学から短歌を始めた人だ。春や夏には、早稲田や京大、北大など全国の短歌サークルの人たちと合同合宿を開いているから、知り合いはたくさんできる(夏には本郷短歌会だけの合宿も開いている)。

 短歌なんてふだん目にしないから、きっとわからないことばかりだと思う。だから、サークルオリエンテーションの日に162教室に来るのでも、歌会に来るのでもなんでもいいから、とりあえず、この扉を叩いてほしい。持ち物は君の言葉だけ。

僕の物語はここで終わって、ここからは君の物語だ。

靴紐を結ぶべく身を屈めれば全ての場所がスタートライン(山田航・歌人)

連絡先  新歓代表・柳瀬大輝(hontan.shinkan2015@gmail.com

ブログ  http://hontansince2006.blog76.fc2.com/

Twitter @UT_tanka

(文責:服部恵典、編集:沢津橋紀洋) サークルや部活動について、東京大学新聞オンラインで紹介したい方は digital@utnp.org までご連絡ください。

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