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2017年2月7日

東大女子の座談会 ―私たちの悩みと理想の働き方―

 東大生の女性率は2016年5月現在、20%に満たない。理系となるとさらに少なく、工学部は10%、理学部は13%だ。東大の女子学生は「学業優秀で、将来はバリバリ働くビジネスパーソンや研究者」というレッテルを貼られがちだが、実際にはどのような生活をおくり、どのような困難を抱えているのだろうか。

 

 

 今回は、弊社主催のプログラミングコンテスト「東大ガールズハッカソン」に関わった理系や元理系の東大女子4人が集まり、協賛企業である日本ビジネスシステムズ副社長の牧田和也さんと、東大OGでHIKARI Lab代表の清水あやこさんをゲストに迎え、座談会を行った。

 

・東大理系女子の悩み

・エンジニアという職業とジェンダー

・理想の働き方と進路

 

 話の中心になったのはこの3つのテーマだ。東京大学が行った「第65回学生生活実態調査」では「将来の進路や生き方」について、男子の38.2%・女子50.2%が「よく悩む」と回答している。女子学生のほうが将来に対する不安を抱えやすいようだが、その理由は何なのだろうか。

 日本ビジネスシステムズ社内のレストラン、Lucy’s CAFE & DININGにて、季節の料理に舌鼓を打ちながら進められた座談会は、和やかな雰囲気ながらも鋭い意見が飛び交う話し合いとなった。

(企画:久野美菜子、文・写真:須田英太郎、竹田椋太)

 

 

参加者


 磯田歩美(イソダ・アユミ)

 工学部精密工学科3年生。大学院進学希望。

 廣瀬遥(ヒロセ・ハルカ)

 工学部システム創成学科4年生。大学院学際情報学府に進学予定。

 董思碧(トウノ・オモエ)

 工学部化学生命工学科を卒業後、文転して大学院経済学研究科で中国経済を学ぶ。春に就職予定の修士2年生。

 清水あやこ(シミズ・アヤコ)

 株式会社HIKARI Lab代表。上智大学国際教養学部卒業、外資系証券会社勤務後、東京大学大学院臨床心理学コース修士課程修了。

 牧田和也(マキタ・カズヤ)

 日本ビジネスシステムズ株式会社 取締役副社長。社会システムデザインセンターセンター長。

 久野美菜子(クノ・ミナコ)*ファシリテーター

 農学部応用生命科学課程卒業後、大学院学際情報学府に進学。本紙編集部員。修士1年生。

 

 

アプリづくりで見えた東大女子の悩み


 久野

 今回お越しいただいた磯田さん、廣瀬さん、董さんは、昨年12月に行った第1回東大ガールズハッカソンに参加してくれた皆さんです。東大女子向けのアプリ作りコンテストだったのですが、どんなアプリを作ったんですか?

 廣瀬

 私のチームは一日の活動記録をもとに、その日のお勧めの体操を教えてくれるアプリを作りました。私たちは、理系の4年生3人のチームだったので、自分たちのような東大理系女子をターゲットにしたアプリを作ろうと思いました。

 班員は、今回の東大ガールズハッカソンで初めて知り合ったメンバーだったんですが、普段の生活習慣とか、困っていることとかはとても似通っていて、アプリのユーザーがどんな人なのかを考えながら、みんなで「これって自分だよね」って言い合っていました。

 久野

 私も学部時代は理系だったので分かる気がします。東大理系女子が困っていることってどんなこと?

 廣瀬

 まずは女子が少ないことですね。東大工学部は女子率が1割程度で、周りに女子がいないから、食事にもなかなか一緒に行けない。横のつながりが欲しいです。あとは、研究室にこもって研究しているので、運動不足とか肩こりとかが気になります。

 久野

 昼ごはんも夜ごはんも研究室で取ることが多いですよね。

 牧田

 アプリを作るときにユーザーのペルソナ(想定される人格やライフスタイルなど)を最初に作るのはとても重要ですね。理系男性よりも理系女性に特徴的なことって何ですか?

 廣瀬

 女子は男子より健康や見た目に気を使うと思います。口には出さなくても、夜10時まで研究室にいるのは健康や美容のために良くないって、みんな思っているんじゃないでしょうか。

 磯田

 私は工学部の中でも機械系の特に女の子が少ない学科なので、女の子と一度も会わない日もあって、そういう日はとてもしょんぼりします。女子校育ちだということもあって、周りに女の子がいることが心の支えなんです。世界観を共有しやすいので。

 清水

 そんなに女子が少ないんですね。私のいた教育学研究科の臨床心理学コースは女子学生ばかりだったから、そんな風に寂しく感じたことはなかったです。

 磯田

 女の子ばかりのコミュニティーと、男の子ばかりのコミュニティーと、両方いるコミュニティーとでは、雰囲気が全然違いますよね。男の子ばかりだと息苦しいとまでは言わないけど、話題を選びづらかったり、話すときに気を使わなきゃいけなかったりします。

 牧田

 それはストレスだね。董さんは?

 董

 私は少し逆で、今回の東大ガールズハッカソンに参加して、初めは女性ばかりだとやりづらいなと感じました。学部時代は工学部で、女性は少なかったし、高校も私が入る3年前まで男子校だったので、男子の比率が高かったんです。それもあってか、男性が相手の方が、本音ベースで話せるような気がします。

 牧田

 異なる環境にいると、感じ方も変わるのかもしれませんね。うちのコールセンターで働いていた男性スタッフは、職場に女性が多いので、女性相手の方が話しやすくなったと言っていました。経営者目線の話になりますけど、それぞれの人が自分の能力を発揮できるような環境を作るのが大事ですよね。

 

 

 

プログラミングは男性のイメージ?


 久野

 ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で星野源さんが演じていた津崎平匡さんもシステムエンジニアでしたが、彼の職場も男性ばかりで、徹夜続きであまり家に帰れないという描写がありました。エンジニアは男性の職業みたいなイメージが流布していますよね。

 牧田

 昔は重たい電源装置を運ばなきゃいけなかったりもしたけど、今はほとんど指先の仕事です。徹夜しないと納期に間に合わないような働き方は品質が落ちるため、敬遠されています。昔はシステムがちゃんと動くかどうかには、不確定要素が多くて、神頼みの部分がありました。今でもその名残でシステム部に神棚がある会社は多いですけどね(笑)。

 今は、プログラムを一から作成しなくても、プログラムのキットを組み合わせて様々な機能を作ることができるので不確定要素が減っています。そういったプログラムを実装したりテストしたりする工程は、昔に比べて労力が減っていて、それよりデザインとかシナリオ作りの方が大事になってきている。つまり皆さんがハッカソンでやったような、ユーザーのペルソナを考えて、彼らが何に困っているからどんなサービスを提供するのかを考える仕事です。今はそういった創造性を要求される仕事の方が多いから、エンジニア職は多様な人材がそれぞれの働き方で活躍できる仕事だと思いますよ。

 

 

 董

 学部のときに受けた情報の授業でプログラミングをしましたが、コードの入力画面って無機質な文字の羅列でつまらないですよね。そういうところを毛嫌いする女性は多いかもしれません。でも、ウェブデザインみたいな仕事は女性にも好まれそうですよね。メイクだとか洋服だとか、普段からデザインについて考えているから、女性の方が向いているかも。

 久野

 分かります(笑)。たまに男性が作った女性向けサイトとかで、変な女性イメージが反映されたデザインのことがありますよね。ハートばっかりですごくキラキラみたいな。ピンクでも可愛いピンクと、嫌なピンクとがあるじゃないですか。

 董

 シンプルな中のワンポイントの可愛さとか。そういうセンスは女性の方が持っていたりするかもしれませんね。

 牧田

 この間、医療のサービスを作ったときに、たまたま人員の都合で女性だけのチームになったんです。そのときの画面デザインやストーリー、使い方がとても洗練されていて、男性がいないほうが余程いいなと思ったことがありました(笑)。

 うちには女性役員が1人いて、部長職には女性が4人、会社全体の女性率は30%くらい。女性だから特別視するようなことはないですが、もっと彼女たちが自分の力を発揮できるのではないかという気持ちはあります。啓蒙活動や、アンケート、女性だけでの話し合い、会社に提言してもらう取り組みなどを、その女性役員が中心になって進めています。

 

 

東大女子は自信がない?


 久野

 女性が積極的に活躍できる場があるのは素敵ですね。ただ東大の女の子の多くは、男の子と同じようなやり方で頑張らなきゃいけないと思っている人が多いような気がします。高校生のときにはテストの成績っていう物差しがあって、その評価基準で男の子と競い合ってきたわけですよね。大学に入ってからは、本当は自分で新しい物差しを模索しなきゃいけないのに、今まで男性社会で重要だとされてきた物差しを、無理に当てはめようとしていました

 今回あえて女子限定のハッカソンを開催し、女子ならではの視点や発想を目の当たりにしたことで「男の子と同じようなやり方で頑張らなくてもいいんだ」と気が付きました。

 清水

 私は他大の学部を卒業して、外資企業で働いてから東大の大学院に来たのだけど、東大の女子学生はすごく能力が高くて、東大だから得られるものもたくさんあるのに、自信がついてこなかったり、いろいろなしがらみを感じたりして、それを掴めないでいる人が結構いる気がします。

 牧田

 男性社会からなんとなく感じる抑圧に馴染んでしまって、意識しなくてもいいところで委縮している可能性はありますよね。それで自信を失ってしまって、自分の中から新しい価値を作り出すような可能性を閉ざしてしまっているのかもしれません。教授や、会社の上司がほとんど女性だったらと考えると、東大生の価値観はきっと変わりますよ。

 力持ちであるとか、声が大きいとか、徹夜続きで作業できるといった「力」によって進める仕事は、もはやJBSにはありません。まさしく「知」の時代です。また、男性女性にかかわらず、子育てや介護をしたいと考える人が、仕事においてハンデになる時代は終わります。

 清水

 むしろ学生のうちの方が、女性らしさ、男性らしさにこだわっているのかもしれないですね。仕事では、きちんとした会社であれば、実力で評価してくれるところは増えてきていると思う。

 

 

東大女子の働き方


 久野

 清水さんは、おととし主催した東大女子向けのハッカソンが起業のきっかけになったんですよね。

 清水

 そうなんです。もともと臨床心理学をやっていたんですが、心理学の分野はとてもアナログで、プログラミングとかにはあまり縁がありませんでした。

 ハッカソンをきっかけに、オンラインで臨床心理士によるカウンセリングが受けられるサービスや、「SPARX」という気分のコントロール方法を学ぶゲームの販売をするようになりました。「SPARX」は、ニュージーランドのオークランド大学で開発されたゲームで、ユネスコや国連の賞を受賞するなど、ソフトウェア開発などの界隈では有名だったらしいのです。でも文系にどっぷり浸っていた私は、知りもしませんでした。ハッカソンを運営した仲間が教えてくれて、今では日本での販売ライセンスを取得して販売させてもらっています。

 ハッカソンに参加して、プログラミングやソフトウェアに関する抵抗感が減ったおかげで、「SPARX」の日本語版を作ったり、オンラインカウンセリングサービスを作るときに、分からないことも自主的に調べることができました。経験がないと、誰に聞けばいいのか分からないし、聞いても理解できないから。

 

 

 牧田

 これまでも、日本ビジネスシステムズがお手伝いした東大女子向けのハッカソンから、2人の東大生が起業していますね。

 清水

 こうやってハッカソンに参加して、プログラミングが「ワケが分からないもの」から「得意ではないけど仕組みはなんとなく分かるもの」に変わったおかげで、選択肢が大きく広がりました

 久野

 董さんは4年生で春から就職ですが、どんな働き方をしたいんですか?

 董

 学部時代は研究室にこもりっぱなしの生活だったこともあって、就職したらいろんな業界の人と会える仕事がいいと思っていました。周りから刺激を受けやすいタイプなので、優秀な人材が集まる環境にいたいですね。転職も視野に入れています。

 今回、東大ガールズハッカソンに参加したのも、ITの知識やスキルもある程度持っているビジネスパーソンになりたいと思ったからです。自分で全て作るのは無理でも、エンジニアの話が理解できるレベルにはなっておきたいので。

 久野

 廣瀬さんは?

 廣瀬

 私はバリバリ働くより、ワークライフバランスを維持できる職場が良いと思っています。多くの東大生はバリバリ働いて当然と思っているようですが、むしろ東大生であることはワークライフバランスを重視したライフスタイルを選ぶチャンスにも恵まれているということだと思うんです。

 牧田

 大事なことですよね。朝から晩までバリバリ仕事をするのではなく、週のうちの少ない時間でもずっとコンスタントに働いてくれる人はものすごく価値があります。忙しい仕事を2、3年だけやってもらうのではなく、少ない仕事量でも長い期間をかけて関わってもらえるような働き方を、企業としても大事にしていくべきです。

 久野

 そういう意味ではエンジニアっていうのは、結婚して子どもができても、在宅でできる仕事が多い職業ですよね。多様な働き方ができるのは、エンジニアの強みなのかな。

 磯田さんはどんな働き方をしたいですか?

 磯田

 私は修士課程に行く予定なので、就活についてはまだあまり考えていません。結婚したくないと思っていることもあり、趣味に近いものを仕事にして、仕事のために生きていきたいと思っています。大学院ではVRなど、ヒューマンインタフェースについて学び、関連する仕事に就いて、やりたいことに没頭しながら生きていきたいと思っています。

 清水

 起業すればいいんじゃない? 楽しいよ(笑)。

 牧田

 私たち世代のエンジニアは、コンピューターのない時代に生まれて、コンピューターというそれまでなかったものに没頭して仕事してきました。既にある趣味を仕事にして没頭しても良いし、仕事を通して没頭できるものを見つけていくのも良いですね。大切なのは、目標を持つことですから。

 


 

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