INTERVIEW / FEATURE 2015年3月1日

Pepper開発リーダーが語る、プロジェクトマネジメント論

世界初の感情認識パーソナルロボットPepper。今月から開発者向けの販売が検討され、6月以降には一般販売も開始される予定だ。このロボットは、従来のロボットと何が違い、私たちの生活をどのように変えるのか? 最終回となる今回は、実際のプロジェクト運営時のマネジメントについて話を聞いた。

前編:Pepperは”人が必要とする”のではなく、”人を必要とする”ロボットだ

中編:Pepperがルンバに掃除をさせる日は、そう遠くないかもしれない

pepper0228-1.jpg

――簡単に林さんのご経歴を教えていただけますか?

もともとは、大手自動車メーカーに空力エンジニアとして勤め、様々な開発に携わりました。転機になったのは、エンジニアとしてF1のチームに加わったことです。確かに自分の技術力で車の部品を改良することはできましたが、エンジニアひとりの力だけでは勝てないことを実感しました。

3年間チームエンジニアを務めた後、ある領域のエンジニアというスペシャリストの道と、チームを率いるリーダーに近いゼネラリストの道、どちらを歩むのかを考えました。そうした思いもあり、その後、製品企画という部署に異動させてもらいました。そこでは、数百人の開発部隊を率いるプロジェクト運営の方法を学ぶことができました。

2011年からは、弊社グループ代表の孫が開講しているソフトバンクアカデミアに、外部第1期生として入り「孫正義のリーダーシップ」を学びました。その過程でロボット事業のリーダーとしての打診をいただき、学んだ内容を試す良い機会と捉えて入社を決めました。

――もともとロボット開発に興味があったのですか?

「ロボットがやりたくてアカデミアに入った」というわけではありません。ただ、エンジニアの立場から見て、「ロボットはいつか来るだろう」ということは多くの人が感じていたと思います。少なくとも私の目が黒いうちに、ロボット産業は立ち上がると思っていましたし、その後、斜陽産業になることは考えづらかったです。

入社を決めたもうひとつの理由は、孫がリーダーシップ講習をしている際に、「どういう山に登るかを決めなさい」と言っていたことです。できる見通しのつく小さい山に登るのか、困難で見通しもつかないかもしれないけど大きな山に登るのかを考え、少なくともロボットは、登る上で十分に大きな山だと感じました。

また、自分の経験上、他の人が作った道をこなしていくというよりも、道を切り開いていく方が資質に合っていると思い、誰も経験者がいない分野に進むことを決めました。

――ひとつのロボットを開発するという、これだけ大きなプロジェクトを進める上で、気をつけていたことはありますか?

今回のような先が見えないプロジェクトに正解はありません。新大陸を発見したコロンブスも同じだと思いますが、この先が滝なのか、新大陸なのかは、盤石な確証は無い。結局は行ってみないと誰にも分からないのです。今回のようなプロジェクトを進める上でも、最初の方針は「どこからトライしてみましょうか」といった程度の話でしかないわけです。だから、まずは全メンバーに「今回はすべてトライアンドエラーなんだよ、失敗を怖がらないんで良いんだよ」ということが伝わるよう心がけました。

難しいのは、「これくらいの予算と期間で大陸が見つかる」という前提条件の範囲を超えると、みな日々、指数関数的に不安になってしまう点です。社会人経験が長ければ長い人ほど、「失敗をしない方法」を学んでしまっているので、自分なりの「勝てる見込み」がないと、なかなか動けなくなってしまう。

そうした状況下で、少しでも先に進めるよう舵をとること、後ろ向きになりそうなメンバーに前を向いてもらうことが、一番の困難でした。

――具体的にどうやって、メンバーに「前を向いてもらう」よう取り組んだのですか?

まず、「いろいろな人の話を聞くこと」が大切だと思います。通常のプロジェクトであれば、声が大きい人の意見に流されても、振れ幅が大きくないので結果を大きく誤ることはそれほどありません。しかし、今回のような大規模なプロジェクトは違います。振れ幅が大きいので、迷走を生むことになりかねません。

大事なのは、意見を出しきった後、「みんなでやること」だと思います。実際にやってみて手応え感じると、各人がそれなりに腹落ちするんですね。理論上の答えだけで進むと、頭で分かっていても腹落ちしないことが多い。

前例がある場合は諦めがつくんです。「俺、こっちのほうがいいと思っていたけど、今まで既存のやり方でうまくいっているしね」、と。それは既存のやり方を変えられない、イノベーションのジレンマにも結びつきますけどね。今回のように過去の経験がないプロジェクトの場合には、頭の中だけで考えても必ず腹落ちしていない人が出てくる。それを引きずると良い物ができない。

そういった腹落ちしない人たちも含めて、全員を前に進める”ステップ”をひとつずつ探すことが大切だと思います。その”ステップ”は、必ずしも解への最短ルートである必要はありません。みんなが腹落ちすれば、その後の進歩は驚くほど速いからです。そんなテストピースとしての”ステップ”の配置が重要だと思います。

――こういったマネジメント手法は、孫社長から学んだ部分も大きかったのでしょうか?

 

孫が私たちに話す内容は、「高い目標を持ち、妥協しない」というメッセージが多いです。ビジョンで人をひきつけ、非常に短期の日程で、極めて高い目標を実現させる。プロジェクトでも「保守的になるな」と言われます。

一方で「次の一手をどこに置くか」という小さな話を、孫はあまりしません。Pepper開発時に心がけたプロジェクト運営の手法には、どちらかというと、私自身が日本からグローバルで、前例のない開発を多く体験したエンジニアであった影響が大きいと思います。エンジニアが腹落ちしない時の仕事の進み方と、腹落ちした時の仕事の進み方に大きな差があることを実感していたからです。

仕事は、結局その人だけのモチベーションでは動きません、メンバーの中で共通イメージがあるかどうかは重要です。それは言葉や理屈だけではないと思います。

略歴

林要(はやし・かなめ)さん

ソフトバンクロボティクス株式会社プロダクト本部PMO室室長。大手自動車メーカーのエンジニアを経て、2012年4月ソフトバンクに入社。入社以降、Pepperの開発を専任で担っている。

同じ記者の記事

関連記事

合わせて読みたい

INTERVIEW / PROFESSOR 2014年11月14日

「より人間らしく」進化を続けるロボット研究 稲葉雅幸教授インタビュー1

INTERVIEW / PROFESSOR 2014年11月18日

SCHAFT開発とGoogleの買収、ロボットビジネスの今 稲葉雅幸教授インタビュー2

INTERVIEW / FEATURE 2015年02月27日

Pepperは”人が必要とする”のではなく、”人を必要とする”ロボットだ

INTERVIEW / FEATURE 2015年02月28日

Pepperがルンバに掃除をさせる日は、そう遠くないかもしれない

TOPに戻る