COLUMN 2015年12月21日

ロシアの学生は、日本やアメリカをどう見ているのか【連載ロシア留学記4】

質問攻めするロシア人

 ロシア人と学んでいると、日本に関心のある生徒や先生が思った以上に多い。そのため、キャンパスでもカフェでもSNS上でも、ある問題に関する日本の世論、日本の文化や社会などについてしょっちゅう尋ねられるのである。

 日本語、ロシア語、英語、(最近は)トルコ語で記された、ロシアに関連する記事をネットで確認して、予想される質問にある程度準備していても、予想だにしない質問が飛んでくるので、ヒヤッとすることがしばしばある。

 さて、以下は、留学先の日本語学科に所属するロシア人学生とSMS上でなされたやり取りである。それは、私が関わるロシア人とのやり取りでも典型的なものである。本稿と次稿では、このやり取りをご紹介して、それに考察を加える形で筆を進めてゆきたい。

 

日本語学科の学生とレストランにて。特にこの2人に、日本についてよく質問される。
日本語学科の学生とレストランにて。特にこの2人から、日本についてよく質問される。

 

ロシア人学生とのやり取り(前半部)※ロ:ロシア人学生

ロ:ゆうだいさん、こんばんは。日本の政治について聞いてもいいですか?

私:こんばんは。はい、もちろんいいですよ。

ロ:ごめん、ここからはロシア語で。どうして日本はまた沖縄に新しい米軍基地をつくるのを決めたの?

私:それは、中国が強大化しているからだよ。中国の軍事費も増えている。(この答えは良くない。住宅街の隣接する普天間基地があまりに危険なため、代わって辺野古への基地の移転を決めたのだと、ロシア人学生に後になって伝えた)

ロ:日本は同盟国と庇護者をアメリカに求めようと望んでいるの?

私:そうだよ。残念ながら、現時点では日本はアメリカに頼らざるを得ない。

ロ:ヒロシマ、ナガサキのあとでさえ?

私:そうだね・・・。

ロ:で、日本社会はアメリカの影響力についてどう思っているの?

私:実際、多数の日本人はアメリカ支持だね。西側メディアの情報を信頼している日本のマスコミによって、結果的に日本人はアメリカを支持するという側面もあるね。特にウクライナ問題のときはそうだった。

ロ:ロシア人の大多数が全くもって理解に苦しむのは、なぜ日本人は二度も原爆を落としたような国を支持するのかということなの。私は今、日米関係に関する本を読んでいるけれど、完全には理解できない。

私:うん、でも、仮に日本がアメリカに依存するのをやめたとしたら、日本は国際関係の舞台で生きていけるだろうか?

ロ:日本は経済的に強いじゃない?

私:アメリカ人を全く見かけないロシアと違って、残念ながら日本は経済的にもアメリカなしで存在すなんてありえない。日本自体が経済的に強いにせよ。

ロ:それはアメリカに工業製品をたくさん輸出しているせい?

私:主に車だね。(現地生産の件についてここでは言い忘れてしまった)それに、アメリカから膨大な量の食料品を輸入していることもあるね。日本は、君が知っているように、食料や天然資源に乏しい。ちなみに、天然資源は主に中東やオーストラリアに頼っているね。

ロ:日本政府がアメリカを支持するっていうのは理解できるけれど、なぜ日本社会がアメリカを支持しているのか私には分からないわ。それも単に経済的な必要性によるものなの?

私:アメリカは自らの文化を日本に広く普及させることに成功した。中立的に言えばアメリカのソフトパワーというか、否定的に言えばアメリカ文化帝国主義の影響というか。

 

ロシア人の原爆への関心と私の見解と

 上述のように、原爆のくだりは、よく尋ねられる。ソ連時代の反米歴史教育を受けていない学生でも聞いてくる。原爆と対米協調の矛盾など、日本であまり議論の対象とならない話題を、教養層が大真面目に吹っ掛けてくるのである。良い意味で、私たちの固定化された見方を相対化させてくれる。

 尋ねてくる内容が内容なので、私は防戦一方となる。私はロシア語には自信があるが、下手な返答をしてロシア人に誤った情報を流すのを避けるためにも、即答が強いられる状況でもっとまともな返答ができるようになるためにも、語学面でも、それ以外の知識の面でも、さらに努力しないといけない。

 原爆に関しては、毎年の原爆記念式典でも、一応の立場上の「被害者」としての日本が前面に押し出される一方、立場上「加害者」ということになるアメリカの顔は、あまり表には出てこない。 

 原爆の問題は今なおセンシティヴであり、日本にとってよりも、正義のヒーローとして世界に顔向けしたいアメリカにとって、ある意味より厄介な問題だろうと思う。その倫理的問題は、日本人でなくとも、とりわけ、どちらかと言えば反米寄りの政治観をもつ外国人にも取り上げられる。

 「原爆が凄惨な戦争を早期に終結させた。なので、原爆での犠牲者よりはるかに多くの日本兵を殺す必要はなくなった。だから、原爆は良かった」という、その残虐性は度外視して、犠牲者数での単純比較のみに基づく、苦し紛れの答弁のような紋切型の見解しか用意できないアメリカにとって、原爆は正に弁慶の泣き所かもしれない。

 日本の戦後処理をめぐってソ連よりとにかく優位に立つという目的で、アメリカの国力の誇示のため原爆が投下された。現に、ソ連はアメリカの原爆投下に驚愕し、それによって独ソ戦で疲弊しきっていたソ連は対日参戦に早期に踏み切った。このような説もあるが、それは突拍子もない陰謀論のようには必ずしも思えない。

 そのような、理性的選択がもはや合理的選択ではなかったような当時の異常な状況のなかで落とされた二発の原爆を、後世の人間はどう考えるか。

 戦争を実際に知らぬ者の間で、国家のメンツという観点から、「アメリカはとんでもない国だ」「いやいやあれは正義の一撃だ」などという水掛け論的主張がなされることがある。ここは、そうしたことを強調するのをやめて、70年を経た今、国籍や人種を問わずこの歴史を、二度と繰り返してはならぬ悲劇として全人類で共有しようという、よくある立場に私は与する者である。

 しかし実際は、このようなコスモポリタン的見解に、ロシア人が賛成してくれることは皆無ではないにせよ稀である。

 

大学掲示板にでかでかと貼られた「大祖国戦争」(独ソ戦)勝利70周年を記念するポスター。写真右上には「敵は粉砕される。勝利は我々のものである(スターリン)」とある。戦争観は日本とロシアとでは大き く異なる。
大学掲示板にでかでかと貼られた「大祖国戦争」(独ソ戦)勝利70周年を記念するポスター。写真右上には「敵は粉砕される 勝利は我々のものである(スターリン)」とある。第二次大戦観は、日本とロシアとでは大きく異なる。

 

ロシア人の政治的関心

 基本的に、彼らの政治的関心は強い。これは、具体的な根拠のない感覚的な見方だが、あながち間違っていないと思う。少なくとも、最近政治への関心を不器用ながら取り戻しつつある日本人よりも、強い。

 個人的な印象として、内政面では(ほとんどはおどけた形で)政府批判をしても、外政面では自国を批判しないという傾向があるように思える。

 「テレビ教徒」である一般大衆の基本的政治観として、反米というのが一つの軸になっている。はじめから反米というよりは、ロシアは正しいという前提から、結果的に反米となっていると言うのがより正しそうだ。政治的関心は強くても、方向性に問題がある。

 そのような傾向を生み出している根本的要因ではないにせよ、少なくとも促進要因であると思われることがある。それは、昨今のロシアが関与する諸々の国際的問題が先鋭化するなか、国内では政府の統制を受けたマスコミの国家主義的報道に一般大衆が煽動されている。その結果、中立的立場に立った知識人の冷静な意見すらもが「非国民」的とされ、公の場で批判的な意見など到底表明できないムードが漂っているということである。

 昨今のロシア外交に関して政府批判をした大学教員が免職されたと聞いた。ロシアでは、言論の自由に関する規定が紙の上にはあっても実質的には保障されていない。学者に、苦労して積み上げてきたキャリアを棒に振ってまで、あるいは、自身の生命を賭してまで、政府に物申せる勇敢さはない。それが当然だと思う。ロシアに「戦う」学者はいない。

 歴史的に見て、帝政期でも、ソビエト時代でも、知識人が政府の意向に反することを自由に言える空気は、稀にあったにせよ、あまりなかった。現代ロシアも、その流れを汲んでいるように思える。

 もう一つの背景として、私は現時点でロシアにおよそ3か月半いるが、アメリカ人を本当に一人も見ていない。それだけでアメリカとのつながりは非常に希薄だと断言するつもりはないし、現にマクドナルドもスターバックスもケンタッキーも少ないながらあるけれども、状況は明らかに他国とは異なる。少なくともロシアはアメリカのパートナーではない。

 このように政治的関心の強いロシア人を相手にどう対峙するか。私は、いくら個人的にロシアが好きだとしても、政治的な意見の表明を求められた際には彼らに媚びを売るようなたちではない。支持できない点があれば理由も合わせて支持できないときっぱり言う。

 

(文:李優大)

同じ記者の記事

関連記事

合わせて読みたい

COLUMN 2015年10月24日

目標の喪失から中央アジアへ【連載ロシア留学記1】

COLUMN 2016年10月02日

摩天楼の中で、映画プロダクションを学ぶ。【連載:映画留学記2】

COLUMN 2016年05月03日

A Reflection of My First Year in UTokyo

INTERVIEW / FEATURE 2015年07月23日

東大生のクラウドファンディング。海外映画祭への出品を目指して

COLUMN 2017年01月16日

「語るべき物語」を見つける。【連載:映画留学記3】

TOPに戻る