GRADUATE

2019年2月15日

新元号へ「三度目の日本」の創出を 堺屋太一さんインタビュー

 作家の堺屋太一さんが8日、亡くなった。今年1月1日発行号の弊紙では、平成を振り返り次の時代を考えるべく、堺屋さんへのインタビューを掲載していた。堺屋さんのご冥福をお祈りするとともに、インタビューを転載し、改めて堺屋さんの思想を振り返りたい。

 

 「平成」も残すところ3カ月、今年5月には新しい区切りを迎えることになる。新年最初のインタビューは、「団塊の世代」「巨人、大鵬、卵焼き」と数々のキャッチフレーズを打ち出し、官僚として日本をけん引してきた堺屋太一さん。堺屋さんの目に、「平成」が遺したものと日本の未来はどのように映っていたのだろうか。

(取材・田辺達也、撮影・湯澤周平)

 

 

官僚主導が招いた活気なき平成

 

──ずばり、「平成」とはどんな時代だったのでしょう

 「夢ない、欲ない、やる気ない」の「三ない社会」と言えます。バブル期であった昭和末期と比べ、明らかに若者を中心に国民から「意欲」のようなものが失われました。今は「低出産、低起業、低成長」を招き「新しいモノ」が生まれなくなったのです。

 

──堺屋さんは小説『平成三十年』(朝日新聞社)で、執筆当時(1997年ごろ)に予期した数十年後の日本を描きました。出生率や貯蓄率の低下など、細かい数字も含めて多くの描写が現実のものとなりました

 やはり人口減少は何よりも大きな問題です。就職も無難な大企業に潜り込むものになっています。結果招いたのは「安心・安全・清潔・平等・正確」の国、今の日本です。一見プラスのようでも、多様性や意外性が失われては国全体から「楽しみ」がなくなり、息苦しさを増すばかりです。「国民全部を面白がらせる国」を目指すべく、移民の受け入れなどはその観点から大いに進めるべきだと考えます。

 

──こうした事態は、予測できたことでもあるはずです。なぜ放置され続けてしまったのでしょう

 危機感のなさが何よりもまずかった。細かい問題ばかり対処して、根本的な問題に目を向けてこなかったのでしょう。

 

 私は全ての元凶は「官僚主導」にあると思っています。この30年で官僚が目指したこととは、東京一極集中社会の構築・正社員の優遇・持ち家の矮小化・人生設計の硬直化などでしょう。それぞれに長所はあれど、この国から面白みを奪い、多様性を失わせるものばかりです。

 

 そもそも日本の官僚というのは1、2年でポストが変わる。目先の問題にとらわれ、長期的なビジョンが持てないのは当然と言えます。もちろん、国民が彼ら官僚に全てを任せたことにも罪があります。今後国際社会で、敗戦以来政治・経済など全ての面で何一つ構造的な変化がない日本が生き残っていけるか、私には分かりません。

 

──消費税の導入など、経済的な変化も多くみられました

 消費税導入当時、それ自体には賛成していましたが、あまりに細部にこだわり、東京を中心とした制度設計なのはどうしたものでしょう。地方のコンビニエンスストアが消費税を集めても、実際に払うのは東京の本社ですから、税は全て国と東京に流れるわけです。地方の人々が「うちの市に税収を増やそう」と動けるようにした方が良いのではないかと思っています。

 

──堺屋さんから見て、逆にこの30年の変化で予想できなかったこととは何でしょう

 いくらなんでもここまで活気のない国になるとは思わなかったですよ。私は大阪万博(70年)を手掛けた経験がありますが、少し前は曲がりなりにもそんなエネルギーが日本にはあった。『平成三十年』でもカリスマ性ある閣僚が何人か登場しますが、そういう人すら今は出現しません。今後もしばらくは期待できないでしょう。

 

起業精神で探せ日本の可能性

 

──昨年(平成30年)は「明治150年」に当たる年でもありました。そろそろ、大きな変革が見られてもよい頃合いだということですね

 近代に入って以降で日本が大きく変わった瞬間といえば、「強い日本」を作った明治維新、そして「豊かな日本」を作った太平洋戦争後の民主化でしょう。昨年が明治150年だとしたら、終戦の1945年は150年間のちょうど折り返し付近に当たります。今こそ「三度目の日本」を作るときなのではないでしょうか。

 

 新たなエネルギーとして期待しているのは、2025年に開催が予定される大阪万博です。約半世紀前多くの企業の出展を促し、多くの入場者と利益を生み出した前の大阪万博の活気を取り戻し、今後の日本にとって可能性がある分野を見極めてもらいたい。カリスマ性ある指導者の出現も、あり得るかもしれません。

 

──約20年前「平成30年」を予想した堺屋さんは、今度は「新元号20年」をどのように展望していますか

 詳しいことは専門的手法でのシミュレーションを通さないと分かりませんが、人口減少が手の付けられないところまで来ています。東京一極集中の是正にも取り組まなければなりません。私は移民受け入れに大いに賛成します。過去にもかなりの数の外国人を受け入れて同化させた例があります。今後もそれを経て「次世代型日本人」を作らなければならない時代が来ることでしょう。

 

──東大生は、次の時代をどのように生き抜いていく必要がありますか

 とにかく意欲を持ってもらいたい。就職して感じたことや問題意識に沿って新たなチャレンジを続けていく、いわゆる「起業精神」です。LED電球の発明に代表されるように、世界を変える発明は中小企業でもできるのです。

 

 あと、東大生は官僚になる人が多いですが、地方に行くとしたら単身赴任してはいけません(笑)。国を背負う人材が家族とともに過ごさないせいで自分の住む地域の教育水準や世間話が分からない、これでは有効な政策は打てません。東京―地方間格差の是正のためにも、ぜひお願いしますよ。

 

堺屋太一さん(作家)

 60年経済学部卒。通商産業(現・経済産業)省入省後、日本万国博覧会(大阪万博)開催推進などを手掛けた他、経済企画庁長官、先端科学技術研究センター客員教授などを歴任。予測小説の執筆者としても知られる。著書に『団塊の世代』(文春文庫)など。


この記事は、2019年1月1日号に掲載した記事を再編集したものです。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

インタビュー:『平成三十年』、そして新元号へ 「三度目の日本」の創出を 堺屋太一さん
インタビュー:変化を求め模索、今も続く 平成を概観する 飯尾潤教授(政策研究大学院大学)
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