INTERVIEW / OBOG 2018年8月12日

東大卒プロゲーマー・ときどさんインタビュー 信じた道を進め

 ラスベガスで開催された世界最大の格闘ゲーム大会「Evolution 2017(EVO 2017)」で優勝し、各所で話題を呼んだプロゲーマー・ときどさんは、東大の卒業生だ。東大卒という肩書きにとらわれず自分の信じる道を選び、傑出したプロゲーマーとなった。決して平坦ではない道を切り開いてきたときどさんに、自分らしく生きるすべを聞いた。

(取材・佐方奏夜子 撮影・竹内暉英 ※この記事は2015年に行われたインタビューの再掲です)

 

 

ならないと後悔する

 

──東大卒でありながら、なぜプロゲーマーという道を選んだのですか

 ゲームだけで生計を立てられる人の存在を大学院生時代に知ったとき、自分ほどのゲーマーを差し置いて許せないと思ったのが始まりですね。もちろん、東大卒のカードがあるのに不安定な道を選んでいいのかという葛藤もありました。しかし、自分にも絶対なれるはずだ、ならないと後悔すると直感したのです。

 

──プロゲーマーとしての一日のスケジュールは

 どうしても夜型の生活になってしまいますね。昼ごろ起きてジムで体を鍛え、後はゲームの練習に徹します。といっても漫然とプレーするわけではなく、対戦相手の対策を綿密に行うのです。次の試合で当たる相手の動きを動画で見て分析したり、強い人を探して試合を申し込んだり。夜はゲーム仲間と集まって練習、深夜はオンラインで対戦しています。

 

──ゲームにはまったきっかけは

 小学生のころ転校した先でいじめにあい、なかなか友達ができなかったので、いつもいとことゲームをしていたのです。特に格闘ゲームにはまったのは、対戦相手がいるからですね。例えば相撲なら毎回決まり手が違っていて、今日は寄り切りで相手に勝てたとしても、取組のたびに相手は技を変えてくる。相手に合わせ、毎回対策を考える。そのうち、もっと強い別の対戦相手にも勝てるようになる。格闘ゲームの面白さはそこにあると思います。

 

──ゲームで培われた力はどのように役立ちましたか

 意外かもしれませんが、ゲームの経験は東大入試や研究で生かせました。ある程度方針が立ってしまえばおのずと答えが見つかるという点で、勉強や研究は格闘ゲームに似ています。うまくいかなければ駄目な部分を改善し、最終的に良い結果を出す。対戦型ゲームの世界でこのような試行錯誤をするのは当たり前ですが、現実の世界では意外と自分のスタイルを変えない、変えられない人が多いと気付きました。違うやり方を試してみればいいのにどうしてやらないんだろうと、東大在学中はたびたび思っていましたね。

 

──その他、ゲームをやっていて良かったことは

 人間関係を学べたことです。中高生時代、ゲームセンターに行くとそこには大学生や社会人が集まっていました。その人たちと対戦する中で、上下関係を教わりましたね。「あまりなめた口をきくな」と怒られたかと思えば、ご飯をおごってもらうこともあって。中学生から30代くらいの大人まで一緒になって一つのことにのめり込む、それは貴重な経験でした。

 

 

何かに没頭できるか

 

──大学でバイオマテリアルを専攻した理由は

 自分の点数から考えた進振り(当時)の状況と、この分野なら食いっぱぐれないかなという考えから、軽いノリでマテリアル工学科を選びました。当時のマテリアル工学科は、進振りで必要な点数が低い割に就職には強かったんです。後は化学や生物が好きだったので。

 

──ゲームに関連する分野には進みませんでした

 ゲームを作る側に回りたいとは思いませんでしたね。ゲームばかりしていることに後ろめたい気持ちもあったので、ゲームそのものを仕事にする気はありませんでした。ここ数年で多少改善した気もしますが、僕が大学生だったころはゲームに対する社会の目が厳しかったのです。当時はあくまでも趣味の一環としてゲームをしていました。現在でも、ゲームの開発や大会の運営に携わることは考えていません。

 

──学部4年生のときは、ゲームを忘れるほど研究に打ち込みました

 自分の頑張ったことが世の中で役立つ、それがモチベーションになっていました。ゲームで勝つために試行錯誤する過程が研究と似ていたのも面白くて。僕は何かに夢中になると時間に糸目を付けずのめり込むタイプなので、その性格も研究に向いていたのでしょうね。僕の恩師ともいえる博士研究員(当時)の情熱に引き込まれた部分もありました。

 

──修士課程を中退し、進路について悩んだ時期もありました

 僕は大学院入試で失敗してしまったんです。合格はしましたが、席次の都合で希望の研究室に入れませんでした。学部4年生のときに所属していた研究室に残りたかったので、かなり落ち込みましたね。第2、第3希望は考えておらず、そこにしか行きたくなかった。やむを得ず、研究室リストの一番上にあった研究室にしました。教授の氏名が五十音順に並んだリストだったので、本当にいいかげんな選び方です(笑)。

 

 修士課程に入ってからも新しい研究室に適応できず、一人で勝手に以前の研究の続きばかりしていました。大学の門をくぐれない、研究室に足が向かない日々も続きましたね。プロゲーマーとして生きる道があると知ったのは、その苦しい時期のことです。

 

 いよいよ大学院がつまらなくなり、ついに休学してしまいました。自分のやってきたことは何だったんだという気持ちと、せめて親を安心させなければという気持ちのはざまで地方公務員を目指した時期もありました。それでもプロゲーマーになると心のどこかで初めから決めていたのか、地方自治体の最終面接を蹴りプロ入りを決意しました。

 

──好きなことをして生きていくためには、どのような覚悟が必要ですか

 まず、その世界に飛び出していけるほど好きかどうかを自分に問うてみてほしいですね。その判断材料として、自分がどういう人間かを知るべきです。早め早めに自己分析をして、自分が何かに没頭できる人間かどうか判断してください。没頭できることは一種の才能です。その才能を持っている人は、好きなことをして生きていくという道を選んでいいと思います。

 

 

人間は感情で動く

 

──現在の日本に専業のプロゲーマーは数人しかいませんが、ときどさんがそのうちの一人になれた要因は

 他のゲーム好きの人とは覚悟が違うからだと思います。これで一生稼ぐぞという覚悟ですね。もちろん運やタイミングが良かったのも要因ですが。プロゲーマーのやっていることは単なる賞金稼ぎではありません。スポンサーから援助を受けつつ業界を発展させていくのがプロの仕事です。もちろん勝つことも大切ですが、それだけではプロとしても業界としても先がなくなります。魅力的なプレーとは何か深く考える人だけがプロとして生き残れるのでしょう。

 

 僕は純粋にゲームのプレーヤーでいたいと考えています。運営側に回りたいとは思いません。あれこれ手を出すのはファンに対して失礼です。一つのことを突き詰めてやっていく姿勢を見せなければ、誰も応援してくれなくなります。

 

──ゲームの世界で、東大卒であることはどのような意味を持ちますか

 東大の入試では複数の科目が課され、どれもバランス良くこなす必要があります。一つの科目で満点を取っても仕方がありません。僕は多種多様な格闘ゲームで高い戦果を挙げられる「万能型プレーヤー」だといわれています。東大生ならではの、瞬時にポイントをつかみ短期間で成果を収める能力は僕のプレースタイルにも表れていると思います。

 

 でも、それでは盛り上がらないんです。ルールが確立していて結果を出しさえすれば認められる世界では、そうした東大生らしさが役に立つかもしれません。しかし、まだまだ発展の余地がある格闘ゲームの世界では、要領の良さは求められていないのです。プロの目的は業界を活性化させることです。試合に勝つことはそのための手段で、観戦してくれているファンたちに「この人は一味違った発想を持っている」と思わせるような勝ち方をする必要があります。いろいろなジャンルの格闘ゲームで「80点以上」を取ることにかけては、僕の右に出るものはいないでしょう。しかし、それだけでは駄目だと気付いてしまいました。今では要領を度外視した職人のようなプレーヤーを目指しています。

 

──これまでの歩みを振り返った自伝『東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない』が2014年に刊行されましたが、この著書に込めたメッセージとは

 結局のところ、人間とは感情で動くものだと言いたかったのです。東大卒には計画的で用意周到な人間が多いと思われがちですが、みんながみんなそうではありません。中には勢いで物事をやってしまう人間もいるんです。僕がプロゲーマーになったのは、理屈を超える情熱があったからです。一度しかない人生、就活生の皆さんも、自分の信じた道を突き進んでください。

ときどさん (プロゲーマー)

 2009年工学部卒。2010年工学系研究科修士課程中退。同年日本で2人目のプロゲーマーとしてデビュー。海外大会での優勝回数は世界トップクラスを誇る。11年よりTOPANGA所属。

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