COLUMN 2019年11月1日

【地域の顔 本郷編】わだつみのこえ記念館 戦没学生の声を伝える

 

直筆の手記や写真が閲覧できる展示室内。来訪者は学生の足跡をたどる(写真はわだつみのこえ記念館提供)

 

 赤門から歩いて5分。「わだつみのこえ記念館」は、マンションの1階にひっそりとたたずむ。かつてのベストセラーである戦没学生の手記集『きけ わだつみのこえ』に由来し、戦没学生の声を伝えている。

 

 「まずは自分で作品を読んでもらいたいと思っています」と語るのは、運営する認定NPO法人「わだつみのこえ記念館」理事長の渡辺總子さん。同館では、学生が残した戦争の記録を約100点常設展示している。なお、展示作品は『きけ わだつみのこえ』に収録されているとは限らない。戦没学生が戦地から送った手紙やはがき、学生時代の日記、ノート、手紙、歌集、そして遺書などの実物、その書き起こし、書き手の写真と履歴が添えられている。中には、学徒出陣で命を落とした、東京帝国大学(現在の東大)の学生の手記や遺書も。「戦地に行く前に、優秀な学生がどのような思想を持っていたのか学んでもらえると思います」

 

 開館までの道のりは長かった。1949年に『きけ わだつみのこえ』がベストセラーとなった直後をはじめ、記念館設立の動きは何度か高まったものの、いずれも続かなかった。学徒出陣から50年の93年、戦没学生の遺族の高齢化が進み、遺稿の保存が困難となりつつあることを受け、記念館設立へ向けた動きが本格化。戦争体験世代と一回り下の世代が、寄付を募り、遺稿の収集、全国3都市での大規模遺稿展の実施などを重ね、2006年開館した。

 

 同館は12月で開館13年目を迎える。企画展の実施や、岩手県にある北上平和記念展示館への展示パネル貸し出し、遺族からの提供資料の目録作成と活動の幅を広げてきた。大学の授業や団体での訪問も受け入れている。一方で、同館は寄付によって運営されているため、財源に限りがあることや、運営スタッフの高齢化といった課題を抱えている。アーカイブ化した資料をオンライン上で公開することを目標に掲げているが、遺族の許諾を得る必要があるため、進まないのが現状だ。

 

 同館館長であり学芸員の山辺昌彦さんは今後の展望として「戦没学生の所属していた大学との連携も図りたい」と話す。かつて本郷という地で学んだ若者の声が、今、本郷で学ぶ若者へ、本郷で資料を通じて届く。「わだつみのこえ記念館」はそのような対話の場なのだ。


この記事は2019年10月22日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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