スポーツニュース

2022年1月9日

東大からソフトバンクホークスへ! アナリスト齋藤周さんインタビュー

 

 2017年、宮台康平投手(現・ヤクルト)が日本ハムファイターズからドラフト7位で指名を受け、史上6人目の東大出身のプロ野球選手となったことは記憶に新しい。一方、今年は選手ではなくアナリストとしてプロ野球の世界へ飛び込んでいく東大生がいる。齋藤周さん(農・4年)だ。硬式野球部でどのようにデータ分析をしていたのか、今年からソフトバンクホークスで「GM付データ分析担当」として働くことになった経緯を聞いた。(取材・安部道裕)

 

分析対象は「相手」だけではない

 

──なぜアナリストになったのでしょうか

 

 元々はプレーヤーとして硬式野球部に入部したのですが、2年生の時にけがをして学生コーチになりました。しかし、先輩方で学生コーチの方が多くいたので、何か新しいことをやりたいと思いデータ分析を始めました。

 

 また、アナリストという役職があることでチーム内での役割が明確化されるとともに、プレーヤーとしてではなく、この役職を目掛けて入部してくれる人もいるかもしれないと思いアナリストを名乗り始めました。

 

 他にも、ここ数年で野球界にデータ分析の流れが来ていることもあります。他大学がアナリストを置き出していたので、部内で「うちも負けてられない」ということで、自分たちが最上級生になってからデータ分析を専門で行うアナリスト部門を新設しました。データを実際に活用していくというのが、他の大学との差を埋めることになると思っています。

 

──データ分析はどのように行っていたのでしょうか

 

 データにはデジタルなものと、アナログなものの2種類があります。

 

 デジタルなデータの分析というと、例えば「トラックマン」という測定器を使って、投げた球の回転を詳しく解析することをしています。

 

 もちろんアナログなデータの分析もしています。昔からよくやっていることですが、映像で相手投手の癖を目で見て研究したりするのは「アナログ」な分析です。

 

「ラプソード」という機器とその分析結果(写真は硬式野球部提供)

 

──分析結果はどのように試合で使っていたのですか

 

 事前に監督にデータ分析の結果を伝えたり、また試合の中でも監督から相談を頂いたりして、分析結果を戦術に組み込んでいきました。今季の盗塁の多さなどは、データ分析が戦術に用いられた結果が分かりやすく表れたところだと思います。

 

 試合の時は私もベンチに入って、事前に分析していた結果と、当日の相手の作戦、その場の選手の反応を比べていました。そこで「事前の分析では狙い球はこの球種だったけれど、今日の作戦を見る限り、狙い球は別の球種に変えよう」といったことを選手に伝えて、事前の分析結果と当日の相手の出方を「チューニング」していく作業をしていました。

 

──データ分析は練習にも活用していたと聞きました

 

 データを使うメリットは自分の現状や長所、課題がどこにあるかが具体的に分かることだと思います。また自分の課題が具体的に分かると、目標も具体的に決定していくことができます。設定した目標と現状のギャップを埋めていく作業は、トレーニングに詳しい部員や外部から招いたコーチと協力しながら選手にアドバイスしていました。どのような練習をしたら良いかというのを選手に助言するには、人体に関する知識などが多く必要になって難しいところではあります。最初の課題の発見や目標設定というところでデータ分析は一番役に立っていたのかなと思います。

 

 自分の本当の課題はどこにあるのかを発見するというのは、自分のプレーしている感覚だけでは難しいと思います。データを活用して、努力の方向性を合理化することが重要になると考えています。

 

──データ分析を導入する前と後でチームとして変わったことはありますか

 

 まずは、一つ一つの練習に対して、より目的がはっきりしたということです。漠然と日々の練習をこなすのではなく「自分はここが課題だからこういう練習をしよう」などと、一人一人が練習メニューの内容を考えていました。練習への取り組み方は以前よりも良くなったと思います。

 

 戦術面では、例えば守備位置などがそうですが、固定観念にとらわれず、データに基づいて自分たちにとってベストな選択をしようという方向になりました。それで盗塁などが増えたのかなと。攻撃面でもデータによればこの作戦が有効なのだなとか、失敗するリスクが多少あってもリターンが大きい分仕掛ける価値はあるのだなとか、そういった裏付けがあると実行しやすいので、意義は大きかったのかなと思います。

 

齋藤さんの分析した、ストレートのコース別データ(齋藤さんのnoteより)

 

──データ分析の醍醐味(だいごみ)はどういったところにありますか

 

 近年は機器も進化して取れるデータは増えてきました。相手投手の癖の見抜く、など「相手を分析する」というのは野球界に以前からあったと思いますが、最近は相手を分析することに加えて、自分たちの能力を上げるためにデータを使って「自分たちを分析する」ということも始まりました。試合でどうするかだけではなく、選手の能力をどう伸ばしていくかにデータ分析を使うというのが最近のトレンドでもあり面白いところだと思います。

 

ホークスの「世界一」の夢の手伝いを

 

──ソフトバンクホークスで「GM付データ分析担当」になった経緯を教えてください

 

 データ分析の結果などを積極的にSNSやブログなどで発信していたのですが、それがホークスの球団の方の目に留まり、ある日「うちに来ませんか」という電話をいただきました。契約の形は選手に近くて、まず1年間やってみて、そこから契約を更改していく形になります。

 

 もちろん今年はホークスのために働きますが、他にも個人として、ゆくゆくは政治家になりたいという目標があったりします。そういったことを考えたとき、「GM付データ分析担当」としてやっていきつつ、より自分のできることを増やせれば良いなと思い「株式会社アマテクノ」を設立しました。「アマテクノ」としてホークスの仕事を全うしていった上で、オフシーズンとかには少しずつ仕事を増やしていけたらなと思っています。

 

──ホークスでの分析はどのようなことを行いますか

 

 ホークスでは主に選手の育成やチームの編成をする予定です。

 

 選手の育成については、在籍している選手たちは日本トップクラスで、環境的にもいろいろな設備がそろっていて恵まれています。そういった方々を相手に、これまでやってきたことがどのくらい通用するかは分かりませんが、まずは東大野球部で培ってきたものをベースにしつつ、そこに上積みしてやっていけたらなと思います。 

 

 チームの編成について、選手のスカウト活動は、スカウトマンが視察をして評価を下していくというのが主流ですが、そこにデータの裏付けを取って、客観的な視点からチーム編成に携わっていくというプロジェクトを進めています。

 

 「GM付」というのは、ゼネラルマネージャー(GM)の下で、全体をある程度把握しながら育成などに携わっていくということです。GMの仕事を近くで見て、勉強させてもらうという形になります。

 

──最後に意気込みをお願いします

 

 東大の野球部でいろいろな経験をさせていただきました。それを基にプロ野球の世界で、ホークスの「世界一の球団になる」という目標を達成するためのお手伝いができたら良いなと思っています。

 

齋藤周(さいとう・あまね)さん(写真は硬式野球部提供)

 

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