文化

2021年5月30日

【東大CINEMA】『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

 

 1995年放送のTV シリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』から始まり07年に新劇場版として再始動した同シリーズが、四半世紀以上の歴史に幕を下ろした。同シリーズは、14歳の少年碇(いかり)シンジが「エヴァ」と呼ばれる巨大人型兵器のパイロットとして、人類を滅ぼすために次々と現れる「使徒」に立ち向かう物語だ。最終章の本作では、人類の存亡を懸けた最終決戦が描かれる。

 

 同シリーズが主人公シンジの思春期を巡る物語であることはたびたび言及されてきた。母を亡くし自分を捨てた父・碇ゲンドウとの確執を抱えたシンジは、母のような存在といえる葛城ミサトや、同年代のエヴァパイロットである綾波レイ、惣流(そうりゅう)(式波)・アスカ・ラングレーなどと交流しながら、自分に課された期待や試練と向き合っていく。溝部宏二氏は論文「新世紀エヴァンゲリオンにみる思春期課題と精神障害〜14 歳のカルテ〜」(2011)で、同シリーズを「自我が脆弱であるが故に他者との関わりで傷つくことを回避し引き籠る主人公」が、周りの人物との触れ合いを通じ「『個』として存在する自我同一性を確立していく過程」と分析する。林秀樹氏、西野将史氏、藤森旭人氏は論文「漫画『新世紀エヴァンゲリオン』からみる思春期のこころー情緒的ひきこもり状態を呈する思春期男子の精神分析的一考察」(2018)で、シンジが思春期の発達課題である「アイデンティティの獲得 対 アイデンティティの混乱・拡散」に取り組んでいるとした。加えてシンジとその母のクローンであるレイ、父との関係を、思春期におけるエディプス・コンプレックス(フロイトの唱えた精神分析の概念。男児が父を恐れ・憎み、母に愛着を抱く傾向)状態と評している。

 

 本作では「大人になる」というモチーフがたびたび表れる。「エヴァの呪縛」により十数年を経ても少年の姿を保っていたシンジは、その年月の間で成長した中学校の同級生たちと交流する。医者や教師として働いている者、結婚して子をもうけている者もおり、自分の起こした失敗故に心を閉ざし、何もせず周りに心配を掛け続けているシンジとは対照的だ。

 

 また、アスカが過去にシンジに恋心を抱いていたと明かすシーンがある。本シリーズはシンジを巡るラブコメディーのような側面もあり、特にアスカは好意の照れ隠しとして冷たい態度を取るいわゆる「ツンデレ」キャラとして人気を博してきた。その彼女が本作で「私が先に大人になっちゃった」と告げたことは、その恋心が過去の思い出として消化され、アスカというキャラクターの決定的な部分の一つが変質してしまったと解釈することができる。

 

 ラストでは、エヴァや使徒のいなくなった世界に成人した姿のシンジたちが登場し物語は終わる。「僕は僕の落とし前を付けたい」と、自分が滅ぼしかけた世界の新たな創造に乗り出したシンジは、恋心や性への目覚め、親への反抗、自我の揺らぎといった思春期に表れがちな傾向を通過し、自らを受け入れ自分の行動に責任を取れる「大人」になったと言えるだろう。長い間本シリーズを見守ってきた観客はそんなシンジたちの成長に一抹の寂しさを覚えつつも、自分たちも「大人」になれただろうか、と自問することになるのかもしれない。【目】

【記事修正】2021年6月1日14時57分 記事中の図表を挿入しました。

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