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2023年10月7日

インドから始まった休学生活 205年続く実家の染料店を手伝う UT-BASE元共同代表保田さん

(写真は保田さん提供)

 

 近年注目が集まっている東大生の「休学」。半年から1年ほどの長期間大学を離れ、自分のやりたいことに時間を使う学生が増えている。学生団体「UT-BASE」の共同代表を務めた保田優太さん(農・3年)も休学の経験者だ。今回は3年次に1年間休学し、実家である浅草の染料店の経営を手伝った保田さんに、休学の経験や価値観の変化について聞いた。(取材・松崎文香、撮影・安部道裕)

 

自分で染めたシャツを着る保田さん。むらが出る染め方が好みだという

 

余裕がなかったUT-BASE共同代表時代 就活前に休学を決意

 

──(法学部に進学する人が多い)文Ⅰから、農学部に進学したんですね

 ニュースなどを見る中で法律に関心を持ち、文Ⅰに入学しました。でも入学して授業を受けてすぐ「ああ、失敗した」と思いましたね(笑)。もっと現場に近くて、自分の手足を使う分野の方が合っていると悟ったので、進学選択で法学部に進学することは考えませんでした。ひょんなことから農家の方と知り合いになり、個性が強く面白い方達だったことから、農業政策や農村の暮らしに興味を持ち農学部に進学しました。

 

──学生団体UT-BASEの共同代表を約1年務めました

 立ち上げ人である鈴木大雅さんに誘われ、何をやっているのかあまり知らないまま、入学してすぐ参加しました。加入時、UT-BASEは創設2カ月ほどで、学生団体の紹介記事を作成して東大生に発信するのが主な活動でした。僕自身は学部横断型の授業・プログラムや前期教養課程のゼミなどを取材して記事化する活動を1年ほどやり、2年次の夏から約1年間、同期と共同代表を務めました。

 

──3年次のAセメスターから1年間休学しています。休学した理由は何ですか

 かっこいい理由があったわけではないんです(笑)。共同代表の間は常にUT-BASEのことで頭がいっぱいで、自分のことを考える時間がありませんでした。代表を終えたのは3年次の秋で、周囲の人が就職活動を始める一方で、僕自身は「自分の進路や自分について全く考えていなかったのに、今進路を決めるのは無理だ」と感じていました。とにかく1年間ゆっくり考える時間が欲しいと思い、休学を決めました。

 

 

──休学にあたり学年が下がることへの不安はありましたか

 あまり感じませんでした。むしろ、そのまま自分のことを何も知らない状態で進路を決めてしまうことに、抵抗がありましたね。

 

──その後、家業の染料店を手伝うようになったきっかけはなんですか

 休学してまず、インドに行ったんです。それまで海外に行ったことがほとんどなかったので、自分の知らない世界を見てみたいと思ったのですが、1カ所目にインドを選び、大変でした。

 

 世界遺産のアジャンター石窟群やエローラ石窟群が見たくて、おんぼろバスで片道5時間かけ向かったのですが、途中で辛くなってきて……。他の乗客から財布を盗られそうになったり、隣の席の人が「車掌さん、自分の料金はこいつが払います」って指差してきたり。だんだん「せっかく東大に入ったのに、大学を休んで何をやっているんだろう」と思い始めました。その時、もっと身近でできることがあるのでは、と考えて浮かんだのが実家を手伝うことでした。

 

 実家は浅草で205年続く染料や染色道具の販売店なのですが、新型コロナウイルスの影響で経営が傾いていたこともあり、帰国してすぐ「手伝いたい」と伝えました。

 

インドで野犬に追いかけられた直後(写真は保田さん提供)

 

──実家の染料店ではどのような仕事をしていたのですか

 海外に販売の間口を広げる取り組みが主ですね。従来の販売先は着物やのれん、半纏(はんてん)を扱う職人さんなのですが、着物を着る人が少なくなっていることや職人さんの高齢化などが原因で、国内のマーケットが縮小しているという問題がありました。そこでSNSを使って海外に目を向けてみると、意外と海外でも日本の染色をしている人がいたんです。Shopifyというプラットフォームを使って海外むけの通販サイトを作り、染料を使って作品を作る海外のアーティストや日本の伝統文化に関心のある人に向けて、今年の1月に販売を開始しました。現在では数十万円の売り上げがあります。好きなことだけをやるのではなく、掃除や配達などの雑用もしていますよ(笑)。

 

──この秋から復学予定ですが、今後は経営にどのようにかかわっていく予定ですか

 個人むけの海外販売が軌道にのる一方で、大口取引が少ないこと、インバウンドによる需要の活用が課題として見えてきました。現在は、染料を使ったワークショップをするアメリカの企業との取引を模索中です。また、訪日観光客に向けて、日本の伝統的な染料や道具を紹介、体験してもらうワークショップも企画しています。復学後も実家を手伝えたら良いですね。

 

留学生むけに開催したワークショップ(写真は保田さん提供)

 

「自分を追い込みすぎる東大の雰囲気」

 

──休学を経て、考え方に変化はありましたか

 ありました。UT-BASEの代表をやっていたときは、団体のミッションとして「東大生の挑戦・熱中・学びの機会を最大化する」と掲げていたこともあり、東大生に自分が好きなことや楽しめることを見つけて欲しいと思っていました。でも、僕が休学してやった「家業を手伝う」ことは、元々好きだったことでも楽しんでいたことでもなかった。それでも頑張ってみたら結構面白いんですよね。偶然や必要に迫られて始めたことが良い入り口になることもあるので、熱中できるものが見つからなくてもなんでもやってみたらいい、というスタンスに変わりました。

 

 休学するまで苦手だった地味な作業も受け入れられるようになりましたね。海外向けの販売サイト作りの際に、染め物の歴史などを記事化して入れ込んだんです。地味で大変な作業でしたが、その記事が評判を読んで商品が売れるようになりました。地味なことの重要さに気付きましたね。

 

──休学を考えている人にメッセージをお願いします

 進路を考えるために休学しましたが、結局明確な答えは得られませんでした(笑)。それでも将来に生きる気付きがあったと思っています。

 

 東大生はストイックで努力家な人が多い反面、何かに追われたり、周囲の人と自分を比べたりして、辛くなっていることも多いと感じます。今そういうしんどさがあるのなら、一度休学して、落ち着いて考える時間を取るのもいいかもしれません。そうして休学する人が増えることで、自分を追い込みすぎる東大の雰囲気も崩れていかないかな、と。だからみんな休学しちゃえばいいのに、くらいに思っています。

 

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