インタビュー

2017年2月7日

東大中退ラッパーを直撃 「困難迎えれば誰でもヒップホップできる」

 

 パリ生まれ、私立武蔵高校から東大に入学し一貫して音楽活動を続け、昨年9月には『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系列)のゲスト審査員、10月にはチャレンジャーとして出演したダースレイダーさん。日本語ラップ界をけん引する東大中退ラッパーに、ラップとの出会いや学生時代について話を聞いた。

(取材・日隈脩一郎 撮影・竹内暉英)

 

浪人時代の出会い

 

――ラップとの出会いは

 

 浪人したときに、お茶の水の駿台予備校に通ったんだけど、3号館に医学部志望の多浪生「金ちゃん」っていう予備校の主みたいな人がいて(笑)、昼休みは毎日のように屋上にラジカセを持ってきてラップしてたんだよね。それに周りのとがった同級生はみんなラップを聴いててさ。

 

 ある日連れられて、授業サボって朝から渋谷のレコード店に並んだの。「ブッダ・ブランド」と「シャカゾンビ」っていう二つのグループが同日に新譜を出すからって。当時はもうCDが主流だったけど、レコードで出してるのがまたぐっときてね。のめり込み始めたのはそこからだったかな。

 

 最初は聞くだけだったけど、金ちゃんたちがラップを自作していて、格好いいなと思い僕も。日本語ラップの曲を聴きながら歌詞を書き取ることから始めたんだけど、初めのうちは何言ってるかほとんど分からなかったね(笑)。『フリースタイルダンジョン』を立ち上げたジブラと、マミーDっていうラッパーの『末期症状』っていう曲で練習したのを覚えてるね。あの頃はポケベルの留守番サービスをレコーダー代わりに使ってさ。

 

 人前で初めてパフォーマンスをしたのは1997年の3月10日。受験に合格したら来いって金ちゃんに言われていたから、合格を確認してすぐに高円寺のクラブに行って初ライブ。そしたらすごい面白くて。でも入学式まで一切大学の用事に顔を出さなくて、オリ合宿(クラスの宿泊行事)にも行かなかったら、クラスはみんなもう仲良しで道を踏み外しちゃったけど(笑)。浪人時代につるんでいた人以外にも仲間が欲しくて、毎夜クラブに行っては同好の士を見つけて、お金はないから入場から朝まで全部吸収するつもりで聞きながら、有名なラッパーがいれば自作のテープを渡したりしていたね。次第に努力も実って、98年からはMICADELICのメンバーとして活動を始めて、00年には初めての曲をリリースできました。

 

 

入学前から別の道へ

 

――大学生活の思い出は

 

 だからあんまりないというか(笑)。初めてクラスの授業に出たときにはすでにカップルができたりしていて、留年した上級生だと勘違いされ「さん」付けで呼ばれる始末だったね。それでも駒場は家から近かったから通いましたよ。渋谷も近いしね。文Ⅱだったけど数学ができず、歴史が好きだっていうのもあって一応ストレートで、本郷の文学部東洋史学科(当時)に進学しました。駒場の前期教養課程に最長で4年在籍できるって当時知ってたら良かったんだけど、制度のことを何も知らず。

 

 しかも桜井由躬雄(ゆみお)教授(当時)のゼミに入ったのが運の尽きで……(笑)。テーマがインドネシアかどこかだったから、オランダ語が理解できないと文献が読めないということで、「こりゃ駄目だ」ってんで、とうとう大学に行かなくなっちゃった。それでも単位がないまま3年生を終えようとしたときに、ゼミの女の子から連絡があって、ノートとレジュメは全部取ってあるからって言われたから「よし、やってみるか」と思ったんだけど、段ボール6箱分の資料が送られてきたのでもう諦めちゃったね(笑)。土日はライブで、それ以外は曲作りもあったから。それでもいろいろと変わった人がいたし、今ではグローバルに活躍している友達なんかもいて、フェイスブックのおかげもあって交流はあるよ。駒場で受けた佐藤良明教授(当時)の「ポップミュージック史」なんかも「あれ、これ間違ってるけど」とか思いながらも楽しかった。もっと面白い先生の話を聞いておけばよかったなって後悔するときもあるよ。とりあえず、学生の皆さんは、卒業くらいしておいた方がいいとは思います(笑)。

 

違う道を常に模索

 

――順調に音楽活動が続いてくかに見えましたが、困難もあったようですね

 

 04年ころからCDが売れなくなってね。流通の構造などを知ることで制作から販売網に乗せるまで自分たちでできると確信し、自主レーベル(レコード事業)を立ち上げ、そこからは新人のラッパーと自宅の台所で曲作りの日々。インターネットで売り始めたり、フリースタイルバトル(即興ラップバトル)の大会の立ち上げに参加したりもした。

 

 ただ10年には脳梗塞でぶっ倒れちゃってね。それからは自分のことで精いっぱいになってたんだけど、縁があって、流れに身を任せていたら、今はまたこうしてレーベルの代表をやっているというわけです。

 

『ディスク・コレクション ヒップホップ 2001―2010』 シンコーミュージック、税込み2376円

 

――昨年末に『ディスク・コレクションヒップホップ2001―2010』(シンコーミュージック)を出しましたね

 

 前作の『ディスク・コレクションヒップホップ』(シンコーミュージック)の売れ行きが良くてね(笑)。でも、この01年からの10年間は、例えばアメリカのCDショップが大幅に減ったことにも象徴される、CDが最後の輝きを見せた10年間だったといえる。その上スタイルの変化も大きかった。100年後の人が、あるいは今の人が手に取ったときの羅針盤になるようにと思って作りました。

 

 00年代中盤からヒップホップ専門誌が姿を消して、情報が氾濫するインターネットしか頼るものがないという状況になったのが刊行の大きな理由です。将来コンビニの遺跡が発見されて「当時の人はこんなものを食べていたようです!」って診断されるのはある面では正しいけど、それだけじゃないってことを示さなくちゃいけない。冒頭に名盤20選があるから、ぜひそれを見てラップに興味を持ってくれたらうれしいです。

 

――ラップ、あるいは楽曲としてのヒップホップの魅力は何ですか

 

 「視点の変化」だと思います。ラップの曲作りに欠かせない「サンプリング」は、ある楽曲が例えばピアノ、ギター、ドラムで構成されていたらピアノの部分だけを切り取って繰り返す。作者の意図を超えて、新しい価値を生み出すこと。それが楽曲のジャンルとしてのヒップホップの魅力かな。

 

 Kダブシャインという日本のラッパーに「自分が自分である事を誇る」という詞があるけど、誰かが何かを愛することを尊重することも、ヒップホップの良いところだろうね。KRS―Oneというアメリカのラッパーが、「大統領の娘でも、抑圧されそれに怒りを覚えればヒップホップができる」と言ったことがある。例えばオタクと呼ばれる人たちだって、固有の困難にぶつかったときに、それを乗り越えようとする。そういうときに、ヒップホップが生まれるんだ。元々アメリカ国内の黒人とラテン系というマイノリティーが生み出したジャンルだけど、誰だってヒップホップし得るんだよね。

 

――最後に読者にメッセージをお願いします

 

 脳梗塞で倒れた翌年に「3・11」があって、平和に日常が続いていくことは難しいと肌で感じた。実は、右目も一度見えなくなったんです。今は手術で見えるようになったけど、医者からはまたいつ見えなくなってもおかしくないと言われている。それをそのまま受け取って、絶望するのは簡単だけど、何か違うやり方を模索する癖が付くと、案外生きやすい。ヒップホップの精神っていうのは、そういうところにあるんじゃないかな。

 

 僕には「自分にはない選択肢が与えられたら、それを選ぶ」っていう自分ルールがあって「昼ご飯はカレーにしようか、ラーメンにしようか」って迷っているときに人から「トルコ料理」に誘われれば、自分にはなかったアイデアとして採用する。だから2、3年前には全く想像もしてなかったようなところにいることが多い。そういうのは、面白いんじゃないかなと思います。

 

ダースレイダー(本名:和田礼)さん (ラッパー)

 00年文学部中退。自ら楽曲を制作しパフォーマンスを行う一方、レーベルBLACK SWANの代表も務め数々のMCバトルの司会や執筆活動に励むなど、日本語ラップ界に多大な貢献をしている。

 

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この記事は、2017年1月17日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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