インタビュー

2014年9月11日

トップは「自由」と「冒険」がお好き 元財務事務次官・現IIJ社長 勝栄二郎さん

東大を卒業後、大蔵省に入省。2010年から2012年まで財務事務次官を務め、野田内閣が行った「消費税増税法案成立」のキーパーソンといわれた勝栄二郎氏。退官後は”異例の転身”を果たし、日本で最初にインターネットを商用化した創業21年のIT企業、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の代表取締役社長に就任しました。「役人の世界」と「実業の世界」の両方でトップの経験をもつ人は、仕事や人生に対してどんな哲学を持っているのでしょうか。

※このインタビューを企画・執筆した記者は、IIJの広報部で働きながら、現在東京大学大学院情報学環教育部に通っています。このインタビューは、一学生としての興味関心から実施したものであり、PR記事ではありません。

—どうして役人になろうと思われたのですか?

元々役人を志望していたわけではなく、大学4年生の夏の時点では、司法を目指していました。大学生らしく、夏休み遊び呆けるなかで「自分には、公平中立を求められる裁判官よりも、弁護士や検事の方が向いているのかな」と、漠然と思っていました。

そんななか、友達が受験するというので、何となく自分も国家公務員試験を受けてみました。特に対策をしているわけでもなく、試験科目すら知らず、二日酔いで受験した記憶があります。

そして友達に誘われるままに、通産省そして大蔵省の、官庁訪問にも行ってみました。通産省は、ごく普通の丁寧な応対をしてくれました。大蔵省は、想定外でした。当時2年目だった東大OBの方が応対してくれたのですが、仕事とは全然関係のない、文学と歴史の話で盛り上がってしまい、初対面にもかかわらず4時間近く話しこんでしまったんです。「こういう面白い人がいるところなら」ということで、私は大蔵省で働くことにしました。

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—思いも寄らぬ役人という職業、やってみたら意外と向いていた ということでしょうか?

どうでしょうね。一つ言えることは、世間のイメージと違って、役人はとても「自由」なんですよ。

ポストは概ね2年ごとに変わります。もちろん上司も変わります。だから、そんなに上司のことを気にかける必要などありません。若手でも自分がしたいと思った政策を、自由に実現できる環境があります。例えるなら、サムライのような気持ちで、若手は生き生きと働いています。

—でも、2年しかいられない ということは、2年以内に成果をださないといけないってことですよね?

だから最初の2~3ヶ月は、ものすごく勉強して、その分野をマスターしないといけません。結構大変ですよ。関連する本や書類を大量に読み、実務を行い、周囲の意見を聞き・・・すべきことは大量にあります。

役所の仕事は、その分野を知識面でマスターする、学者のような一面と、学んだことを実際の政策に還元して運用する、実務家の面の両方があります。そういう仕事は非常に面白いですよ。

—そうして働き、役人の道を極めた後で、なぜIIJの社長を引き受けようと思われたのですか?

IIJの創業者、鈴木幸一氏とは昔からの知り合いです。お互いに忙しく、年に一度食事をするかどうかという関係がつづいていたのですが、退官後のあるとき、鈴木さんから「IIJに来ないか」と誘われました。私は特にITに詳しいわけではありません。にもかかわらず、これから世の中を変えていくITという新しい世界に飛びこみ、しかも社長業という役割、二つとも経験したことのない新しい人生を歩むというチャンスをもらえたわけです。こういう刺激的なオファーはめったにありませんので、ありがたくお受けしました。

金融機関や公的機関であれば、これから10年後に業界がどうなっているか、そこにいる自分がどういう日々をおくっていくか、だいたい予想がついてしまいます。役所の生活の延長みたいなものです。

しかしIT企業の社長というのは、自分にとってこれまでと全く違う環境です。この業界が10年後どうなっているかということも、誰にも全くわかりません。自分自身の行動と周りの環境の変化によって、未来像ががらりと変わることが、とても魅力的ですね。

—意外と、冒険がお好きですね。そしてチャレンジの動機は、先にそこにいる人自身の魅力 と。

そこまで分析して考えたことはないですけれど、言われてみればそうかもしれないですね。

—社長になられて1年ですが(就任は2013年6月28日)、企業のトップと役所のトップの共通点って、何かありましたか?

トップというのは、機能ではなく「人」なので、その人の個性によってあり方はずいぶん変わります。その人の人生経験や仕事の積み重ねが生かされる仕事である ということは、企業でも役所でも同じです。

—では「トップになりたい」と思っている若者は、どんな経験を積み重ねたらいいですか?

トップになる道はたくさんあります。一つじゃありません。運も大いに関係します。

ただ、一つ言えることは、「逃げない」ことじゃないですかね。課題に対して「うまくこなそう」「軽くすませよう」というのではなく、真面目に丁寧に向き合うことが大切だと思いますよ。

あと、どうやら、トップに立っている人というのは、みなどこかで大きな危機を迎えて、それを自分の決断によって、乗り越えた経験があるようです。

—目の前の課題から逃げないこと。危機を乗り越える経験を持つこと。これはそのまま、サムライの生き様ですね。では、60代になって新たに飛び込むことを決断した、IIJという会社の魅力を教えてください。

役所も自由でしたが、IIJもまた、とても自由な会社ですね。本人の能力があれば、やりたいことを何でもやれる会社で、社員を「大人」として扱う文化はあまり他にはないと思います。社是が「会社は自己実現の場である」って、なかなか言えないでしょう。ITの企業である以上、常に新しいことに取り組み続けることは定めです。社員がやりたいことをやれる文化、そして社員自身にチャレンジしつづけ使命感があるのは、いいことだと思います。

—では最後に、先輩として若い世代の読者にメッセージをお願いします。

せっかくの一度きりの人生ですから、自分を大事にして、周りのことも大事にして、一生懸命、自分自身の人生を生きてほしい と思います。

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文章:三木文乃(東京大学情報学環 教育部1年)

※この記事は、東京大学大学院情報学環教育部の授業の一環で執筆されました。

勝栄二郎(かつ えいじろう)

1950年生まれ。1975年東京大学法学部を卒業し、同年大蔵省に入省。国際金融局為替資金課長、大臣官房長、主計局長を経て、2010年~2012年まで財務事務次官を務める。2013年6月より、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)代表取締役社長 兼 COO。

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