インタビュー

2015年8月7日

「会社で役立つものでなく、根本的な価値を学んでほしい」経団連副会長石原邦夫さん

「多様な人と出会いながら、自分の存在価値について深く掘り下げて考える。そういう大学生活を送って、自分の価値観の根本的な部分を磨いて欲しい」

 

そう語るのは、経団連の副会長を務める石原邦夫さんだ。東京海上日動という大企業を相談役として支える石原さんに、イノベイティブな人材が活躍するために、企業や社会、そして私たち一人ひとりがすべきことを聞いた。

 

ishihara4

 

イノベイティブな企業や人材が持つ2つの価値

 

企業には絶対価値と動的価値があります。絶対価値とは、時代を越えて社会の中に存在する価値で、自分たちが何のために存在しているかという企業の根本的な理念です。それに対して動的価値は、社会に新鮮な気づきを与えるもので、時代によって変わります。今の言葉で言えば「イノベーション」に近いでしょうか。企業は、何のために自分たちが存在しているのかという絶対価値をふまえた上で、時代に応じた動的価値を生み出していかなくてはなりません。

これは、企業だけでなく、個人についても言えます。「自分は何のために存在しているのか」「何をしたいのか」「何が得意なのか」「世の中にどう貢献したいのか」、それが個人の絶対価値で、そこにはその人の人間性が現れてきます。各人が抱いているそのような根源的な価値の上に、時代に則した動的価値を積み上げていくことで、社会全体に新しい価値が生まれてくるんです。

 

 

絶対価値を磨くために

 

――ではそのような自分の根本的な価値を、私たちはどのように見出せばいいのでしょうか

 

大切なのは多様性の中に身をおくことです。人と接し、自分を別の角度から見直すことで、自分に対する自信や価値観の幅を広げていくことが必要です。とくに大学時代は、考えに考え抜いて、自分とは何なのかを見極めていく大切な時間です。友達と付き合ったり、海外に行ったりして、他と接触することで、改めて自分を見直すことができる。時には恋愛も必要でしょう。様々な世界に触れて、いろんな刺激を得ながら、もう一度自分をふりかえる。そういう他者との出会いによって、自分の中の根本的な価値を揺さぶられたりしながら、自分なりに自分の絶対価値を作り上げていくことができます。

私の場合、特に大事だったのは友達との交流だったかもしれません。一人ひとり、個性のある友だちがいて、ああ、こういうのもいいな、ああいうのもいいなと周りの友達たちを見ることで、「じゃあ自分はどうなのか」と自分なりに振り返ることができました。

よく友達と飲みに行っていましたね。面白い人がたくさんいるという点では、東大はきわめて恵まれた環境です。でも、東大生だけじゃなくって、他の大学や外国の大学の人たち、社会人の人たちとも交流を深めると良い。色々なことに挑戦して、自分の周囲にある多様性を、自分で見つけ出してください。

 

ishihara1

 

大学時代は、自分の根本的な存在理由について考えぬいて欲しい

 

よく大学教育の議論などで、大学では会社で役に立つものを教えるべきという意見がありますが、私はそうではなく、学生さんには、より根本的な自己の価値を考えぬいて欲しいと思っています。大学時代は、そういった自分の価値を深く掘り下げることのできる貴重な時期です。大学教育は、自分の絶対価値を磨いたり、大きくしたりする教育が行われればいいなと思いますね。

 

――就職活動が後ろ倒しになりました。研究や卒業論文に没入しづらくなったという不満の声もありますが

 

就活に関する広報活動や内定を遅らせようというのは、大学生活をできるだけ充実したものにしてもらおうという配慮でした。大学生活の早い段階から就職のことばかり考えて、大学の授業や交友関係を疎かにしないで欲しい、というのが今回の変更の本来の狙いだったと思います。現実は変更の本来の目的と違っているかもしれませんし、賛否両論あると思いますけどね。

学生さんにはできるだけ、企業の中では学べない、色々なことを大学で勉強してもらいたい。僕だって保険会社に入ったわけだけど、大学時代に法学部で学んだことが、必ずしも全て保険の仕事に直接役に立っているとは言えない。物事の法学的な考え方、論理のベースとなるようなものを学びましたが、これは仕事に役に立つものというより、より自分の根本的な価値、さっきの絶対価値に近いものだったと言えるのかもしれませんね。

就活の先延ばしは、本来はそういう目的なんです。大学生活の4年間、院にいけば6年やそれ以上、吸収力のあるその貴重な時期は、自分の価値を深く掘り下げるために使って欲しい。そういう経験は、会社に入って後から振り返ると、とても貴重な経験になっているものです。

 

ishihara2

 

ファーストペンギンになれ

 

これは日頃から言っていることですが、毎日同じような背広を着て、同じような昼飯を食って、同じ時間をずっと過ごしている金太郎飴のような状態で、新しい価値を生み出そうなんていうのは土台無理な話です。周囲と調和する「良い子」になる必要はありません。群れずに、突き抜けてください。そのためには、多様性の中に身をおいて、色々な人と会い、色々な経験をするといいでしょう。

そして、“ファーストペンギン”になってください。ペンギンはいくらお腹を空かせていても、誰も海に飛び込まなければ、みんな、ただじっとしているそうです。しかし、群れの中の一匹が海に飛び込んで餌をとると、それを見て他のペンギンが一斉に海に飛び込む。この勇気あるファーストペンギンがいないと群れは動きません。

最初に飛び込んだらシャチに食われるかもしれません。それでも、リスクを恐れず挑戦する、そんなファ―ストペンギンのような人材になってください。

 

後編に続く

(取材・文 須田英太郎、 撮影 沢津橋紀洋)

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit

   
           
                             
TOPに戻る