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2025年7月22日

アジア最大級のスタートアップカンファレンス 舞台裏で活躍する学生たちに迫る

 

 アジア最大級のイノベーション・カンファレンスが、5月8日〜10日に東京ビッグサイトで行われた。その名もSusHi Tech Tokyo 2025。循環型社会を実現していたと言われる江戸にあやかり、サステナブル(Sustainable)な都市の実現をハイテクノロジー(Hi Technology)で目指す人々が東京に集結する。約600社のスタートアップの出展のほかに、国内外のトップランナーが議論するセッションも開かれる。東大の藤井輝夫総長も、東京藝術大学の日比野克彦学長とのトークイベントに登壇した。

 

 オンラインを含めた参加者は5.7万人に上る、この国際イベントの舞台裏で活躍する学生がいる。イベント名の「寿司」にちなみITAMAEと呼ばれる彼らは、当日運営に関わるボランティア・スタッフのほか、独自のコンテンツを企画・運営するコアメンバーとして大会を盛り上げる。ITAMAEコアメンバーの高田花玲さん(工・3年)と大内萌生さん(東京学芸大学・3年)にITAMAEの活動や魅力について話を聞いた。(取材・岡拓杜)

 

ITAMAEコアメンバー
(写真1)ITAMAEコアメンバーの高田さん(左)と大内さん(撮影・岡拓杜)

 

──ITAMAEとは どのような組織ですか

 

高田:ITAMAEは「自分の経験や強みを生かして、何か新しいことに挑戦したい」という熱い思いを持つ学生が中心となり、Tokyo Innovation Baseを舞台に切磋琢磨しながらSusHi Tech Tokyoを活用したグローバルイベントを開催するプロジェクトで、コアメンバーと300名以上の学生ボランティアから構成されています。コアメンバーはオフィシャルサイドイベントや独自コンテンツの企画・運営を担当し、学生ボランティアは当日の受付や案内サポートを担います。私たちコアメンバーは秋ごろの公募、選考を経て、昨年12月からSusHi Tech Tokyo 2025に向けて活動してきました。私たちが2期目で、まだ出来たばかりの組織です。

 

──どのようなきっかけでITAMAEに応募しましたか

 

大内:東京都が企画しているTIB JAMという起業に関心を持つ学生コミュニティーがきっかけでした。私は起業やスタートアップに最初から関心があったわけではないのですが、知人からの紹介でTIB JAMのイベントに参加するようになって、起業家の世界も面白いなと感じるようになりました。それで起業ではなく就職を選ぶ人にとってもアントレプレナーシップ(起業家精神)は必要だと自分事として感じるようにもなったのです。それこそ1年前までSusHi Techの存在すら知らなかった私ですが、TIB JAMと同じく東京都が企画しているということもあって、ITAMAEプロジェクトに自然と目が留まりました。

 

高田:私は当日の学生ボランティアを統括するボランティア・リーダーとして昨年のSusHi Techにも参加していました。ITAMAEとしてより大きなコンテンツを実現できるはずとの期待や、より多くの学生にITAMAEプロジェクトを届けたいとの思いから、企画段階から関われるコアメンバーに応募しました。

 

大内:就活が一段落して何かプロジェクトに関わってみたいと思って応募した人から、すでに起業を考えていてビジネス界で人脈を広げたい人まで、入口はコアメンバーの中でもそれぞれですね。まだ2期目ということもあり、ITAMAEの存在が多様な学生層に知られ始めたばかりかなと思います。

 

──大内さんはどのような企画を担当をしましたか

 

大内:ワークショップを作るチームに所属していました。良くも悪くも何でもありな企画で、自分が参加者だったときに面白いかを意識しながら、チームで意見を出し合いました。SusHi Techは関わる人の数も会場も全てが大規模なイベントなので、実現にあたってはさまざまな関係者との調整も必要になります。そうした点で学生主催のイベントは違った難しさも経験しつつ、最終的には良いワークショップになったのかなと思います。

 

 具体的にはSusHi Tech出展スタートアップへのインタビューワーク、自分だけのおすすめ企業を探し出すリサーチワーク、SusHi Tech参加企業の事業内容を参考にしたアイディエーション(案出し)の3種類のワークショップを開催しました。

 

──当日の反応はどうでしたか

 

大内:インタビューワークが印象に残っているとの感想をたくさんいただきました。ワークショップといえば、その場に座って頭を動かすものが多いと思いますが、足も動かすものは珍しかったのではないでしょうか。それに、スタートアップの出展者に話し掛けるハードルは普段は高いですが、インタビューなら積極的に気になることを聞きやすいので、ワークショップの参加者から良い反応を得られたのだと思います。世界中から約600社のスタートアップが集まるSusHi Techならではの強みを存分に活用できた企画になりました。

 

──高田さんはどのようなことを担当をしましたか

 

高田:全体の統括をしつつ企画コンセプト、タイムラインを策定するロジスティックチームに所属しました。一番思い出に残っているのは「大航海」というテーマでブース(写真2)を作ったことです。世界地図をイメージしたパネルに、2026年までの目標を書いた旗の形をしたシールを来場者に貼ってもらうもので、デザイナーと話し合いながら詳細を詰めていく過程が楽しかったです。3日間で最終的には500枚くらいのシールでパネルがいっぱいになりました。

 

ITAMAEで作成した世界地図
(写真2)世界地図をイメージしたパネルには、来場した子どもたちもさまざまな目標を貼り付けていたという。(写真はITAMAE事務局提供)

 

──難しかったことは何ですか

 

高田:ロジスティックチームとしてブースの区画決めや各ブースのデザインは難しかったです。SusHi Techは規模が大きいので、ITAMAEが担当するパビリオンのイメージが付きづらく、当日の人通りや、学生の参加数などを推測しながら、パビリオンの設計やターゲット決めをしていきました。実際に他のトークイベントにも足を運ぶなどして、椅子の高さやステージ照明の具合などもチームで案を持ち寄りながら手探りで決めていきました。

 

──他にはどのようなチームがありますか

 

高田:トークセッションを企画するチームや、外部のインフルエンサーとコラボしてITAMAEをPRするチーム、目玉企画のピッチコンテスト(事業プランのプレゼンテーションで審査員から評価を受けるコンテスト)を運営するチームがあります。週1回の定例ミーティング以外では各チームでそれぞれの担当となっている企画などの準備を進めていきますが、SusHi Tech開催前の3月と4月に開かれたWASABIはITAMAEコアメンバー全員で企画、運営しました。

 

──WASABIとはどのようなイベントですか

 

高田:起業家やスタートアップ、大企業のリーダーを招いたトークセッションや、グローバルな舞台で活躍する起業家たちのプレゼンを直近で見られるイベントです。WASABIに参加してもらってSusHi Techを知ってもらうという趣旨で開催しています。コアメンバーにとってもSusHi Techの前に実際にイベントでの来場者の反応を見ることができますし、実際の起業家のプレゼンを目の当たりにして刺激を受けたという人は多くいて、SusHi Tech当日のピッチコンテストの企画にも生きてきました。

 

──ITAMAEの目玉企画の一つであるピッチコンテストはどうでしたか

 

大内:「出世魚ピッチ」という名前で学生を対象とした伴走支援型コンテストを企画していました。メンタリングなどで支援しつつ、選抜を通過した人がITAMAEのパビリオンでコンテストに臨むのですが、その過程でWASABI#2でも1人2分ほど自己紹介をする機会を設けました。WASABIでの自己紹介では緊張して所々詰まりながら話していた学生が、SusHi Tech当日には堂々とプレゼンテーションをしている姿に、同世代の本気を見せつけられたような気がします。「出世魚ピッチ」では目の色も違いましたし、WASABIでプレゼンの見本を見せた起業家のような整然とした話しぶりとは違った、学生起業家だからこその熱量が伝わってきました。

 

「出世魚ピッチ」
(写真3)「出世魚ピッチ」でプレゼンをする参加者(写真はITAMAE事務局提供)

 

──SusHi Techを終えて達成感は大きいのでは

 

高田:スタートアップ・カンファレンスとしてはアジア最大級のイベントなので、そこに学生として関われたのはそれだけでも貴重な体験でした。ITAMAEプロジェクトは学生が中心ということで、小池百合子東京都知事がパビリオンに寄ってくれるほどに注目度が高いです。

 

(写真4)当日の写真を振り返る高田さんと大内さん(撮影・岡拓杜)

 

──SusHi Techに関わることで生じた変化はありますか

 

大内:同世代の学生と一つのプロジェクトを半年間も実行する経験は生まれて初めてのことでした。メンバーの中には帰国子女の学生もいるなど生まれ育ってきたバックグラウンドがそれぞれ違って刺激的でしたし、ワークショップで好評を得たことが一つの成功体験になりました。視野も広がり、自分の将来像がつかめた点で、収穫は大きかったなと感じています。

 

高田:3月の合宿で焚き火を囲んで他のメンバーの来歴を聞く機会があったのですが、その中で自分は王道と言われる選択肢、ある意味で敷かれたレールの上を進んできたと認識しました。メンバーの中にはグローバルな人生を歩んできた人もいて、自分も海外での生活や、海外大学への進学に憧れを抱くようになりましたね。アントレプレナーシップと言っても、起業家だけに求められることではなくて、自分でプロジェクトを始めてチームで協力する点はITAMAEでの活動とも重なっていて、その重要性を再認識できたと思います。

 

──どのような人にSusHi Techのコアメンバーへの応募を勧めますか

 

高田:就活を始める前の大学1、2年生におすすめです。自分のキャリアプランを考える上で、スタートアップやベンチャーキャピタルなど、幅広い選択肢を知っておくことは重要だと思います。ITAMAEに入って、実際に海外で起業した人に話を聞いたり、スタートアップに興味がある同世代と交流したりする中で、自分の将来について深く考えられるようになるのではないでしょうか。

 

大内:まず自分事化してプロジェクトに取り組みたい人におすすめです。大きな会場で学生が自由に企画できるので、やりたいことを実現する貴重な機会になると思います。それから、私がそうだったように、スタートアップについて全く知らないという人に勧めたいです。ITAMAEには、より広い層の学生に起業という選択肢を広げることが求められていると思っています。スタートアップに詳しすぎると、ついつい一般の人にはなじみのない用語や知識を前提にコンテンツを作ってしまいがちです。自分なんてと思っている人こそ、偏りがちなチームの色を変えていける存在になれるのではないでしょうか。

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