インタビュー

2014年5月21日

数学科卒、JAZZピアニストの音楽論

「数学者とミュージシャンは似ている」そう話すのは、JAZZピアニストにして数学者、さらにはネット教育事業まで手がける中島さち子さんです。中島さんは、東京大学理学部数学科の卒業生。高校生の時には、数学オリンピックで日本人女性初の金・銀メダルを獲得され、その後ジャズピアニストとしてご活躍されています。そんな中島さんが考える、音楽論、学生へのメッセージをいただきました。

5月29日に東京大学新聞が主催するJAZZトークイベントのゲストインタビューです。

20140425中島さん立ち2.jpgのサムネイル画像ーー中島さんは、ジャズピアニストであり数学者であり…色々な「顔」をお持ちでいらっしゃいますね。

はい。確かに、色々手がけています(笑)。
JAZZを中心とする演奏活動、作曲、数学研究、著作活動などと共に、最近は日本各地で、数学や音楽をテーマにした講演会、ワークショップなどを実施しています。 昨年から講演活動が急激に増えてきており、講演内でピアノを弾かせていただくことも多いです。先日は都内のある男子校に伺い、初めて、トリオバンド演奏と数学の講演を組み合わせたイベントをやりました。とても楽しかったです。
同時に現在、ネット教育研修会社「ネットラーニング」で、ネットやICTを活用した新しい形のグローバル人材育成や実践型創造型教育を模索・開発しています。 色々手がけてはいますが、自分の中では、「音楽、数学、教育」が基本テーマであり、徐々に互いのリンクも深まってきています。

ーーネットラーニングへは、新卒入社だったのですか?
いえ、2年ほど前からです。大学を出た後は、JAZZピアニストとして活動するだけでなく、現代数学を数学者だけのものにしておくのはもったいないというビジョンを共有した数学仲間達と、K会(河合塾)という現代数学を学ぶ場の立ち上げを手がけました。

ーー数学は、小さい頃から得意だったのでしょうか?
小さなころから大好きではありましたが、計算などはよく間違えますね(笑)。今でもかなり危ういです。でも何より、なかなか答えの出ない難しい問題を、長くじっくり考えることが大好きでした。

ーーTEDxTodaiにもご出演されていました。英語もお得意なようです。ご自身は、海外に長く住んでいらした経験が?
いえ、ありません。性格的には「帰国子女ですか?」と言われることがよくありますが…(笑)。
英語を話すことに慣れたのは、数学オリンピック(IMO)で海外に滞在した経験が大きいですね。
数学オリンピックではインドやアルゼンチンに行きました。
現地ではカルチャーショックを受けながらも、そこで会った人々と、数学についてだけではなく、本当に様々なことについて日々語り合いました。

文化や歴史、環境 の違い、価値観の違い、空の色の違い…、
多くの違いと出会う中、つたない英語と、ときに数学や音楽を通して、
本気で色々な方と向き合えた体験は、本当にかけがえのないものでした。
英語が母国語でない者同士、英語の文法が少し崩れてしまっていたとしても、
お互いに必死に伝え合おうという気概があれば通じるのですね。
互いに相手に強い好奇心を持ってコミュニケートすることは、本当に刺激的で楽しかったです。
また、大学卒業後、音楽の道を歩み始めてから「渋さ知らズ」というバンドに入り、2005年には計3ヶ月ほど、ロシア・ヨーロッパツアーに参加しました。
このときも、本当に多種多様な国を訪れ、現地の音楽家やふと出会った方々人とたくさん語り合いました。

ーー渋さ知らズ、というバンドはどのようなバンドなのでしょうか?
非常に自由なバンドで、メンバーも入れ替わり立ち代わり、総勢40人くらいが所属しています。 演奏する音楽は、あらゆるジャンルが「ごちゃまぜ」になったもので、 ある意味で全く無難なまとめられ方をされていない、一期一会のインスピレーション要素が強い音楽舞台です。 ロックもジャズも日本歌謡も白塗りの舞踏も入っている。 その、私たちなりの等身大の音楽や舞踏が、 欧米では「自分自身の声をもった、真摯な日本の音楽」として、とても喜ばれています。 世界中に多くのファンがいる、爆発的なエネルギーを持つバンドです。
なお、日本では、欧米のメロディーを如何にそのままコピーできるかということが美しい、上手だ、とされる傾向があります。でも外国では、如何に「その人の音」や「その国の音」が聞こえてくるかこそが、ミュージシャンには強く求められています。
いつかは、自分自身のトリオでも世界中を訪れ思い切り演奏してみたいですね。

ーー音楽に熱心に取り組み始めたのは、いつ頃からですか?
幼い頃から音楽は大好きでした。中学2年生まではかなり熱中していて、特に作曲が好きでした。
が、徐々に作る曲がマンネリ化してきたことを感じ、あるときスパッと辞めてしいました。
そこからは、「神秘的で面白そう」と魅力を感じた数学にはまり、中高生時代は、数学に、文字通り、没頭しました。
本も大好きでしたね。
そんな中、高校3年生の音楽の授業で少人数のグループになり、皆でクリスマスメドレーの編曲をしました。
そこで再び、音楽の面白さを思い出したのですね。
そして大学に進学した時点で、即興演奏や人生や色々なものが絡み合う「JAZZ」に、ふと惹かれたのです。
JAZZにはそれまで、ほとんど馴染みがなかったのですが。
具体的には、JJW(ビッグバンド)やジャズ研究会に入りました。

ーージャズ研究会は今も健在です。
ジャズ研では、「既存のメロディーのコピー」ではなく、皆で即興セッションをする時間(アドリブ)が楽しかったですね。
即興演奏やいわゆるアドリブでは、その時その時の音、その場ならではの音楽が生み出されます。
一期一会なのです。その臨場感がたまらなく、面白く、深い。
JAZZという音楽には、答えはありません。
色々なものが絡み合う中で、時に音や心の何かがぴたっとはまり、そのときならではの「アンサンブル」が生み出されます。
私は、JAZZを始めたばかりのときは、アンサンブルの感覚がなかなか掴めずにいました。
音楽家の方々の演奏を見ているときにはアンサンブルの醍醐味を強く感じることができるのですが、
学生時代は、自分が弾いているときは、思わず自分の演奏に一生懸命になってしまいがちだったためです。
が、日々悪戦苦闘しているうちに、JAZZを初めて4年ほどたった頃、ステージ上で、
「あ、これがアンサンブルだ」、というぞくぞくする瞬間に少しずつ出会うようになりました。
「作曲」も同時に大好きであり、最近はクラシックにも惹かれています。
最終的には、即興演奏でも、その場での「作曲」として、自分なりの歌がある音楽を目指しています。

ーーJAZZは最近、少しずつ流行り始めていますね?
JAZZはもともと、ごちゃまぜになるところから始まった音楽です。
アフリカの音楽と西洋のものがぶつかったところに出来上がっているものが多いですね。
そういう意味で、今の混沌とした時代に合っているのかもしれませんね。
JAZZは完成系が無い音楽なので、みんなが作り手になれる、という要素も、魅力として受け入れられつつあるのかもしれません。

ーー学生時代は、どのような学生でしたか?
教養学部時代は、文系の講義を多くとりました。国際法や、ロシア文学、中国古典文学まで。
同時にもちろん、大好きな数学にも夢中で、先輩や同級生と自主ゼミを開いたり、カフェなどでどっぷり専門書に浸ったり。
数学の世界は本当に深淵な神秘の世界ですが、徐々に急に霧が晴れてくる感覚を体験する度に本当にぞくぞくしました。
夜になるとJAZZ研やJAZZセッションのできるお店などに出かけ、夜通しピアノを弾いていました。
毎日があっという間で、「一日が足りない!」と思いながら過ごしていました。

ーー大学卒業後、多くの人が「企業に入る」という選択をしますね。中島さんは、「ミュージシャンになる」というご自身の選択を、怖いとは思いませんでしたか?
正直、特には思いませんでした。
数学者とミュージシャンは、似ているところがありますから、私の中では自然な選択でした。
数学にもJAZZにも共通するのは、自分の頭の中で、物事に対する視点を変えていくことが醍醐味だということです。
数学には、何か見方を変えない限り解けない問題も多い。先入観を持っていては解けません。
今までわからなかったもの、乗り越えられない何かを打ち破るときには、どこかで視点を(より本質的な方向へと)変える必要があります。
JAZZでも、「こういうものだ」と思いこんでいる音楽に対して、それをいかに違う方向から見て、
自分に正直な、本当の意味で「新しい音」を探していけるか・・・という試行錯誤の旅路こそが魅力です。

ーー趣味を仕事にすることに、苦しみを感じることはありませんか?
私は、プロとアマ、という区別は本来的には特にないと思っています。
現場でとても厳しいと感じるのは、その人の音があるかということが究極的に常に求められる、ということです。
現場でのこうした厳しさこそが、音楽や人生の一番オモシロいところでもあります。
それが仕事なのか、趣味なのか、という区別は、本質の厳しさではありません。

ーー自分の音を持つためにはどうしたら良いのでしょうか?練習だけでは足りなそうですね。
難しいですね。JAZZの場合はそれが、生きている、ということの1つの表現でもあります。
ですから、なぜ音楽をするのかということや、その音楽に主体的かつ真摯に向き合う、ということが大事でしょうね。
リスナーだとしても、主体的に聞こうとする、聞こえてくる音から何かを感じようとする、という姿勢が大事です。絵を見る感覚と同じで、各自の個人的体験や感覚の集積として、その場の一期一会の音楽が生まれるのだと思います。

ーー私達は、どのように大学の4年間を生きたら良いでしょうか。大学生にメッセージをお願いします。
大学生は、頭が本当に良く動き、感性も豊かな、最高の時期です。「今」という時間は、今しかない。とにかく受け身ではなく、何事にも自分なりに、自ら主体的に挑戦し、多くを学び、多くを感じていってほしいと思います。
失敗を怖れないでほしい。失敗すればするほど学ぶことは多く、未来の成功は増えます。
同時に、アンテナを広げておくことも大事ですね。また、「感性」をもっと育てていこうとする姿勢も大切です。何か壁にぶつかったときも、色々な経験をしている、ということが助けになると思います。

ーーありがとうございました!

中島さち子さん:2002年理学部卒業生 JAZZピアニスト・キーボーディスト・作曲家。自己のバンドやミュージカル、作曲提供など幅広く活躍中。2005年”渋さ知らズ”ロシア・ヨーロッパツアー(3ヶ月)参加。2010年中島さち子TRIO”REJOICE”リリース。各誌で反響を呼ぶ。一方、フェリス女学院高校在学中には国際数学オリンピックで日本人女性初の金・銀メダルを受賞した数学者でもあり、現代数学塾「K会」(河合塾)の立ち上げも手がけた。一女の母。他、旺盛な著作活動、講演活動に加え、ICT教育にも携わる。 ホームページ はこちら

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文:菅野千尋

公益財団法人東京大学新聞社は、今回インタビューにお答え頂いた中島さんと、同じく東大出身で元ソノダバンドの園田涼さんをお招きし、JAZZ講義を主催します!

■日時:5月29日 18時〜19時30分(17時30分開場)
■場所:東京大学本郷キャンパス 山上会館 大会議室

■参加方法:①Facebookページより「参加する」、または②culture(at)utnp.orgまでご連絡ください。(当日参加も可能です!)

お二人には、JAZZの醍醐味や楽しみ方、そして、音楽と深く関わる理由などをお話ししてもらいます。講演内では、お二人オススメのJAZZ名盤もご紹介いただく予定です。東大生はもちろん、他大生や先生方の御参加も、お待ちしております!

(詳細な日時は今後、若干変更される可能性もございます。講義後、場所を変え、お二人にピアノを披露していただくことができるかもしれません!お楽しみに!)

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