学術ニュース

2025年11月26日

mRNAスプライシングに重要なRNA-タンパク質複合体の化学修飾メカニズム解明

 

 琚珏(ジュジュエ)特任助教と富田耕造教授(いずれも東大大学院新領域創成科学研究科)は、mRNAの正確なスプライシングに必須なU6 snRNAのm⁶A修飾を担う酵素MMTL16の反応分子機構を解明した。成果は8月21日付で英科学誌『Nature Communications』に掲載された。

 

 スプライシングは、タンパク質が合成される際に、DNAから転写された前駆体mRNAからタンパク質合成に不要な部位を除去する過程。正確なスプライシングには、RNA-タンパク質複合体のU6 snRNAの特定の塩基にm⁶A修飾と呼ばれる、特定の部位にメチル基が付加されるメチル化修飾を受ける必要がある。

 

 m⁶A修飾は酵素METTL16によって促進されることが知られていた。METTL16はU6 snRNAのメチル化を促進するメチル化触媒活性領域の他に、KA-1ドメインと呼ばれる領域を持ち、KA-1ドメインはm⁶A修飾を促進することが示唆されていたが、その詳細なメカニズムは不明だった。

 

 今回の研究では、U6 snRNA、MMTTL16、そしてU6 snRNAにメチル基を与えるSAMと呼ばれる分子の複合体をX栓結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡解析などを用いて解析し、m⁶A修飾のメカニズムを解析した。その結果、MMTTL16のKA-1ドメインはU6 snRNAを認識して特定の領域に結合し、修飾反応を進める足場として機能し、3つの段階で進行することが分かった。(1)結合初期の段階では、U6 snRNAはMETTL16のメチル化触媒活性領域と離れている。(2)SAMがMETTL16のメチル化触媒活性領域に結合し、その構造が変化してU6 snRNAの修飾部位がメチル化触媒活性領域に近づく。(3)U6 snRNAとMETTL16の相互作用によって、U6 snRNAの修飾部位が触媒活性領域に深く入り込み、効率的にm⁶A修飾が進行する(図)

 

METTL16、SAM、U6 snRNAの複合体構造の模式図(発表資料を基に東京大学新聞社が改変)
METTL16、SAM、U6 snRNAの複合体構造の模式図(発表資料を基に東京大学新聞社が改変)

 

 今回の研究は、METTL16のKA-1ドメインがU6 snRNAを認識し、U6 snRNAの構造変化を通じて効率的にm⁶A修飾を行う機構を持つことを明らかにした。研究では分裂酵母のU6 snRNAとMETTL16が使用されたが、これらの分子は生物間で広く保存され、ヒトとも高い類似性を持つ。今回の研究は、スプライシング異常に関連する疾患のメカニズムの解明や治療法開発に発展すると期待される。

 

論文情報

 

Ju, J., & Tomita, K. (2025). Structures and mechanisms of U6 snRNA m6A modification by METTL16. Nature Communications, 16(1), 7708.

 

DOI: 10.1038/s41467-025-63021-0

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