EVENT 2019年12月9日

WINGS-LST/GPLLI Joint Colloquium 2019 生命科学のミステリーに挑戦 医工薬理の大学院学生が知を結集

 医工薬理の大学院学生が集い異分野との交流を図る、生命科学技術国際卓越大学院(WINGS-LST)のコロキウム(WINGS-LST/GPLLI joint colloquium 2019)が、10月26~27日に開催されました。当日の模様を、実行委員長の渡邊成晃さん(薬学系・博士2年)に寄稿してもらいました。

(寄稿)


 東京大学生命科学技術国際卓越大学院(WINGS-LST)のコロキウムが令和元年(2019年)10月26日(土)12時30分~27日(日)13時30分に、神奈川県中郡大磯町大磯プリンスホテルにて開催された。

 

 東京大学では、高度な専門性を備え、大学や研究機関、民間企業、公的機関等のそれぞれのセクターをけん引する卓越した博士人材「知のプロフェッショナル」の輩出を目的とした5年一貫の教育プログラムとして卓越大学院制度が設けられており、WINGS-LSTはその一つ。

 

 WINGS-LSTは本学の医学系、工学系、薬学系、理学系それぞれの研究科から選抜された大学院学生が150名程度所属し、講義、実習を通して生命科学研究の国際的なリーダーを養成するプログラムであり、特に研究科の枠を超えた学際的な知の結集を図る機会として、所属学生がコロキウムを企画、運営している。本稿ではそのコロキウムを報告する。

 

 

グローバルリーダーを目指して

 

 所属学生は将来国際的に生命科学を先導することが期待されており、本イベントの司会進行、一連の講演は原則英語で行われた。

 

 本年度のコロキウムでは3名の先生が講演をされた。WINGS-LST連携企業より、国内外のアカデミアと製薬企業で研究をされてきた、現アステラス製薬研究本部、Astellas Venture Management LLC.の木村博道氏、産学連携を主導されてきた経営者として、ミラバイオロジクス株式会社社長で元アストラゼネカ社長、前東京大学TR機構特任教授であった加藤益弘氏、学術系で国際的に輝かしい業績を納められている研究者として、シンガポールがん科学研究所、シンガポール国立大学医学部教授の伊藤嘉明氏の3名である。

 

 木村博道氏は現在米国シリコンバレーに在住し、現地でinvestment Directorを勤めている。企業とアカデミア、日本と米国の研究環境の違いについて創薬研究者の立場でお話しになり、とりわけ挑戦的な取り組みに対するスタートアップベンチャーへ投資家の投資意欲の違いについて具体的なデータを示された。この20年間で研究環境だけでなく、生命科学におけるビジネス環境も変化したと木村氏は言う。「製薬会社にいるすべての人々が薬の発見、開発に成功に関わることができるとは限らないということを人々は忘れてしまっているかもしれません。難易度は変わらない。しかし、充実した資金と挑戦可能な環境が整っている点でスタートアップベンチャーの活気があるアメリカは特別期待値が高い。製薬会社はどれほどM&Aで変わったのでしょうか、これからの時代、難治性疾患や希少疾患のようなunmet medical needsは大きな市場に変化していきます。私たちがまだ見ぬ薬を創出するには深く幅広い知識と理解、そして行動に移す勇気が不可欠なのです。」

 続いて、加藤益弘先生がグローバル企業の経営者のご経験に基づき、お話をされた。

 

 「健康におけるイノベーションはとりわけ超高齢化社会の核心的利益です。ここ10年来、基礎科学の進展は医療領域に転換され、重要な進歩を遂げてきました。日本は長いこと新薬開発の国として認知されてきましたが、現実は全く異なります。世界と比べて、イノベーションの利益を享受し損ねているのです。産学はうまく連携していくことが重要です。バイオベンチャーの立ち上げには失敗を恐れない反骨心が大切で、事業を成功させるには他を圧倒的する技術と確実な投資を得ることが鍵です。」 

 

 ベンチャー企業の設立や産学共創について現状と課題について学生達は認識し、自分たちに何ができるかということを真剣に考えさせられた。

 

ミラバイオロジクス株式会社社長、加藤益弘氏

 

 最後に、伊藤嘉明先生が登壇された。同氏はこのコロキウムのために遠路はるばるシンガポールからお越しになった。伊藤先生は京都大学でがんについての研究をされてきたが、2002年に退官を期に、シンガポールに籍を移され、80歳となった今もなお現役で研究を続けられている。  

 

 「2006年、シンガポールで自分を含む海外出身の研究者が、建国の父Lee Kuan Yew氏に招待され、シンガポールでの生命科学研究について議論を行いました。3時間の議論ののち、彼は私のもとにやってきて、私とだけ握手をしたのです。彼はかつての敵国人である日本人を尊敬していました。一方ハワイのホノルルにある戦争博物館で、” Most beautifully executed military operation in history.” という題の壁画を見ました。それは真珠湾攻撃の絵でした。その時私はどう反応すればよいかわかりませんでした。海外では「なぜ、日本人はそうするのか」としばしば聞かれます。それに対して、一人の日本人として日本を代表して答えなければなりません。若い人には海外留学、特に大物のラボに行くことを勧めます。自分の留学したDulbecco先生のところにはいろんな人が訪ねてきて、常に多くの優秀な研究者と会う事ができ、最新の情報と刺激がありました。」と伊藤先生は言う。

 

 「大事なことは、独創的と思われることは必ず孤独なのです。そして、自分たちの仕事が本当に大事と認められるまでは、自分の研究を信じて孤独に負けてはなりません。」

 

 これからの時代、ますます海外に活躍の場を求めていく若手研究者を激励され、心を揺さぶられた。

 

 これらのご講演を通して、学生は普段の研究とは異なる視点で国際的、学術的課題を学ぶことができ、将来のキャリアパスを考える絶好の機会となった。

 

シンガポールがん科学研究所教授、伊藤嘉明氏

 

生命科学の未知課題解決へ向けて
 

 コロキウムでは医、工、薬、理それぞれの研究科に属する異分野の学生が交流し、将来の融合研究の可能性を見いだすために、グループワークが行われた。

 

 本年度のテーマは”Be a challenger -Challenge and Disseminate-“ であり、生命科学分野における「未解決」課題に4-5人を1グループとした26チームが取り組んだ。

 

 この未解決課題は2タイプあり、実現すれば実用的だが、解決の見えない生命科学の「実利的未解決課題」と純粋な興味関心があり解決できれば面白いと考えられる「学術的未解決課題」であった。事前にWINGS-LST教員に募集した課題と、グループ討論の中で浮かび上がってきた課題の双方から選ぶことができた。各グループはまず、お互いの自己紹介ののちに取りまとめ役のリーダーを決め、各々の研究内容、使用している技術について話し合った。

 

 

 その後、生命科学の未知課題について、アイデアを出し合い、さらに教員から掲示された課題を吟味し、取り扱うテーマについて話し合った。そして、決まったテーマについて、どこまで現段階で分かっていて、どこからが未解決なのかという背景を調査し、どのような技術を用いて解決を図ることができるかということを議論した。最終的に背景から解決策までを論理的にホワイトボードにまとめ、2日目に発表を行った。

 

 2日目午前10時30分からポスター発表が行われた。各チームのすべての学生が発表できるよう発表セッションは5回設定された。各セッションは、発表5分、質疑5分、自由討論および評価のための投票時間10分の計20分で構成された。また、すべての発表の審査には教員が割り振られ、学生としっかり討論のできる時間が設けられた。審査基準はアイデアの独創性、提案の論理性、プレゼンテーションのわかりやすさについて各5点ずつ配点があり、さらに英語で発表、討論が行うことができたら教員審査員点として発表討論それぞれに対し、5点ずつ加算された。

 

 

 すべてのチームが発表を終えると、教員の審査点と学生の審査点の各チームの平均が合算され、順位が付けられた。上位5チームには表彰状が贈呈された。中でも最優秀と評価されたチームの提案を以下に掲載する。

 

タイトル:A low invasive sampling technique recruiting molecules in brain parenchyma
発表者:佐野俊春(医学系)、中村乃理子(工学系)、森下和浩(薬学系)、廣木進吾(理学系)

 

 近年医療技術の目覚ましい発展を背景に日本が世界有数の長寿国となった今、「健康長寿」が新たな社会的課題である。なかでも、アルツハイマー病(AD)の患者数は増加傾向にあるが治療薬の多くが臨床試験で脱落し、有効な治療法が存在しない。血液と脳との物質輸送を制限する血液脳関門(BBB)を突破して薬剤を送達することが課題である一方で、AD早期での診断、治療の必要性に注目した。脳内物質を検出するADの早期診断として脳脊髄液あるいは血液を分析する手法が考え得るが、前者は侵襲性が高く、後者は脳内から受動的に漏れ出た物質しか検出できないという二律背反にある。そこで、生体適合性の高分子を用いたウイルスサイズの粒子に糖を結合し、血糖値の制御をすることでBBBを通過し内包した薬剤を脳へ送達する技術(Anraku et al., Nat. Commun., 8, 2017) に着目し、これを応用した脳内物質を能動的に血液中へ汲み出し検出する低侵襲かつ高感度な早期診断法の創製を提案した。

 

左から順に、佐野さん、中村さん、WINGS-LSTのプログラム責任者の斎藤延人教授、森下さん、廣木さん

 

参加学生の声

 

 脳神経系疾患の治療という共通の課題を異なる視点で議論する過程でADの早期診断というニーズに薬剤送達システムの技術が合致し、このアイデアが生まれました。今後のキャリアで学際的な研究をデザインするのに役立つ経験だと思います。(工学系 中村乃理子さん)

 

 今回のワークショップでは生命科学に関する社会問題の解決や新規実験手法の開発を扱い、グループで取り組むことが楽しいだけでなく他班の発表を聞いていても大変興味深い内容で、自分の研究活動の意欲が高まりました。(薬学系 Z.Q さん)

 

実行委員の声

 

 実行委員としてグループワークの構成などを考えることは楽しかった一方、当日上手く回らないこともあり、難しさを感じた2日間でした。より良いコロキウムを行うために実行委員を続けたいと思いますが、参加者側の視点にも立ってみたいと思いました。(医学系 加藤 利樹)

 コロキウムに初参加だったにも関わらず実行委員を務めたので苦労することも多かったですが、異分野の研究者同士の新しい人脈を生み出す架け橋になることに喜びを感じました。こうした人脈やグループワークで生まれたアイデアが、各自の今後の研究に活かされることを期待しています。(理学系 田中 優作)

 

実行委員長より

 全体を通して円滑な運営を行い、充実した2日間となりました。委員長として、委員の意見のとりまとめと意識の鼓舞、講演者をはじめ、事務局および実務教員など関係各所との調整などにおいて指導力、調整能力が試され、鍛えられる良い機会になりました。このような機会を提供していただいたこと、そして関係者の皆様のご協力に感謝申し上げます。(薬学系 渡邊 成晃)

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