学術ニュース

2023年7月27日

あなたとわたしの気持ちを結ぶニューロン

 奥山輝大准教授(東大定量生命科学研究所)、黄子彦さん(博士課程)、ジョンミョンさん(博士課程、共に東大大学院医学系研究科)らは、マウスを用いて他者の怖いという気持ちに共感する脳のはたらきを解明した。成果は現地時間7月3日付の英科学雑誌『Nature Communications』オンライン版に掲載された。

 

 ヒトでもマウスでも、他者が怖いと感じている様子を見ると自身も怖いと感じるようになることが知られている。マウスが怖いと感じているときに示す行動である恐怖行動の一つに、その場でうずくまって震える「すくみ行動」がある。これまでの研究では「すくみ行動」に着目して神経メカニズムを解析。脳領域のうち、痛みの認識に関わる前帯状皮質(ACC)や情動をつかさどる基底外側扁桃体(BLA)の関与が示されてきた。加えて、腹内側前頭前野(vmPFC)は、恐怖への共感に重要である可能性が示唆されており、ACC と BLA から直接の神経入力を受けていることが分かっていた。ただ、「すくみ行動」以外の恐怖行動の神経メカニズムやvmPFCの機能は不明な点が多かった。

 

 奥山准教授らは、マウスの行動を自動分類できるシステムを開発。vmPFCの活動を光の照射で制御したり、ACCやBLAからのvmPFCへの神経入力を操作したりして、マウスが他のマウスの恐怖行動を観察したときの行動を解析した。結果、vmPFCの活動、ACCやBLAからvmPFCへの入力信号が恐怖行動の一つの「逃避行動」の制御に関わることが分かった。

 

 

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他者マウスの恐怖行動への応答と自身のすくみ行動の応答をする細胞群が重なっていた(図は奥山准教授らの発表資料より)

 

 加えて、奥山准教授らはvmPFCの神経細胞自体が持つ情報を調査。恐怖行動の観察中にリアルタイムで神経活動を可視化できる技術などを用いて、自身の行動として出力される情報を持っている神経細胞群がvmPFCにあることが分かった。恐怖行動の際に自身が「すくみ行動」をしているという情報を持つ細胞群は、他のマウスの恐怖行動を見て応答する細胞群と重なっていることも観察。これによって自身の恐怖と他者の恐怖の両方の情報を同時に持つ神経細胞がvmPFCに存在する可能性が示唆された。両方の情報を持つ細胞群の重なりはACCとBLAからのvmPFCへの信号の入力を抑制すると異常が生じ、ACCとBLAからの入力がvmPFCでの自身と他者の感情の情報処理に寄与している可能性も示された。

 

 成果は、日常のコミュニケーションで重要な役割を果たす「共感」の現象への理解に近づく一助となるもの。他者への共感に困難を抱える自閉スペクトラム症の理解への貢献が期待される。

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