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2019年11月12日

校内の人間関係を考慮か 中高一貫校の高校募集停止の原因を探る

 首都圏の中高一貫校の一部で、高校募集を停止する動きが見られる。こうした学校の中には、東大に毎年一定数の合格者を輩出しているところもあり、東大受験者層の変化を引き起こす可能性もある。高校募集停止の背景と影響を考える。

(取材・小田泰成)

 

 

 

中学段階での教育が高度化

 

 高校募集を停止する首都圏の中高一貫校でも、特に驚きを持って受け止められたのが豊島岡女子学園だった。2019年度東大入試では、高校募集を実施していた女子校としては最多の29人の合格者を出している(インターエデュ・ドットコム調べ)。高校入試に臨む女子生徒にとっては、難関女子校の選択肢が狭まることになる。

 

 教育ジャーナリストの小林哲夫さんによれば、一部の中高一貫校が高校募集を停止する根底には20年前の中学受験ブームがある。当時は公立中学への負のイメージが広まっていたこともあり「難関大合格のために中高6年間通じて良い教育を受けさせよう」と考える保護者が増えた。

 

小林 哲夫(こばやし てつお)さん(教育ジャーナリスト)

 

 元々中高一貫校では、中学段階で高校の内容を先取りすることが多かった。早めに高3までの内容を終えれば、余った時間を大学受験対策に充てることができる。普通の公立中学で教育を受けて高校から中高一貫校に入る生徒は、中学からいる生徒の進度に追い付きづらい。

 

 ここ20年で、中高一貫校における中学段階での教育はさらに高度化した。優秀な受験生を呼ぶためには、進学実績を上げる必要があるためだ。結果、高校から入る生徒はますます中学からいる生徒の進度に追い付きづらくなり、中学からいる生徒に比べて進学実績が振るわないこともしばしば見受けられるようになった。「高校から入る生徒の補習ではなく、中学からいる生徒の大学入試対策に時間を割く方が、学校の進学実績改善につながる」。そんな意識が教員の間で働いたのでは、と小林さんは仮説を述べる。

 

 ただし小林さんは「いわゆる最上位校に高校から入る生徒は、中学からいる生徒がどれだけ先に進んでいても追い付く力があることも多い」とも述べる。毎年100人以上の東大合格者を出す開成学園に高校から入学したAさん(文・3年)は「中学からいる生徒と高校からの生徒で、授業の習熟度に差はなかった」と振り返る。同じく開成学園に高校から入学したBさん(文Ⅱ・1)は「高校の内容を早く学び終えることができるのは利点に感じた」という。

 

 

 

 こうした事例を踏まえると、高校募集停止は中学段階での教育の高度化だけでは説明しきれない。他の原因として、中学からいる生徒たちと高校からの生徒たちの間に不和が生じている可能性が考えられる。中学からいる生徒の間で既に構築された人間関係の間に、高校からの生徒が入り込むのは難しい部分があるからだ。

 

 2022年からの高校募集停止を決めた豊島岡女子学園に中高6年間通ったCさん(文Ⅰ・1年)は「部活動が同じでもない限り高校からの生徒とはあまり仲良くならなかった気がする」。小林さんも「高校募集停止には、生徒間の交流の難しさに対応できなかった教員の意見も反映されているかもしれない」と推察する。

 

 もちろん高校からの生徒を募集する利点もある。高校募集を継続している開成学園の柳沢幸雄校長は「中学からいる生徒と高校からの生徒が混ざると、集団全体として経験の多様化がもたらされる」という。

 

柳沢 幸雄(やなぎさわ ゆきお)さん(開成高等学校・中学校 校長)

 

 関西の中高一貫校である西大和学園に高校から入ったDさん(文Ⅰ・1年)は、高校募集の利点を学業面から指摘する。「中学からいる生徒の一部は、大学受験までの期間が長いからか、つい中3までの間にだらけてしまう。中学3年間に真面目に勉強した生徒が高校から入ってくることで危機感が生まれる。逆に高校からの生徒は、中学からいる生徒の進度に追い付こうと向上心を持つ者が多く、互いに刺激になった」

 

名門都立との競争も

 

 高校から生徒を募集することによる影響は、学校の校風などによっても異なるため、一概には語れない。ただ、少なくとも首都圏の中高一貫校に共通するのは、日比谷、西などのいわゆる名門都立高校との差別化を迫られていることだ。

 

 都立高校は私立高校に比べ学費が安い傾向にある。学年全員が一斉に入学するため、中学からいる生徒に後れを取ることもない。日比谷高校出身のEさん(文Ⅲ・1年)は、高校受験で中高一貫校を避けた理由を「中学からいる生徒に勉強で追い付くのは大変そう、学校行事に取り組める時期が短そう、などのイメージが先行していた」と話す。

 

 かつてはあまり積極的に受験生向けの宣伝をしない「横綱相撲」を取っていたという開成学園も、近年は方針を転換している。経済格差のために開成学園への進学を諦めていた生徒に、OBの寄付を原資とした奨学金を給付して勉学の機会を広めている。

 

 小学生の時は海外で過ごし日本での中学受験ができなかった、いわゆる帰国子女を呼び込むために、柳沢校長自らシンガポールなど日本人が多い国・地域を中心に説明会を開く。背景には、従来帰国子女は都立高校を志望する傾向にあり、開成の知名度が低かったという事情もあるという。

 

 歴史をひもとけば、東京都では1960年代に学校群制度が導入され、都内の高校受験生にとって都立高校の選択肢が狭まった。優秀な受験生の多くは都内の私立高校に流れ、東大合格者を多く輩出する高校の顔ぶれも都内の私立高校の比重が高まった。

 

 昨今の高校募集停止も、首都圏の高校受験生にとって選択肢減少を意味する。高校受験生の動向で、東大の合格者層にも変化が生じるかどうかが注目される。


この記事は2019年10月22日号、及び2019年10月29日号から転載した連載記事をまとめたものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

 

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