COLUMN 2019年11月25日

【細胞農業連載】④細胞農業界最大級イベント: New Harvest 2019参加レポートと今後の展望

 理学部生物情報科学科3年の山口尚人です。近年注目を集める「細胞農業」という分野に興味があり、それに関わる様々な活動をしています。今回の「細胞農業」という分野に関する連載で、今まで馴染みのなかった人に興味を持ってもらい、聞いたことあった人にもより深く知ってもらうことができたらと思います。

 

 さて、前回は細胞農業、培養肉の日本での取り組みについて見てきました。今回は、私が参加した細胞農業界最大級イベント、New Harvest 2019の参加レポートと今後の展望をお届けします。前回、細胞農業に取り組むNPO法人として日本細胞農業協会を紹介しました。こちらは2019年の10月に設立されたばかり、活動はこれからというところですが、一方アメリカでは、New Harvestという細胞農業に関わるNPO法人が2004年に設立され現在までにさまざまな活動をしてきています。

 

New Harvestとは?

 

  New Harvestは、アメリカのニューヨークとボストンを拠点とした、細胞農業を推進するNPO団体です。主に、ファンドとしての働きを持っていて、投資家などからお金を集め、細胞農業分野の発展のために産業界や学術界にお金を投資しています。細胞農業は重要な分野でありながら新しく認知度の低い分野であったことから、従来の投資環境では研究費を集めにくく、それを解決しようとして立ち上がったのがNew Harvestです。驚くべきことに2004年に設立され(随分早い!)、細胞農業(cellular agriculture)という言葉を使い始めたのもNew Harvestです。そのため、細胞農業自体はこのNew Harvestと共に発展してきたと言っても過言ではないでしょう。またファンド以外にも、細胞農業業界のコミュニティ形成、正しい情報の提供と教育にも力を注いでいます。資金源は完全に投資家などからの寄付で成り立っており、 現在10人弱の主要メンバーで構成されているようで、フルタイムメンバーは多くないものの、New Harvestを中心としたコミュニティは非常に大きく、研究費支援を受けている研究者など何かしらの形で関わっている人の数を入れると相当な数になると思われます。

 

 そんなNew Harvestが開催するイベントであるNew Harvest Conferenceは、細胞農業業界においては世界最大規模のイベントです。2016年に 第1回 がサンフランシスコで、第2回 はニューヨーク、第3回 と今年の第4回 はボストンのMIT Media Labといった具合にアメリカの主要都市で毎年開催されています。ちなみに、第2回と第3回にはIntegriculture, Incの代表の羽生雄毅さんがスピーカーとして登壇しました。

 

 私は、2019年7月に開催された第4回にShojinmeat Projectの代表として参加し、Shojinmeat Projectの研究や活動内容をまとめたポスター発表をおこないました。

 

写真はNew Harvest 2019より提供(上下)

 

 メインは、2,300人が収容されるホールでのプレゼンテーションやパネルディスカッションでした。プレゼンやパネルディスカッションのタイトルはNew Harvest 2019のサイトのAgendaから、実際の様子はYouTubeのNew Harvestチャンネル から全て見られます(素晴らしい!!)。動画はそのうち消されてしまうとNew Harvest側からの連絡がありましたが(2019年11月現在残っており)、まだ見られるようです。

 

 主な内容としては、細胞農業やその周辺分野に取り組む研究者のプレゼンやポスター発表があり、培養肉の大規模生産のためのバイオリアクター開発、筋繊維を作るための組織工学アプローチの研究、無血清培地開発の研究などがありました。また、細胞農業スタートアップの最新情報のアップデートや社会受容や規制に関するパネルディスカッションなど、企業や政府の関係者など幅広い分野の人が参加していました。

 

 イベントの最後には、New Harvest 2019開催の数日前に発売されたPerfect Day Foods社のアニマルフリーのアイスクリームのオークションが行われました。このアイスは細胞培養技術を用いて、卵や牛乳を使わずに作られたアイスで、発売数日ですぐに完売してしまいました。特別にこのイベント用に残していたアイスがオークション形式で販売され、強者が600ドルで落札し大盛況のうちに幕を閉じました。

 

 New Harvest 2019では世界の細胞農業の盛り上がりと熱気を感じることができ、細胞農業に取り組む人達に直に会い、コミュニティの一員となることの価値の大きさを感じました。New Harvest 2019以外にも、Cultured Meat Symposium, Good Food Conferenceなどアメリカを中心に開催される大規模なカンファレンスに参加するとその熱気を感じることができると思います。

 

情報源は?

 

 上記のようなイベントへ参加し細胞農業に取り組む人々に直接話を聞くのが一番なのは言うまでもありませんが、それ以外でオンラインでの情報収集源の一例を上げておきます。一番のお薦めは、以前にも取り上げましたが、Shojinmeat ProjectのSlideshareです。ここまでまとまっている情報が日本語で一般に公開されていることに感動すら覚えます。それ以外には、特にNew Harvestなどの団体や細胞農業スタートアップのTwitterはかなり重要な情報源になると思いますし、以下のサイトは有益な情報を提供してくれるでしょう。

 

Website

  • NewHarvest’s website
    • Aboutページはとてもよくまとまっています。こちらを翻訳したものが、「5分でわかる細胞農業」で、導入記事としておすすめです。
  • Good Food Institute’s Blog
    • New Harvestと並ぶ存在感の巨大なNPO法人で、メディアとして機能する他、funding programなどもおこなっています。
  • CellAgri’s Blog
    • 細胞農業に関するメディアです。ニュースレターやJob Listingもあります。
  • Robert Yaman’s Blog
    • YouTubeのソフトウェアエンジニアをやめて、Cellular Agricultureの分野へ移った人のブログです。サイトにまとまっている情報が豊富で、会社のリストや特許分析などもあります。
  • Golden
    • 最新情報とスタートアップに強い新時代のWikipedia(TechCrunchの紹介記事)
    • 細胞農業だけでなく、新しいテクノロジー(AI, BioTech, EdTechなど)の情報が詰まっています。
    • これからさらに充実していくことが期待されます。

 

Podcast

  • Cultured Meat and Future Food
    • 培養肉や植物性の肉をはじめとした未来の食に関わる人たちのインタビューpodcast。ホストのAlexさんが良い声でおすすめです。

 

細胞農業の行方は?

 

 さて今後の細胞農業はどのようになっていくのでしょうか?まずは法規制の観点から見ていきます。

 

画像はShojinmeat Project提供。

 

 現在の主要国の法規制を含めた状況は以上のようになっています(あくまで現状であり、様々な見方もあることに注意して下さい)。

 

 アメリカでは政治の問題も絡み少々停滞気味、EUでは培養肉を世界で初めて作った国がオランダであったこともあり、法整備が整い、議論の中心はHACCPなどの食品衛生管理規格の具体的な運用方法や基準値の設定などの各論に移っています。一方で認証手順は長期間を要するため、すぐに市場に出るかはわかりません。香港、中国、日本では現行法規でも培養肉に対応可能であり、安全データや世論次第とみられています。どの国が初めの培養肉市場となるかは、社会受容はもちろん、食肉生産や輸出入の事情にも影響されるため一概には言えませんが、日本が培養肉の初めの市場となる可能性もあります。日本でも細胞農業のルールメイキングに向けた議論は徐々に進んできており、既存の畜産業界や一般消費者など幅広い層を巻き込んで社会全体の最適解を探っていくことが期待されます。

 

画像はShojinmeat Project提供。

 

いつになるんだ培養肉

 

 結局いつになったら培養肉が市場に出回るようになるのでしょうか?技術発展の度合いや社会受容に大きく左右されるため、こればっかりはまだ誰もわかりません。実際に広まるとなると、培養肉の「コスパ」が既存の肉を上回ることが重要であり、この地点(以下スライドでは、Price Parity pointとしています)を到達すると本格普及が始まることが考えられます。

 

 PP(Price Parity)未達、すなわち培養肉の「コスパ」が既存の肉を下回っている時点では、新しい技術が従うと言われているハイプ曲線をなぞることになるでしょう。近年代替タンパク質に関する報道が増えてきており、まさにハイプ曲線を駆け上がっています。しかし、ピークを迎えた頃に生産されている培養肉では明らかに商品力不足の可能性が高く、期待バブルがはじけ、関心や投資が離れていく可能性が高いです。そんな中でもプレーヤー達の地道な努力によって着実に技術が進歩し、2030年頃には培養肉の本格普及に大きく近づくのではないでしょうか。

 

画像はShojinmeat Project提供。

 

 注目度が高まり、関わる人が増えていくにしたがって動きも盛んになっていきつつある中、細胞農業、培養肉の今後の行方に注目し自分でもいろいろと考えてみると面白いでしょう。

 

 さて第1回の細胞農業の紹介に始まり、第2回の代替タンパク質市場からみた細胞農業、第3回の日本の取り組み、そして今回の情報源の紹介と細胞農業、培養肉の展望、と細胞農業に関わる様々な内容を取り上げてきました。個人的には、日本にとってはプレーヤーの増加と、社会受容の議論の活発化が重要であると考えています。その一環として多くの人に細胞農業、培養肉とはそもそも何かを知ってもらい、興味と関心を持ってもらうことが大切であると考え、本連載を執筆しました。

 

 ここまで読んでいただいた方が人類の食と地球の未来に少しでも想いをはせるきっかけになってくれたらとても嬉しいですし、またこの連載が何かしら良い影響を与えられるものであったら最高です。

【細胞農業連載】① 培養肉とは?〜細胞農業による食料生産〜

【細胞農業連載】② 代替タンパク質市場の現状と細胞農業が注目される理由

【細胞農業連載】③日本におけるさまざまな取り組み

同じ記者の記事

関連記事

合わせて読みたい

INTERVIEW / PROFESSOR 2019年06月11日

西成活裕教授インタビュー 渋滞学・無駄学の第一人者に聞く 流れを見渡す重要性

COLUMN 2019年11月11日

【研究室散歩】@赤ちゃん学 開一夫教授 予想と異なる結果を絵本に

NEWS 2014年05月12日

ニコニコ超会議は、学問を身近にする

COLUMN 2019年01月07日

【駒場のアツいゼミ特集②】「ココロのトリセツ」ゼミ 交流重視の授業通じて心との向き合い方学ぶ

NEWS 2019年11月26日

宇宙最大の爆発現象 初めて正確に観測

TOPに戻る