COLUMN 2019年10月2日

診断・治療は慎重に 発達障害の実態に迫る

 「東大には発達障害の学生が多い」という話をたまに耳にする。近年、発達障害はメディアで取り上げられることも多く、自分が発達障害ではないかと悩む人も増えている。その増加の要因や発達障害で悩む人への適切な教育やサポートについて東大教員に話を聞き、実際に発達障害と診断され悩みを抱えている学生にも話を聞いた。

(取材・本多史)

 

変人らしく堂々と

 

中邑 賢龍(なかむら けんりゅう)教授(先端科学技術研究センター)84年広島大学大学院博士課程後期単位修得退学。香川大学助教授などを経て、08年より現職。

 

 

 

 「発達障害は誰もが有する認知や性格特性の偏りが環境とマッチせず不適応を引き起こした状態だと考えます。発達障害で悩む人の多くは、読み書きやコミュニケーションで困っているだけです」。そう切り出したのは、中邑賢龍教授(先端科学技術研究センター)。中邑教授は、発達障害で悩む人の増加原因として、産業構造の変化を挙げる。かつての日本では農業や工業が中心となっており、それほどコミュニケーションが必要とされなかった。しかし、サービス業のような第3次産業が中心となったことで、読み書きやコミュニケーションが必要となる職業が増えた。結果、仕事に悩む人が増え、その救済のための枠組みとして発達障害が注目されるようになったと分析する。

 

 一方で、そのような枠組みにとらわれ過ぎてしまい、子供を発達障害と診断して治療することには慎重になるべきだという。学校では「あいさつが出来て明るい子」が、企業では「コミュニケーション力のある学生」が求められる。そのため、あいさつや会話が苦手な子は、規範の押し付けによって苦しむことになる。「今の学校では集団に入らず1人でいることが暗いとされ否定される。周囲の人間はその子の特性を尊重してあげるべきです。特性を否定せず、目も合わせてはっきりした声であいさつできない人でも認められる世の中になるとすてきだと思います」と中邑教授は話す。

 

 治療の過程でストレスを抱えて苦しむ人も多い。発達障害という枠組みによって福祉面でのサポートは充実したが、発達障害を理由に物事への挑戦をためらってしまうというデメリットもある。発達障害で苦しむ人が社会で活躍するには、その人の得意なことを生かしたり好きなことができたりするような、仕事の多様化が求められるだろう。

 

 中邑教授は入試制度にも改善の余地があると話す。例えば、ほとんどの大学入試で英語は必須科目だが、そのことで他の科目に突出して秀でている学生に不要な負担をかけている可能性があると指摘する。日本の学校教育は平均的な学力を付けることを目標としており、得意科目を伸ばすのではなく、苦手科目をなくすことが指導の方針になっている。結果として、一部の分野に突出した能力や好奇心を持つ生徒は他のことに時間を割かれ、自分の好きなことを追求する機会が失われてしまう。この背景には、何でも型にはめてしまう効率主義があると考えられる。標準化をすることで管理がしやすくなり、反発も減らすことができるからだ。

 

 発達障害で悩む人にとって最大の懸念事項の一つが就職だ。中邑教授は、自分の好きなことで起業したり、好きなことを副業でやることを勧める。生活のためのベーシックインカムとして企業で働きながら、副業で好きなことを追求するなど、柔軟な働き方が考えられる。また、コミュニケーションが苦手な人は、無理に集団行動しなくても良いと考える。「集団が苦手なのに、ストレスを抱えてまで、集団で結束しようとする必要はないです。ハブとなる人間が個人とつながっていれば十分ではないでしょうか」

 

 中邑教授は、長時間働けない人のために、「超短時間雇用」という取り組みを行っている。一か所でずっと働くのが苦手であれば、短時間で複数の箇所で働けば良いという考えだ。

 

 中邑教授は、ユニークな子供たちが自分らしさを発揮できる環境をつくるため、「異才発掘プロジェクトROCKET」の運営もしている。ROCKETでは、ユニークさ故に学校になじめない子が多く、その中には発達障害と診断された子もいるという。同プロジェクトに、キノコマニアの子供が参加した。彼はキノコに夢中だが、理解してくれる子供は周りにいないため、学校で友達ができない。しかし、彼がとってきたトリュフなどをシェフたちに見せると、高値で買うという。子供たちは学校という狭い世界の中に閉じこもっているから、ユニークな子供は理解者を得ることが難しい。だが、価値が認められる場所を用意することで、人一倍の輝きを放つ可能性を秘めている。必要とされているのは、輝ける場所を見つけて用意してあげられるプロデューサーだ。自分と合わない場所にいるとストレスがかかり二次障害に発展する場合もあるので、周囲の助けを借りながら自分に合った場所を見つけるのが大事だ。

 

 中邑教授は、発達障害で悩む東大生にも同じようなアドバイスをする。「周りの言うことを気にし過ぎず、自分の得意なことを見つけて、同じことをやっている仲間の所に行きなさい。自分に合った環境を見つけて、変人は変人らしく堂々と生きましょう」

 

当事者の声

 

コミュニケーション・サポートルームの相談室。東大生の発達障害に関わる悩みの相談にも応じている(写真はコミュニケーション・サポートルームより提供)

 

山中優里さん(仮名)(理・3年)

 

 今年ADHDと診断された山中さんに話を聞いた。

 

━━ADHDを診断された経緯は

 

 1年の秋ごろに他のメンタル系の悩みで保健センターの精神科を受診したところ、ADHDの傾向がありその2次障害ではという話になりました。ただ、2次障害の方が重くその治療に専念したため、ADHDについては後回しになりました。3年になって、ADHDの先輩に勧められコミュニケーションサポートルームに行きました。予約もその先輩がとってくれたのですが、自分では何が問題なのか分からず、何でも相談室や学生相談所にも相談しました。

 

━━診断されたときはどう思いましたか

 

 「もっと早く知りたかった」という思いが強かったです。出来ればメンタルがしんどくなる前に知りたかったです。努力して東大に入ったのに、授業に集中することができず、成績も思うように取れなくて悩みました。その時ADHDと分かっていれば、適切なサポートを受けてメンタルの負担を減らせたかもしれません。

 

━━ADHDに関連していそうな悩みはありますか

 

 一番困っているのは、大学の授業と実験ですね。授業はとにかく集中して聞けないです。実験では器具を割ってしまったり、試薬をこぼしたりすることが多いです。他にも、頻繁に物をなくしたり、物事を後回しにしがちです。

 

━━自分なりの対策はありますか

 

 最近ではなくしものを減らすために、必要なものを一つの袋にまとめて、袋ごとかばんに入れるようにしています。他にも、洗い物を後回しにしてため込んでしまうので、使い捨ての皿や箸を使うようにしています。

 

━━大学の支援体制はどうですか

 

 おおむね満足ですが、実験の際にミスを減らすために机を広くしてほしいという要望を伝えても通らなかったので、少し融通が利かないと思います。コミュニケーションサポートルームは非常に混んでいるのですが、理学部支援室は同じような支援をしてくれて空いているので、利用しやすかったです。


この記事は2019年9月17日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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