INTERVIEW / FEATURE 2018年12月17日

東大の決定「ありがたい」 英語民間試験 教育現場、負担の少なさ歓迎

 大学入試センター試験に代わり2021年から始まる大学入学共通テストでの英語民間試験の利用を巡る議論の末、9月に東大の入試監理委員会が決定した21年度一般入試の出願要件追加(表1)。高校生や合格した東大生らと直接向き合う、東大内外の教育現場の反応を探る。

 

(構成・一柳里樹)

 

高校教員の声 新要件、特別の対応必要なし

 

 

 今年の3月まで全国高等学校長協会会長を務め、民間試験への問題提起を続けてきた宮本久也校長(都立八王子東高校)は「よく考えられた決定だ。制度の問題点に真っ正面から向き合った上で、A2レベルという他大学も準用できる出願資格の基準を示しつつ、民間試験の利用自体を否定しないなど各方面への配慮も見せている」と高く評価。新テスト導入が2年後に迫る中、近くに受験会場がない地方の高校生にとって民間試験受験が重い負担になるなど「多くの課題が解決されていない」現状を不安視していた高校関係者にも「非常にありがたい」との声が多いという。

 

宮本久也(みやもと・ひさや)校長
(都立八王子東高校)

 

 制度変更を不安視する生徒や保護者には「大きな制度変更はなく、日々しっかり英語の授業を受けていれば対応できると伝えている」。宮本校長の勤務する八王子東高校では、1、2年生全員が民間試験を受験。他の高校でも、東大受験生が多い進学校の大半は、3年生までにほとんどの生徒が民間試験を受験している。そのため、一部で教員の主観による判定のばらつきが懸念される調査書でも「民間試験の結果を基準に、ある程度客観性を持って生徒の英語力は判断できる」。

 

 英語の授業も、ここ数年で4技能を意識したものに大きく変化。「受験のためではなく、英語で行われるものもある大学の授業に対応でき、大学でやりたい勉強ができる基礎をつくるために英語に力を入れる高校が増えている」。八王子東高校には、ネーティブの英語教員も3人所属する。

 

 22年以降の入試も見据え、東大には「出願要件として求める英語力の水準が上がると、高校の授業が民間試験対策に終始してしまう。民間試験のハードルを低く、ウエートを小さくした入試制度を続けてほしい」と求めている。

 駿台教育研究所進学情報事業部長の石原賢一さんも「一般的な学力の東大受験生なら大きな負担にならない、妥当な出願要件だ」と歓迎。受験生には「後期併願大学や私立大学の入試を考えると、民間試験は受験すべき。入試対策にとどまらず、留学や就職の際、また社会人になっても英語力を示す資格として利用できる」と助言する。

 

養・英語部会からの声 「引き続き良心示して」

 

 1、2年生に英語を教える教養学部英語部会の教員は、今回の決定をどう見るのか。中尾まさみ教授(総合文化研究科)に聞いた。

 

中尾 まさみ教授
(総合文化研究科)

 まずは、公平・公正な実施の確証が得られないまま受験生全員に民間試験を課す道を取らないという決断を歓迎したい。調査書等を認定試験結果と同等に扱い、高校までの教育成果を重視することは、高大接続に整合性をもたせ、性急な民間試験対策による高校教育のゆがみを防ぐ意味もある。英語力という一能力を全員の出願要件として課すことの是非など課題は残るが、現時点でできる限りの努力を示していると思う。

 

 大学執行部には22年度入試以降も、受験生の不利益回避と本学の教育理念の尊重を旨とした方針を貫いてほしい。CEFRは、4技能の枠組みはコミュニケーションの実態把握に不十分だとの議論に移行している。事態が流動的に変化する中、東大は引き続き建設的な議論と論理的な判断で、教育機関としての良心を示す必要がある。

 

国大協の反応 方針護持も「東大の決定は尊重」

 

 

 

 昨年11月に、民間試験を国立大学の一般選抜の全受験生に課すとの基本方針を決定した国立大学協会(以下「国大協」)入試委員長の岡正朗学長(山口大学)は「各大学がアドミッション・ポリシーに基づいて受験生を選抜するのが大原則。今回の東大の決定は国大協の考えに反するものではないし、アドミッション・ポリシーに基づいて下した決定は尊重したい」と静観の構えだ。調査書の活用についても「各高校の教員が記載したものを東大がいかに認定し、その透明性をどう担保するか、12月の詳細の発表を待ちたい」。

 

 東大のワーキング・グループが7月の答申で、民間試験利用について各大学の裁量権が広がるよう国大協の基本方針(表2)の変更を求めたことについて聞くと「各大学の意見を聞き、長い間議論をして出した結論。国大協の総会で総意により承認を受けたという事実は重い」と護持を明言した。国立大学間で民間試験の扱い方が大きく異なれば「受験生の不利益になるのではないか」と、全受験生に民間試験を課す基本方針の必要性を強調する。さらに民間試験には懸念点も多いが、新テストの1期生は現在の高校1年生に当たり、速やかに民間試験の活用策を示す必要があったという。

 

 国大協はこれまで、文部科学省に何度も民間試験の改善を求めてきた。民間試験の公平性の担保や支援が必要な受験生の受検料など、現在も対応を検討中の懸案は多い。「すぐに回答が出るものばかりではない。協議を重ねながら、文科省の対応策を待ちたい」

 課題を与えられた文科省。大学入試室によれば現在、民間試験の時期・会場などのニーズを各高校に調査中だという。「調査結果を踏まえ、会場追加や受検料値下げなどの配慮を求めていきたい」。新テスト導入は2年後。文科省と国大協に残された時間は短い。


この記事は、2018年11月27日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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