COLUMN 2019年4月3日

正解なき分野で生み出す新たな価値 ~人気上昇中?グラフィックデザインの魅力とは~

 テント列、サークルオリエンテーションといったイベントが終わり、各団体の新歓活動は佳境を迎えようとしている。宣伝のために壁に貼られるポスターや配られるビラ、あるいは各団体のホームページなどを見ると、デザインの凝ったものが少なくない。今回は、このようなデザインが東大生といかにつながっているのか探るべく、駒場で開催されるデザイン講義の運営陣と、実際にさまざまな団体にデザインで関わってきた学生に取材した。(取材・村松光太朗

 

視覚を通じたコミュニケーション

 

 駒場キャンパスで毎年開講される主題科目「グラフィックデザイン概論」。4月初めの初回授業でガイダンスを行い、そこで40人ほど受講者を選抜しなければならないほどの人気講義だ。開講者の保田容之介非常勤講師(以下、保田)と、今年度の講義でTAを務める学生2人(種田裕紀さん、伴玲吾さん)に取材した。

 

TAの種田 裕紀(おいだ・ひろき)さん(文Ⅱ・2年)伴 玲吾(ばん・れいご)さん(理Ⅰ・2年)

 

 保田 本講義の意図を正しく理解してもらうためには、まずデザインの定義が必要です。私たちにとってデザインとは「視覚的なコミュニケーションの手段」であり、「情報発信者と受信者の関係性を考えること」でもあります。特に前者のような文脈では「グラフィックデザイン」と呼ぶことも多いです。

 

 種田 高校までの美術のように自己表現を貫くことはデザインの本質ではありません。誰かに何かを伝える場面における一つのコミュニケーション手段なのです。例えば官僚やビジネスマンであっても理系研究者であっても、事業や研究の内容を誰にでも分かるように説明する必要があります。そのための資料やスライドなどに効果的なデザインを施すと、大きく伝わりやすさが変わるでしょう。

 

  このようにデザインを直接の専門としない人々や学生にとっても、デザインはより身近なものになってきました。この流れを支えたのが、デザインのソフトウェアです。私の周囲でも、デザインを専門としていない学生がソフトウェアを使ってデザインをしているところをよく見かけるようになったと感じています。

 

 保田 他の大学と比べても、東大生のデザインツールへの興味関心は高い印象です。デザインという比較的新しい分野に対する東大生の好奇心の高さを反映しているのかもしれません。東大生にはその好奇心を生かして、在学中ひいては卒業後のキャリアでもデザインの知識を使えるようになってほしい。そして、新たな価値を創造できるようになってもらいたい。このように考え、2014年に本講義を開講しました。

 

 種田 実際の授業設計には我々TAも大きく関わっています。受講生は、まず色や文字のフォントといった視覚的なデザインの理論を座学形式で学び、その後、学生同士でチームを作ってデザインの実践を行います。重要なのは実践終了時に行う学生同士のフィードバックです。デザインはコミュニケーション手段という最初に述べた定義から、情報がどう伝わっているのかについて他者の目線を知る必要があると考えたので、取り入れています。

 

授業で扱う理論の例① プレグナンツの法則
無意識下で情報がグループ化される法則。左ではCと比べて隣接したAとBがひとまとまりに見える一方、右では書体の同じAとCがひとまとまりに見える。

 

授業で扱う理論の例② グーテンベルクダイヤグラム
視線が左上から右下に流れることを利用した配置パターン。左上と右下の情報の優先順位が高くなる。記者の渡した名刺のデザインも理に適っていたようだ。

 

  ビラや資料など、実践的にデザインする対象となるのは、色や文字といった基本単位の複合体です。先に述べた講義方式は、基礎をしっかりと固めた上でそれらを組み合わせ応用的に生かすという形をとっており、多くの東大生が受験で体験した道筋を踏襲するものです。ある種、東大生の上達法に合致する講義方針だと考えています。

 

 保田 最後にもう一つ、この講義を受ける前と後では、周りの景色もかなり変わって見えることでしょう。というのも、日常的に見るさまざまなデザインについて、それまで気づかなかった視点から新たな発見ができるようになるからです。街中を歩くだけで楽しいデザインの勉強ができるようになるのです。(

ガイダンスは4月5日(金)の5限目にKOMCEE West K214で行われる。詳細は公式サイト(http://u-tokyo.design)を参照いただきたい。Twitter:@utokyo_design

 

曖昧な思いを形に

 

 大学に入ってからデザインを始めた西丸颯さんは、さまざまな団体のビラやロゴのデザイン、およびウェブページのUI(ユーザーインターフェース、サービス利用者とコンピューターをつなぐ機能の総称)のデザインに関わってきた。デザインを始めた経緯、デザインを通して学んだことや苦労したことを尋ねた。

 デザインには高校時代に興味を持ち、大学でデザインサークルのDP9に入りましたが、本格的にデザインを始めたのは1年次の1月ごろです。新歓活動に向けてさまざまな団体からDP9にビラの制作依頼が入る時期で、私は日中学生会議と運動会弓術部の依頼を受け、ビラを制作しました。絵を描くのは得意でなく、できるのはパソコン上で図形や色、文字を組み合わせることです。その制限下でどうすれば魅力的なものができるか考えることに、難しさと同時に面白さも感じました。夢中になって1日中パソコンに向かう日々が続き、睡眠不足になりました(笑)。

日中学生会議のポスター(画像提供:西丸さん)
弓術部の新歓パンフレット表紙(画像提供:西丸さん)

 

 2年になってからは東大美女図鑑などでロゴデザインに携わった一方、大学の先輩が通う会社から誘われウェブページのUIデザインにも手を出すことになりました。やる気はありましたが、最初はウェブデザイン用のツールの使い方など最低限の常識を習得することに精一杯で、納得のいくものは作れませんでした。それでも根気よく勉強するにつれて、ある程度UIに関する知見が深まっていったかと思います。

Bizjapanのウェブサイト(画像提供:西丸さん)

 

 さまざまな団体から要請を受けてデザインをする中で、意識するようになった点がいくつかあります。まず、とにかく団体の関係者と話すこと。関係者の考えや感情をくみ取らず、最終的に出来上がる作品が作り手の独り善がりになってしまっては誰も得しません。実際にこのことで、依頼主からデザイン案を丸ごと却下されるという痛い失敗を経験しました。また、考えたデザイン案は大雑把なものでもすぐに共有することも大事だと思います。より良いものになる余地があるのに、現案に必要以上の愛着が湧くと、柔軟性がなくなってしまうからです。

 

 東大美女図鑑のロゴを新しく作る過程では、編集部員の思いを聞いては案を出すことを繰り返すうちに、部員たちが抱いていた団体そのものの価値をふんわりと掘り起こせたと考えています。誰に見てほしいのか、どのように形にすべきかといったところは論理で考え通しましたが、関係者たちが漠然と抱く曖昧な部分を許容したままアウトプットにつなげるのもまたデザインの役割なのかな、と思うようになりました。

 

東大美女図鑑のロゴ(画像提供:西丸さん)

 

 デザインはある種マラソンのようなものだと思います。作っている時は行き詰まることもあるし、大体つらくなります。しかしその分、出来上がった時や誰かに喜んでもらえた時のうれしさもひとしおでしょう。そして、これからデザインを始めようと考えている東大生には、デザインの力を信じて突き進んでほしいと思います。最後のブラッシュアップを1ミリ単位で行うぐらいの執念で、デザインそのものやそれを必要としている人々に真剣に向き合ってみてください。そうすれば、自分なりに納得のいくデザインに行き着くかもしれません。(

 

西丸 颯(にしまる・そう)さん(経・3年)

この記事は、2019年4月2日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナル記事を掲載しています。

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推薦の素顔:小野寺改主さん(文Ⅲ・2年→養)
東大新聞オンラインPICKUP:留学編
キャンパスガール:大槻春歌さん(文Ⅲ・2年)

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