イベント

2016年7月29日

途上国支援の最前線を追う 東大農学部主催イベント

写真は農学部国際開発農学専修提供
イベントを主催した学生による途上国支援の様子(写真は農学部国際開発農学専修提供)

 

 東京大学農学部国際開発農学専修が主催する「2016年度第1回国際開発フォーラム」が7月17日(日)に弥生キャンパスで開催された。「途上国支援の最前線‐ODAの運用を追う‐」というテーマのもと、途上国支援や国際協力に関心のある学生約30人が、大学・学部・学年の垣根を越えて集まった。

 

 イベントでは、学生が国際開発の面白さや難しさを体験することを目的に、前半は国際協力機構(JICA)の篠原雄之氏と開発コンサルタント(日本工営株式会社)の生沼晶子氏による講演、後半は実際に開発計画を考えるワークショップが行われた。

 

そもそも「開発」とはなにか?

(撮影・田辺達也)
参加者に開発について問いかける篠原さん(撮影・田辺達也)

 篠原さんは「開発をシコウ(思考・施行)する」をテーマに、開発の定義や実際のJICAでの活動について講演した。冒頭では、自身のラオスでの経験を基に、開発とは何かを再度考え直す必要性を訴えた。「日本による開発が60周年を迎えたラオスにおいて、いまだに病院で患者が、布団もなく、硬い板のベッドに直接寝ていました。本当に開発の成果は出ているのでしょうか? 僕は少し失望しました」と語る篠原さん。「開発とはなにか?」という問いは、根本的であるが深く考える機会は少ない。

 

 篠原さんは開発を、“国際的な社会課題を解決するための公的支援”だと定義する。ここでいう社会課題とは、例えば失業のように、資本主義によって生じながら既存のロジックでは解決できない問題のことだ。民間企業が扱いにくい問題だからこそ、公的な支援が必要になる。このように、開発の位置づけを再度整理していくことが、ODAについて考える上で重要だという。

 

「どこに犠牲がでるのか?」を明らかにすることの大切さ

 

 ODAとは、発展国への①技術協力②無償資金協力③有償資金協力―を指す。JICAがODAに関して行う仕事は、開発のニーズを現地で調査し、途上国に働きかけて要請を受け、日本政府の審査を通過した案件を開発コンサルタントに委託するというものだ。開発案件の大まかなアイデアを考えるJICAの仕事において重要なのは、開発による犠牲がどこに生まれるのかを把握することだという。

 

 「“特定の犠牲を生みながらも、その他大人数を救うべきか?”というアポリア(難題)はODAを行う上で必ず現れます。そのアポリアに対して自分の立場を明確にしていくことが大切です」。篠原さんは、現代社会はどこに犠牲が生まれているかがうやむやになっていながらも、確実に犠牲が出ている社会だと語る。犠牲の存在をしっかりと認識しながら、自分の決断を下すことが求められているようだ。

 

開発コンサルタントの仕事とは?

(撮影・田辺達也)
開発コンサルタントの仕事内容を話す生沼さん(撮影・田辺達也)

 講演の後半、生沼さんは開発コンサルタントが実際にどんな仕事をしているのかについて話した。開発コンサルタントは、JICAの案件を受けて具体的な開発の内容を考える役割を果たす。例えば、農村インフラの整備や農産物の販売・流通の改善などの具体的な方法を思案することなどだ。その際、日本企業に有益なプロジェクトにしたいという日本側の関心と現地の関心をうまくマッチさせることも求められる。

 

 「農業は自然を相手にする仕事なので、思い通りにならないことも多いです。開発コンサルタントは、臨機応変に対応できる柔軟性が求められます」と語る生沼さん。また、いろいろな国に行き、さまざまな文化に接することができるのも、仕事の面白さの一つだという。

 

実際に開発を考えるワークショップ

(撮影・田辺達也)
グループごとに熱心な話し合いが行われた(撮影・田辺達也)

 講演の後は、「ベトナムのフードバリューチェーンを日本型に近づける」という課題についてのワークショップが開かれた。フードバリューチェーンの構築とは、農林水産物の生産から、製造・加工、流通、消費に至る各段階の付加価値をつなぎ合わせ、食に関する価値の連鎖をつくることだ。ワークショップは学生が約5、6人ごとに分かれ、6つのグループで行われた。

 

 第一部では、「ベトナムのゲアン省においてフードバリューチェーンを構築する意義を明らかにし、相手国の要請がもらえるよう説明する」というJICAの立場にたったテーマ。第二部では、「ベトナムのゲアン省で日本のようなフードバリューチェーンを構築するにはどうすればよいかを説明する」という開発コンサルタントの立場にたったテーマが与えられた。参加者は手探りの状態の中で、ベトナムの農業の現状や開発の先例などを探しだし、グループでまとめた考えを発表。それに対し、講師の篠原さんと生沼さんによる丁寧なフィードバックが行われた。

 

写真は農学部国際開発農学専修提供
途上国ではフードバリューチェーンの構築が進んでいない(写真は農学部国際開発農学専修提供)

 

 このイベントを主催する農学部国際開発農学専修の学生は、「国際協力に関心のある学生は多いですが、実際に開発に携わる方の話を聞いて意見を交わし、自分たちにフィードバックを貰える機会は多くありません」と語る。国際開発フォーラムは年に2、3回開催されている。国際開発の現場を体験できる貴重な機会をより多くの学生に活用してもらいたいというのが、イベントを主催する学生たちの願いだ。

 

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(取材・分部麻里)

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