キャンパスライフ

2019年11月14日

やりたいこととじっくり向き合う 休学の魅力に迫る

 休学制度を知っている人は多いだろうが、休学者がどのような動機で休学し、一体どんな活動をしているか知っている人は多くないだろう。十人十色の休学活動を、この4月から1年間休学している2人に語ってもらった。

(取材・田中美帆)

 

映画の聖地で誇れる経験

 

渡邉 美咲(わたなべ みさき)さん(養・4年)

 

 幼少期から物語を作ることが好きだった渡邉さん。小学生の時は絵本を作り、映画に出会った中高時代は「映像表現の壮大さに引かれて映画の脚本作りにいそしみました」。大学でも映画製作サークルに所属し、映画作りに熱中していた。

 休学を考え始めたのは学部3年次の4月。ずっと行きたかった留学を真剣に検討し始めたことがきっかけだ。「学部3年次まではいつも何かに追われている感じがありました。就職前にゆっくりと自分を見つめる機会が欲しかったんです」

 

ホストマザーに連れられて、ハリウッドで収録されている有名なテレビショーを観覧(写真は渡邉さん提供)

 

 休学期間は3年次が終わってからの1年間。4月から6月はロサンゼルスの語学学校キングス・エデュケーションに留学し、ハリウッドの監督が指導するイングリッシュプラスフィルムプログラムに参加した。4月は座学を受講。5、6月は各生徒が実際に脚本を書き、監督・役者・カメラマンをクラスメート9人で持ち回り映画を撮影した。

 

 「それまで独学で行っていた技術面に対しプロの指導を受けられたのが良かったです」としみじみ語る。中でも脚本面では、言葉で説明し過ぎず受け手の想像力に任せることを学んだ。

 

 一方、監督役には苦労したという。英語で話すことが苦手だったため、言いたいことがうまく伝えられず歯がゆい思いをした。演技面でも「英語のセリフを覚えるのに精いっぱいなのに、アドリブを入れてくるクラスメートもいて困りましたね(笑)」。しかし3カ月の留学を経て英語で話すことが楽しくなったという。

 

 プログラムを通して「映画が好きだと改めて実感し、帰国後も脚本を書いて映画を作りたいと強く思いました」。また、初の海外生活で、人との付き合い方や暮らし方における新しい価値観に触れ「もっといろいろな所に行きたくなりました。陳腐な表現ですが、世界が広がりましたね」。

 

 帰国した7月以降は、主に三つの活動に専念している。一つ目はサークルでの映画製作。現在は、留学先で得た知識を基に新しい脚本を考え始めている。二つ目は、友人の声掛けで参加した企業との共同CM制作。現場ではプロの思考プロセスを知れるという。三つ目は東京国際映画祭を運営する団体でのインターンシップ。映画祭の裏側を知ることができ興味深いとか。「みんな映画が好きなことが伝わってきます。楽しく、でも責任を持って業務をこなしていて、働き方の参考になります」

 大学院進学の予定はない渡邉さん。現在秋冬インターンを視野に入れている。「テレビ局や制作会社を検討しています。ドラマなどの映像で物語を伝えたいです。学んできたことを生かせたらと思います」

 

 休学を迷っているならするべきだと勧める。何かを深めたいと思ったとき、授業と両立しながらだと難しいことが多い。自身に関しても「中途半端でなく、十分やったと満足できるようにしたかったんです」。1年遅れることに抵抗を感じる学生もいるかもしれないが「『この時期にこんなことをやっていた』と人に誇れる経験ができるのは素敵なことだと思います」。

 

休学での学び事業に生かす

 

金子 真大(かねこ まさひろ)さん(育・4年)

 

 「他者から見ると変なことに思えても実は筋が通っていて、微妙に手が届きそうな挑戦を100歳までやり続けるのが人生目標です」と強く語る金子さん。就職するなら、本当にやりたいことが可能で柔軟な働き方ができる企業がいいと考えていたがなかなか存在しない。就職か進学か、あるいは学部1年次に起業した教育系企業を続けていくかを決めるのに時間が欲しくて、休学の道を選んだ。自社の規模拡大で、大学との両立が難しくなったことも背景にあるという。

 

株式会社ABEJAでのインターンの成果発表説明のプレゼンテーション(写真は金子さん提供)

 

 申請した休学期間は学部3年次が終わってからの1年間。4月は自社の事業に注力。5、6月は並行してAIベンチャー企業のインターンシップに参加した。各方面に秀でた「尖った人材」がそろった、個人の裁量が大きい職場で、社員1人が勝手に始めた事業に周りが賛同し、社内で収益を生む事業にまで発展する環境を目の当たりに。「周囲で絶えず新しいことが誕生する環境なら、他の人のやりたいことに乗っかることで常に新しい挑戦を続けていけると気付きました」

 

 この気付きを基に、自社の制度設計に焦点を当て、7月に教育中心だった会社方針を転換。「テクノロジーやアートに素養のある『尖った人材』を集め、おのおのがやりたい新しいことを皆で実現していく挑戦の場を目指しています」と熱弁する。会社としての就業時間制約などはなく、リモートワークも盛んと柔軟な職場であることも特徴。「皆が活動しやすい環境をいかに作るかを日々考えています」

 

 方針転換後の「尖った人材」による会社の事業として、7月には個人の学びを支援するコーチングアプリの製作が本格化した。9月にはファッション事業も開始。日常生活では着ないような独創的ファッションや、ファッションアートに力を入れる。教育とITにおける海外市場のリサーチ事業も手掛けるなど多様な挑戦に取り組んでいると生き生き語る。

 

 今後の休学期間は「各事業に注力し、自分がいなくても事業が回り収益が上がる状態にしたいです」と意気込む。休学期間を経て「大学に戻って卒業した後はこの会社を続けたいという意思が固まりました」。

 

 休学の利点は「大学の授業などの制約がなくなり柔軟に動けるようになったことです」。企業との打ち合わせにも制約なく参加できる。空いている時間には、多種多様な業界の人と会う予定を際限なく入れているという金子さん。「新しい知識や人脈は可能な限り広げたいので、アポイントメントは断りませんね」

 

 やりたいことがあるなら休学は一手だと勧める。「大学という狭い世界や就活という画一化された世界から一度抜け出してこそ分かることもあります」。一方、だらだら時を過ごさないように、何をいつまでに終わらせるという見通しをあらかじめ立てることは重要。「休学するなら休学を終わらせるときのことを考えて、充実した時間を過ごしてください」

 

【記事修正】2019年11月15日14時30分 渡邉さんの見出しを一部修正しました。


この記事は2019年11月5日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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